楯無明人/野生児と意外な客人~獣と神~
――城での朝食。
細長いテーブルにパンやサラダが所狭しと並べられている。
国王である親父はテーブル最奥いわゆる『誕生日席』に座り、その近い場所に俺と母さんが座っている。
俺の隣にはウィルベルが腰かけ、真向いの母さんの隣にアリシアがいる。
一家団欒プラスウィルベルという布陣だ。
親父がウィルベルに言う。
「ウィルベル。よく来たな。遠慮せず沢山食べてくれ」
「ありがとうございます、シグルド様」
「様は止してくれ。それよりも、だ……」
親父は呆れた表情でアリシアに視線を向けた。
アリシアはまるで獣の様にガツガツと手掴みで朝食を頬張っていた。
我先にと次々に食べ物を口に放り込む。
「おい、アリシア……」
「むふぁ!?」
しまった、という表情のアリシア。
「お前の背景はロザリーから聞いた。ここでは誰もお前の食べ物は奪ったりしない。だからきちんと食器を使え。いいな?」
「ふ、ふみまふぇんひひうえ!」
アリシアは頬張った食べ物を一気に飲み込むとグラスの水を飲み干した。
そしてむせたアリシアの背中を母さんが撫でてあげていた。
その光景を見て親父は頭を抱えていた。苦労の星の下に生まれたんだろうなぁ。
ウィルベルが眩しい笑顔で言う。
「なんか賑やかで良いね!」
「賑やか過ぎんだろ。お腹いっぱいだよ、色々と」
「お腹一杯? まだ全然食べてないよね?」
「そういうことじゃないんだっての」
このリヒテル城に意外な客人が訪れたのはそれから二時間後の事だった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「――ということなのです」
再び集まった仲間たちの前でアリシアがここに至った経緯を全て説明した。
掻い摘んで説明するとこうだ。
――事件が起きるのは、今から約七年後の未来。
リヒテルの地下から魔物のものとも人間のものとも取れる声が聞こえたということで、地下迷宮区に調査隊が送られることになった。
その調査隊を指揮していたのはリーヤさんとエストさんだったようだ。
「で、あたしらからの通信が途切れたと。死んだな、そりゃ」
「わしらを倒すほどの魔物が地下におったということじゃの」
二人は案外冷静に聞いていた。
「あのリーヤさん? エストさん? なんでそんな余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)なんすか? 未来の自分がやられたって聞いて」
「あん? 慌ててどうするよ? 慌てたって未来は変わらねぇだろ」
「取り乱すよりも、その未来を回避する方法を考えるのが先決じゃろ?」
「おっしゃる通りで」
――話を戻そう。
調査隊からの通信が途絶した直後、リヒテルに多数の魔物が同時多発的に出現したらしい。
その魔物こそ――あのキメラだ。
しかも一体ではなく、数百体という規模で出現し、リヒテルの蹂躙を始めた。
リーヤさんとエストさんを欠いた仲間たちが応戦するも、着実に戦線は後退、籠城戦に発展してしまう。
――そして、七年後のカヤはアリシアを過去に飛ばした。
アリシアはその時の光景を思い出しながら言う。
「兄上とカヤ様が援軍に駆けつけて下さったことで前線を押し返せるとは思います。ですがその先にいる黒幕まで倒せるかどうかは……」
「恐らく、無理だろうな。その戦力で挑んでも勝機は限りなく薄い」
親父が深刻そうな声色で言うと、アリシアはふと顔を俯けた。
アルトさんが呆れ顔で親父に言った。
「おいシグ、未来少女殿の古傷をえぐるようなことを言うもんじゃねぇぜ?」
「これは戦争だ。状況を冷静に分析し、対策を練る必要がある。真実から目を背けてはいられない」
「状況を冷静にったって――――お前が一番冷静じゃねぇだろうに」
アルトさんの言う通りだった。
親父は取り繕ってはいるものの、机の下で拳を血が滲んでしまう程に握りこんでいる。
未来の話とはいえ、リーヤさんとエストさんの死を聞いた親父は冷静ではいられないようだ。仲間思いもここまで来ると危ういな。
……つっても、俺もやっぱこの人の息子なんだな。
俺も、さっきから腹の底がズキズキしやがる。
未来とはいえ、大事な仲間が殺されたって話はキツイものがある……。
「シグルド」
「アキト」
親父は母さんに呼ばれ、俺はカヤに呼ばれた。
「落ち着いて、ね? 冷静にならないと同じ未来を繰り返しちゃうよ」
「あなたも落ち着きなさい、アキト。あなたを欠いては、事態は進展しないわ」
俺と親父はぴしゃりと言われ、互いに目を見合わせて、小さく笑い合った。
ほんと、俺たちは恵まれたよ。
「……すまないロザリー。ありがとう」
「どういたしまして!」
「はっ、馬鹿言え。俺は全然取り乱してなんかいねぇよ。でもまぁ――サンキューな、カヤ」
「どうということではないわ。いつものことだもの」
「一言多いんだよお前は」
未来の状況を確認し合った後、今後の対策を練る流れとなった。
のだが――唐突な来客がその流れを一度断ち切った。
「シグルド様! 御会談の最中に失礼致します」
城の衛兵がこの城への来客を告げた。
「来客? 約束は無いはずだが」
「はっ。急を要するとのことで……下がらせますか?」
「…………」
しばし悩んだ親父はその来客を招くことを承諾した。
「よろしいのですか? 王の御身や皆様に万が一のことがあれば」
「ここに俺がいる。それに勝る警備は無い。大丈夫だよ」
「はっ。失礼な物言い。お許し下さい。ただちにこちらへお連れします」
去りゆく衛兵を見ながら母さんが言う。
「シグルド、怪しい人だったらどうするの?」
「今日日、城に怪しげな恰好であがり込もうとする人物などいないだろう」
で、部屋に入ってきた来客は――――超怪しげな全身ローブの男だった。
しかも、フードを被っていてその素顔は見えない。
俺たちはつい身構えてしまう。
「おい親父……今日日いないんじゃなかったのか? そりゃ衛兵さんも渋るわ」
「その認識を改めなければならない様だな……で、貴様は一体――」
するとその男はローブから腕を伸ばし、フードに手をかけた。
「――酷いな。この俺を忘れたとは言わせないぞ」
男はファサッとフードを下ろした。
波打った癖っ毛が特徴で、今日日聞かないがその容姿は『メタラー』っぽくも見えるし、吸血鬼の様にも見えるその男。
「お前は!?」
「久方ぶり……でもないか。話をしよう。俺たちの理想郷の未来の為に」
「サイナス!?」
俺たちのかつての宿敵――サイナス・フォン・フォーゲルヴァイデ、その人だった。




