イスルギ・カヤ/クロノスの剣技~兄と妹~
アキトとアリスが身構えた瞬間、私たちは一瞬の内に闘技場の外側に強制転移させられてしまった。
おまけに闘技場には不可侵の結界が張られている。これで中と外で干渉が出来なくなってしまった。
闘技場の中心にいるノアが私たちに言う。
「他の人たちはそこで見学していてよ。この世界の行く末を」
(たった一瞬で私たちを闘技場の外側に転移して、更にこれほど強力な結界を……)
ノアの容姿は人の体を成した光の塊に過ぎないけれど、その内に秘める魔力は本物だ。あの黒龍グリヴァースすらも遥かに凌駕している。
結界の内部にいるアキトとアリスはそれぞれの剣を構えてノアと対峙している。
「兄上、私から行きます」
「いやさすがに妹から行かせるわけには行かねぇだろ兄として」
「いえ、私は兄上の剣にして、先駆け。先駆けは年下である私の務めです」
「俺はな、危険だからやめろって言ってんだ」
「いいえ、私から!」
「俺から!」
(こんな時に喧嘩なんてね……。本当に大丈夫かしら?)
ノアが呆れた様子で言う。
「それなら、同時に来れば良いんじゃないかな?」
「あっ、それはいい案だな」
「あっ、それはよい案ですね」
アキトとアリスはそれぞれ腰を落として突撃する構えを取った。
目に留まったのはアリスの構えだ。
抜身の剣の切っ先を斜め下に向けて腰を落とすその構えは、シズクさんの構えと全く同じものだった。
シズクさんがその構えを見て言う。
「あれは『明鏡の構え』? 忍でも私しか体得していない特殊な構えです。私が未来でアリシア殿に剣術を教えていたという話は本当だったようですね」
――――その一方、結界の内部では。
「行くぜ、アリシア!」
「はい、お供します! 私たちの剣で、未来を切り開来ましょう!!」
「あぁ! バッドエンドなんて誰も望んでねぇ。俺たちの手で回避してやるさ!」
アキトとアリスが同時に駆け出した。
アリスは、ノアに向かって左。対してアキトは向かって右。
それぞれが眼にも止まらぬ速さで接近し――――同時に、剣を振った。
「せぁあっ!」
「せぇやっ!」
鋭い一撃であったものの、ノアは素手でその攻撃を止めてみせた。
「どうしたの? こんなもの?」
「んなわけねぇだろ! 出ろ、幻影剣!!」
アキトの掛け声に合わせ、背後に三本の幻影剣が出現した。
「貫け、三光!」
三本の幻影剣がノアに突撃するも、全てが見切られて躱されてしまった。
「遅いよ」
「はっ、もう一本の剣が見えてねぇな」
「っ!?」
「神速抜刀術――『明鏡止水』!!」
アリシアの超高速の居合抜刀術がノアの首筋を捉えるも、ほんの僅かの所で、それも躱されてしまう。
ノアは後方に飛んで、二人から距離を取った。
「逃した!? ごめんない、兄上」
「いや、上出来だ。今ので、ノアがこっちの攻撃が効かないデタラメな奴じゃないってことは分かった」
アキトが指差したのはノアの首筋。
そこには一筋の傷が出来ており、その傷からは血の代わりに光の粒子が噴き出していた。
ノアは不可思議そうにその傷に触れる。
「おや、完璧に躱したと思ったんだけどね。その魔剣の能力かい?」
改めてアリスの手元をよく見ると、アリスが持つ魔剣グラムの切っ先から『光の刃』が数センチだけ伸び、リーチが拡大していた。まるで光剣フィクサの様だった。
「【中級光魔術】の能力を『同調』させました。父上より賜りしこの剣、見かけ通りの刃渡りでは無いという事をお含みおきを」
「面白い発想だね。どれ……ひとつ真似をしてみようか」
ノアが両手に魔力を込めた瞬間、それぞれの手の平がモコモコと盛り上がっていき、ブゥンと『光の長剣』が出現した。
ノアはその光の剣の切れ味を見せつける為に光の剣を薙ぎ払った。
その剣の斬撃は真空波となり、闘技場の外側にある湖のその向こうにある森林に到達。
――ザシュザシュザシュッ! ズドォオオオンッ!
