ローゼリア/未知の力~七刀と獣神~
――リヒテル地下迷宮区第一層。
ここでミノタウロスの群れを討伐したのは、もう遡ること四か月ほど前になる。
武装を完了させた私たちの中心で、ルミナちゃんが自作の転送装置をいじっていた。
「アイズー? 最終調整はどんな感じなのだ?」
『完了しております。座標認識能力と分子加速器。共にコンディションは良好です』
「ありがとうなのだ! ん~! やっぱルミナちゃん天才!!」
この転送装置はシズちゃんのアポクリファ潜入作戦の時に用いた装置のパワーアップ版。
何処にいても、この胸に付けた転移用のバッチを付けていれば即座にここに戻ってくることが出来るらしい。
試しに少し離れた位置にいるアキトが「転移!」と言うと、転移装置の上に瞬間移動した。
「おぉすげぇなこれ……。これがあれば世界中どこにでも行き放題じゃね?」
それにルミナちゃんが残念そうに答えた。
「それが、まだ超長距離転移には非対応なのだ。地下迷宮区みたいに『上下の転移』なら誤差は少なくて済むけれど、『左右の転移』となるとまた一段と難しくなるのだぜ。転移装置での世界旅行――――ルミナの悲願はなかなか遠いのだ」
「へぇ、そういうものなんすねぇ。俺には難しくてよくわか――」
「転移! おぉっ! 兄上凄いですよこれ!! 楽しいです!! もう一回やって来ます! 転移!!」
「遊ぶな! 滑り台じゃねぇんだぞ!!」
「転移♪ 転移ぃ♪」
「話を聞け!!」
妹にすら振り回されるアキト。ここまでくると女難の相を持っていてもおかしくない。
というか、アリスもアリスで、アキトの前だと結構子供っぽい気がする。未来でもあんな感じのやり取りをしているのかもしれない。
シグルドがその光景を見て、頭を抱えながら言う。
「はぁ……時間が惜しい。そろそろ進むぞ」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
地下迷宮区を行進するパーティ一同。
とはいえ、ボスのいない階層を歩いて進んでいくだけ。サクサクと二階層、四階層、六階層と順当に進んでいき、現状踏破済みの最深層である第七階層に到達した。
――地下迷宮区第七層。
最終決戦前にアキトとカヤちゃんとアルトリウスの三人が突破した階層だ。
光景としては、洞窟の様な四方岩石の空間。
発光する鉄鉱石が辺り一面に散りばめられているからか、視界は良好。
そして目に付いたのは、強い衝撃で抉れた様ないくつかの壁の窪み。
その窪みを眺めながらリサが言う。
「なにここ、壁が傷だらけだけど?」
「セガレ殿が『七本目』でやらかしたんだよ」
「アキトくんが?」
隣で聞いていたアキトが申し訳無さそうに返す。
「あぁー、あんときはほんと、カヤとアルトさんには多大なご迷惑を……。七本目の幻影剣を出した瞬間に魔力が暴走して気を失うし、地形破壊しまくりで散々でした」
「七本目ってそんなに強力なの?」
「いやー、どうでしょうね? どちらかというと支援寄りにしたかったんですけど、その時の俺の魔力量じゃ無理でした。あっはは……」
するとアリスが会話に交じった。
「桜花七刀の幻影剣……私は何度か見たことがありますよ。未来の兄上はきちんと使いこなしておいででした。桜花六刀『六花風月』に次ぐ、なかなかユニークな幻影剣でした」
「七年後の俺は使えてんのか。今の俺はいつになったら使えんのかねぇ」
そんな会話をしながら先へと進む。
終点の見えない螺旋階段を下っていると、ふと話題はアリスの話になった。
話題を振ったのはカヤちゃんだ。
「アリスの中にもオリジナルスキルがあるのよね?」
「あ、はい。でも兄上の【慧眼】ほど有能ではありませんし、私の手に余るものです」
「よければ聞かせて貰えるかしら? 戦略の幅が広がるかもしれないし」
「もちろんです。ですが、あまり期待しないで下さいね? 本当に手に余る代物なので」
と前置きした後、アリスは自らのスキルに関して語り出した。
「――【獣神覚醒】。それが私のオリジナルスキルの名称です」
「獣神覚醒……。なにやら物騒な名前のスキルね」
「実際にも物騒極まりない能力ですよ。少なくとも、今の私は上手く制御できません」
リーヤが返す。
「制御できない、か。ロゼの血筋はそういう運命なのか? 学園爆破したり、地形崩したりとさ」
妹のシルフィーが続く。
「元々ステルケンブルク家は身体の内に秘める魔力量が多い家系だからね。その中でもロゼちゃんは特別多いから、その子供たちにも遺伝しちゃったのかも」
「私のせいかぁ……」
「はっ、母上のせいではありませんよ! 私がまだ未熟なばっかりに……。本当は【慧眼】を失った兄上以上の働きをしなければならないのですが、上手くいかず……。特に魔物を見ると、もう一人の私が――」
「話はそこまでだ。……気配がする」
先頭のシグルドが足を止めて身構えた。
この途方もなく長かった螺旋階段の終点が近いということだ。
――ジガァアアアアッ!!
その荒々しい魔物の叫び声を聞いて、シズちゃんが言う。
「荒々しさと獰猛さを感じますね、変態騎士」
「強力な魔物には違いない。あと変態騎士はやめろ」
「失礼致しました。変態国王でしたね?」
「ランクアップして悪化したぞ。さてはわざと……まぁいい。今は目の前の部屋にいる魔物に集中だ」
私たちがボス部屋へ入る前に準備をしている最中、固まって動かない者が一人。
――アリスだ。
先ほどの魔物の鳴き声を聞いた直後から様子がおかしい。
「あの鳴き声……間違いない。あの魔物だ……私の日常を奪った……あの……」
「アリス? どうしたの?」
私の声はアリスには届いていない様だった。
アリスはカタカタと身体を震わせ、浅い呼吸を繰り返している。
「はっ……はぁっ……魔物なんか……はっ……殺してやる……私の日常を奪った魔物は――」
アリスは腰を低く落とし、魔剣グラムの柄に手を伸ばし、前へ駆け出す構えをとったかと思えば――。
「魔物は――――全部殺すッ!!!」
「アリス!?」
アリスは我先にとパーティを飛び出し、ボス部屋へと入ってしまった。
「ロゼ譲りのとんだじゃじゃ馬じゃねぇか! 追うぞ!!」
私たちはリーヤの号令で、アリスを追う様に第八階層のボス部屋へと足を踏み入れた。