木々を斬り倒しながら進んだ真空波は数百メートル先で止まり、その軌跡には無数の切り株だけが残された。
アキトは驚いた様子で【慧眼】でそれを観察して言う。
「その剣……スキルとかじゃなさそうだな」
「うん。ボクにとって言わばこれは新陳代謝の一部だよ。君たちにとっての髪の毛と同じ……と言えばイメージできるかな?」
「髪の毛の威力じゃねぇよそれ……。あんたみたいな反則染みた強さを持ってる奴には、これを使うしかねぇな。最強から一転、最弱になって貰うぜ」
アキトが魔力を練り上げる。
「兄上、五刀ですか?」
「あぁ、出し惜しみは無しだ。出ろ、幻影剣――――戦刃・五光りの構え!!」
アキトの背後に赤、青、緑、紫、黄の色とりどりの五本の幻影剣が出現した。
あれは黒龍グリヴァース戦でも見せたアキトが単独で戦う場合の最強形態。
一応、奥の手として桜花六刀『六花風月』があるけれど、あれは特殊な条件でしか効果を発揮できない。アリスとのタッグで使えるのかどうかは不確定。
次にアリスが魔力を練りあげた。
「兄上に倣い、私も本気で行きますっ! ……聞いていますか、もう一人の私。先ほどの契約を履行して貰います……あなたの力を、借ります!!」
アリスは抜身の魔剣グラムを力一杯、地面に突き刺して叫ぶ。
「私の中の獣よ、目覚めろ!! ――――【獣神覚醒】!!!」
ドォっとアリスの身体から黒い魔力が噴き出し、彼女の頬に猫の髭の様な線が数本、耳の手前まで入った。
「っ……そうですよね、憎いですよね。あなたのその憎しみは、私がこの刃に乗せます!!」
トラウマを克服し、獣神との対話を終えた後だからか、彼女から噴き出す魔力の衝撃は凄まじく、闘技場を覆う強力な結界が震えて割れそうになるほどだった。その魔力の総量はあの【女神の右腕】状態のローゼリアさんをも、優に上回る。
ただ気になるのは、明らかにあの子の体内に宿る魔力量をも大きく逸脱していることだ。
アキトもそれに気付いたらしく、アリスに言う。
「おいおい、それ大丈夫なのか? 魔力駄々漏れじゃねぇか」
「はい、大丈夫ではありません。この力は、大気中のマナを超高速で体内に取り込んで限界以上の魔力消費を可能としますが、燃費がよくありません。短期決戦を所望します」
「はっ、了解だ。俺も戦刃状態をキープはしんどいからな」
二人が戦闘態勢を取ると、今度はノアが攻めた。
「うん、クロノスに相応しい良い魔力だ。それじゃあ、次はボクの――――」
次の瞬間、ノアはアリスの背後に瞬間移動した。
「――――番だね」
「しゃがめ、アリシア!」
「はいっ!」
アキトの合図でアリスがしゃがみ、ノアが薙ぎ払った光の剣の一撃を紙一重で回避する。
その一撃の余波で、結界の外の湖の水が半分ほど吹き飛び、森林に降り注いだ。
「この動きが見えているのかい。なかなかやるね。でも、まだだよ」
ノアは左手に持っている光の剣でしゃがんだアリスに追撃を行うも、アキトの『サクラニマク』による防御が間に合った。
大地を破壊する程のノアの攻撃をアキトの『サクラニマク』は完全に受け切ってみせた。
それを見て、ノアは驚いている様子だった。
「これが噂に聞くサクラニマクだね。ボクの攻撃を止めるなんてすごいじゃないか」
「はっ! 人間の可能性を信じてみる気になったか?」
「それとこれとは別だよ。なんたってボクはまだ――――本気じゃないからね」
ノアの背中に変化が起きた。
背中がボコボコと盛り上がったかと思えば、それは瞬く間に『天使の翼』へと姿を変え、ノアの魔力が更に増量した。
「天使の翼!?」
「いくよ。千光刃」
「っ!?」
羽を生やしたノアが再び光の刃を高速で振るった。
その千にも及ぶ連撃はサクラニマクの絶対防御も瞬く間に砕き、アキトとアリスはその攻撃の余波で紙切れの様に吹き飛ばされた。
二人は空中で体勢を整えて着地し、すかさず反撃に転じた。
「破られたか……アリシア!」
「はいっ!」
アキトがアリスを呼んだ瞬間に二人は同時に動き出し、ノアを挟む様に接近した。
速度とタイミング。どちらを取っても、完全に一致していると言っても良い。とても即席のコンビとは思えなかった。
この阿吽の呼吸は、アキトの【慧眼】によるものだけではない。
なによりも、アリスがアキトをよく見ている。今この時だけじゃない。未来においても、兄であるアキトの背中をずっと見て来たのだろう。
だから、最低限の指示で息が合う――――ちょっとだけ、妬けるわね。アキトとあれだけのコンビネーションを成せるのは私だけだと思っていたのが恥ずかしいわ。
「桜花四刀・『ヤナギミチカゼ』!!」
「『同調』を始めます! 雷帝剣・アマノムラクモ!」
――――ガキンッ! ガキン!
左右から同時に繰り出された斬撃を、ノアはそれぞれ両手の光の剣で受け止めた。
「まだ、ボクには届かないよ」
「手を止めるなアリシア!」
「はい、兄上っ!!」
「「せぇえええあっ!」」
その後、二人は渾身の連撃を繰り出す。
アキトは光剣フィクサと五本の幻影剣の六刀流で絶え間なく攻め立て、アリスは六刀流のアキトに匹敵する程の剣速で連撃を加え続ける。
手練れの剣士十人を同時に相手している様な状況でも、ノアは圧倒的だった。
二人の高速の剣技をノアは器用に捌き続け、最後に力が衝突する。
ギリギリギリと鍔迫り合いの格好になり、二体一でようやく拮抗している状態だ。
「ふむ、なかなかやるじゃないか。翼を生やしたボクについて来られるなんて。でも、所詮は人間の力だ。ボクの全力には、遠く及ばない。飛びなよ」
「「ぐぅっ!?」」
ノアが更に力を解放した瞬間、アキトとアリスが同時に吹き飛ばされ、結界に叩きつけられた。
「いってぇ……アリシア、動けるか!?」
「はい、問題ありません」
「よし、もう一度だ!」
「はいっ!」
アキトとアリスは立ち上がって再びノアに攻撃を開始。
先ほど同様、ノアは二人の絶え間ない連撃を難なく受け止め、あまつさえ反撃を繰り出した。
その反撃もまた、常人には目で追う事すらままならない速度で、アキトとアリスの体に次々と赤い切り傷が刻まれていく。辛うじて致命傷は避けているものの、芳しい状況では無かった。
刃と刃が幾度となく混じり合い、目にもとまらぬ剣戟が繰り広げられて二分が経過した。。
「アリシア、真正面から受けるなよ! 腕の一本や二本じゃすまねぇからな!」
「心得ています! ――――そこですっ!!」
「クッ!?」
アリスの渾身の反撃の突きがノアの右肩に直撃し、ノアはその衝撃で後退した。
アキトはその光景を見て呟いた。
「うわつよー……まともに戦えば、俺より剣の腕は上なんじゃねぇか?」
「御冗談を。所詮は真似事。師であるシズク様にも、敬愛する兄上にも、遠く及びません。今の私には目が四つ付いているののと同義。これくらいは出来ます」
二人は再び剣を構えるも、ノアはその間に、背中の翼で十メートル程上に浮いていた。
本来なら手の届かない高さだが、アキトとアリシアは目を見合わせて頷き合った。
「兄上!」
「足場になれ、幻影剣!!」
アキトの五本の幻影剣が全て階段状の足場に代わり、すかさずアリスがその足場を駆け上り、ノアの頭上に到達した。
その動きに、ノアは意表を突かれた様だ。
「まさか、転移無しで一瞬の内にここまで来るとはね」
「唸れ! 雷帝剣――――『イカヅチ』!!」
アリスが両手に持ったグラムを力一杯真っ直ぐ振り下ろしたその一撃は、まるで落雷の様な眩さと衝撃と共に、ノアを闘技場に叩きつけた。
ノアは静かに起き上がり、頭を振る。
「ッ――! これは油断ではない……着実に、あの二人の動きが、ボクの予測を上回りつつある……ということだね」
「余所見はよくねぇぜ! おぉおおおっ!」
「ッ!?」
アキトが振り下ろした幻影剣による一撃が、起き上がったノアの胸部を捉え、ノアの胸に一筋の傷が残された。
決して深い傷では無い。でも、あれで勝負ありだ。
アキトが振り下ろした幻影剣は、桜花五刀『キリニホウオウ』。対象の脅威度を定量化し『悪』だと認定した相手を一撃で対象を無力化できる幻影剣である。
空中にいたアリスが着地し、胸を斬られて動かないノアにグラムを突きつける。
「兄上の桜花五刀の効果の程は、未来で何度もこの目で見ています。キリニホウオウを受けた相手は有無を言わさず、力を失います。これで、勝負ありです」
うなだれるノアと、剣を突きつけるアリス。
結界の中に流れる、刹那の静寂。
その静寂を――――アキトが破った。
「下がれぇええ!!」
「っ!?『配置転換』!!」
アリスがアキトの手元の幻影剣と入れ替わる形で後退した瞬間、ノアの全身を『黒い球体』が覆った。黒い球体が飲み込んだ地面は深く抉れており、先ほどまでアリスがいた場所もその球体に飲み込まれていた。
「あの威力は……。兄上の【スキルリンク】に助けられましたね」
「ギリだった。よく間に合ったな」
「兄上が私を呼んで下さった時、もう一人の私も『下がれ』と訴えていたのです」
「へぇ、仲良しじゃねぇか」
「仲良しだなんて。宿主に死なれては憎しみを晴らせなくなるから助けた、と言っています」
「典型的ツンデレだな。カヤよりはデレなさそうだが。……だがありゃどういう事だ? キリニホウオウでのデバフが入ってんのに……」
ノアはゆったりと立ち上がって、アキトたちを見た。
「うん。やはり現代の人間は面白い。これほど実りある腕試しは初めてだ」
「腕試しとか言って、殺意に満ちた攻撃して来てんじゃねぇか。地面を深々と抉りやがってよ」
「この球体かい? これは人間が触れても怪我はしない。ただ、ひと月ほどは寝込んでしまうかな」
「どっちにしろ恐ろしいな」
アキトが再びキリニホウオウを構えると、ノアが口を開く。
「その剣でどれだけボクを斬っても、意味は無いよ?」
アキトは呆れた様に小さくため息を吐いて肩を落とした。
「……やっぱか。キリニホウオウがあんたを『悪』と認めなかったんだな。お前はいわゆる『悪者』じゃないってことか。やりづれぇ相手だな」
「兄上。ということは……?」
「あいつを弱体化は出来ない。真正面から力であいつを上回り、叩くしかないってことだ」
アキトはキリニホウオウを手放して光剣フィクサに持ち替えた。
ノアは言う。
「君の言う通りだよ。君たちは真正面でボクを上回って倒すしかない。――――全力の、ボクをね」
次の瞬間、ノアの頭上に『光の輪』が出現した。
背中に光の翼を生やし、頭の上には天輪……その姿はもはや『神』や『天使』と呼べるものだ。天上の存在にしか見えない。
「なんちゅう力だよ……っ!!」
「兄上、飛ばされないで下さいね!」
ノアの力の解放と共に結界の内部は嵐の様な荒ぶりを見せており、アキトとアリスは吹き飛ばされない様に踏ん張っていることしか出来ない様子だった。
「万策尽きた、ということで良いかな? そろそろ終わりにしようか」
ノアはその嵐の中で右手を空に掲げ、更に巨大な黒い球体を出現させた。
「ちっ……まだ力を隠してやがったのかよ。戦刃状態での長期戦……そろそろ魔力が切れちまうぞ」
「兄上、私に『六刀』を。そうすれば兄上も私の力を扱えます」
その申し出をアキトは棄却する。
「ダメだ。あれは失敗した時のリスクがデカ過ぎる。今までだって、カヤとしか成功したことが無いんだよ」
「私は兄上を信頼しています。ずっとその背中を見て来ました。兄上の事は深く理解しているつもりです」
アキトはそれを聞いても意見を曲げない。
「つもりじゃダメなんだよ! 失敗したらお前にも危害が及ぶかも知れねぇんだぞ!」
「兄上の為なら構いません!」
アリスの訴えに、アキトは怯んだ。
「私は兄妹の絆はその程度の弱きものではないと信じているのです!! 先ほどの足場も私の意をすぐに汲んで下さいました。兄上もまた、私のことを理解して下さっているのだと、信じています。私たちならやれます。だから、私に六花を!!」
アキトは逡巡し、呟く。
「…………ちっ、妹ってのはやっぱ……生意気なもんなんだな」
アキトの背後に夕焼け色の幻影剣、『リッカフウゲツ』が出現した。
「兄上!」
「いいかよく聞け。ここで意識の同調に成功しなけりゃ、どの道ゲームオーバーだ。息を合わせろよ。俺も善処する」
「はいっ!!」
アキトからリッカフウゲツを受け取ったアリシアは胸の前で構えて、魔力を込めた。
が、完全にアキトと意識を同調していないのか、剣を握るアリシアの手がジュワっと焼けてしまっている。
アキトはアリシアの肩に手を添えた。
「落ち着け。俺はここにいる。俺の魔力を感じて波長を合わせろ。俺たちはクロノス。運命共同体だ。魔力の共鳴だって出来るはずだ」
「はい――――行きますっ!!」
二人の魔力が徐々に同調を始め、完全に一致しそうになる直前――――。
「これで、おしまいだよ」
ノアが打ち下ろした黒い球体が……二人を、飲み込んだ。
「アキト! アリス!!」
もうダメなのか……そう思った直後、二人を飲み込んだかに思えた黒い球体が、真っ二つに裂けた。
「すげぇな……これがお前の中の『獣の力』か」
真っ二つに裂けた黒い球体が霧散し、無傷のアキトとアリスがそこには立っていた。
更に、アキトの頬にはアリスと同じ猫の髭の様な線が入っている。
最終決戦で私の【最大出力】を引き出した様に、『リッカフウゲツ』でアリスの【獣神覚醒】を引き出したのだろう。これでアキトは限界以上の魔力を引き出すことが可能になった。とはいえ、短期決戦が望ましいのは変わらない。
アキトはアリスに言う。
「アリシア、お前が次で決めろ」
アリスは目を見開いて驚いた後、全てを察したような表情で答えた。
「……御武運を」
「あぁ、お互いにな。さぁ、最後はお前の番だぜ……やろうか、長旅の相棒!!」
アキトは全ての幻影剣を全て消滅させ、初期武器である光剣フィクサに持ち替えた。
「いっくぜぇええええっ!」
駆け出したアキトは勢いそのままに、頭上のノア目掛けて――――飛んだ。
「真正面から来るとはね。背後から斬る方が、いくらかましだと思うけど」
「背後から斬って勝っても嬉しくねぇしな!」
「ふぅん。それ、騎士道精神って言うんだっけ?」
「大正解! まぁ別に俺は騎士じゃねぇけどな!! フィクサに【絶対零度】の力を宿す! アイスブレイド!!」
「無駄」
ノアの光の剣とアキトの氷結の剣が真正面から衝突した。
しかし……僅かに分が悪く、力負けして押されている。
「それが人間の限界だよ」
「人間を舐めるなよ! 俺の中の獣よ! 力を貸せぇッ!! オォオオオオオオッ!」
アキトは【獣神覚醒】の能力を最大限発揮し身体的な能力を向上させるも、それでも、ノアの方が一枚も二枚も上手だった。
「くっ……これでもまだ届かないのか!!」
「限界だと言ったよ」
――ガキンッ!
その鍔迫り合いの果てに、遂にアキトの手からフィクサが弾き飛ばされてしまう。
宙をくるくると舞った短剣が、無情にも地面に突き刺さる。
「ちぃっ!」
「無駄だとも言ったよ」
「まだ、諦めるかっ!! 世界の未来を、諦めて……たまるかぁっ!!」
アキトは力任せにノアにしがみ付き、【獣神覚醒】の圧倒的な腕力で、ノアの身体を完璧にホールドした。
「ぐっ……このボクを力で抑え込むなんて……。でも、こうしてしがみ付いているだけではボクには勝てないよ」
「あぁまったくその通りだが、俺は一人じゃない! アリシアぁああああ!!!」
「ここにっ!!」
ノアにしがみ付くアキトの背後に、魔剣グラムを持つアリスが出現した。
「アリシア! 俺ごと貫けっ!!」
そのアキトの言葉に対し、結界の外側にいる仲間たちがざわついた。
アリスはその申し出を迷いなく承諾し、稲妻の剣を振り上げた。
「ア――――!」
私が名前を呼ぶ間も無く、アリスは――――。
「嘶け、雷帝剣・『イナヅマ』!!」
激しい雷切迸る稲妻の剣で――――アキトの心臓部ごと、ノアを貫いた。
「アキトォオオオ!!!!」
ドサドサと地面に落下するアキトとノア。
ノアの身体からは勢いよく光の粒子が溢れ出し、身体がびくびくと動いている。間違いなく、致命傷だ。
「まっ……まさかっ! 自分の命を犠牲に――ボクを倒すなんて……」
ノアのすぐ横で倒れているアキト。
そのアキトの身体が、ピクリと動いた。
「――――はっ、誰が命投げたって? カヤのビンタはもう御免なんだっての。死んでたまるかよ」
「アキトッ!!!!」
なんと、身体を貫かれたはずのアキトは、全くの無傷のまま、ゆっくりと立ち上がった。
その手には見覚えの無い『水色の幻影剣』が握られている。
「こいつは桜花七刀『牡丹花影』。発動中、数秒間に限り、自身へのダメージを『無効化』する。つまり、『無敵』になることが出来る幻影剣だ」
ノアはそれを聞いて驚いた声色で返す。
「無敵化!? 驚いた……そんな能力も付与できるなんてね」
「第八層でアリシアを庇った時に閃いた。どうしても俺の中には自己犠牲の精神ってやつがあるらしいからな。その長所でもあり短所でもある点を打ち消す能力が欲しかった」
グラムを鞘に納めたアリスが横に並ぶ。
「私は未来で『ボタンハナカゲ』の能力を知っていました。兄上の事なので、ここでそれを発動するのだろうと思ったのです」
「ははっ……だから迷いなく、刃を振り下ろしたのか。――――うん、ボクの負けだ。君たちは人間の可能性をボクに示した。君たちが世界を率いるのなら、心配はいらないね。世界を消滅させるのをやめるよ。約束する」
――――こうして、ノアとの戦いは私たちの勝利で幕を降ろした。




