8. さそりの叫び
「…なにが…あった?」
星一君が気がついたようだ。
「わからない。ただ、何か爆発したような…」
「不発弾…ということでもなさそうだな。ここまで長いこと明るいのはおかしい。」
「白鳥君も気がついたんだね。」
「風圧で近くに頭をぶつけたようで、まだ痛むけどな…」
彼は後頭部をさすりながら乾いた笑いを無理に作っていた。
相当痛むだろう、病院へ連れて行ったほうがいいと思うがこの状況で病院がやっているかどうかは誰もわからなかった。
「…かろうじて月が見えているが、“2つ目の太陽”があそこにあるということは月の向きから推測するとあの太陽は…人工物でないと考えると…」
一呼吸おいて続けた。
「…アンタレスだ。普段の夜であればあの"太陽"の位置にさそり座が見えてるはずだ。」
「そんなまさか」
「いや僕の言ったことが全て正しいとも限らない。アンタレスが仮に超新星爆発を起こしたとしても、本来であれば地球には全く影響は無いといわれていたから。」
「そうなのか…?」
「うん。ただ、ガンマ線が地球にはたどり着く。その影響はあるといわれていたけど…」
星一君がスマートフォンを取り出すが、画面はつかない。
「電子機器がこのとおり、一切使えない。たぶん二人のものも使えないだろう。電子レンジやそういった電波を扱うものも恐らくダメだ。」
彼の言う通り、濡れていない私のスマートフォンでさえ、電源がつくものの画面の挙動がおかしかったり、操作が出来なかったりしていた。
「でも、超新星爆発だとして、本当にそんなものが観測できるの?」
「…記憶が正しければ、1054年の6月20日前後におうし座のとある星が超新星爆発を起こしたって記録にあるらしい。約一ヶ月にわたって白夜のような状態が日本でも起こったとか。」
「マジかよ…」
「いずれにせよ、一度ホテルに戻ろう。みんなが心配して…」
バランスを崩し、その場に崩れ落ちる星一君。
「ちょっと、大丈夫!?」
「無理も無いよ。灯ちゃんを庇ってあの光線を諸に食らったんだからな…ほら、肩貸すぜ。」
「おう…悪い…」
「ごめんね…」
私はそんな言葉しか口に出来なかった。
何が起こったか瞬時に判断できなかったこの状況でも冷静に対処してくれた星一君には頭が上がらない。
彼は、いつも陽気だけれど緊急事態だったり何かがあったときにはとても冷静になって口調も大人びる癖がある。
「気にするなよ。怪我は無いか?もしあったら庇った意味もなくなるしな…。」
そういって星一君は気を失った。
「おいバカ、寝るなよ!?死ぬぞ!!」
「…ううん、気絶みたい。息はあるから。気が抜けたのかもしれないね…。」
「あの中をずっと立って灯ちゃんを守ってたからな。やる時はやる男なんだが…ほら、ベッドに帰って寝るぞこの星オタク!」
白鳥君が星一君を背負って、歩き出す。
彼もずいぶんと負傷しているはずなのに、自分は情けないなとまたふさぎこんでしまいそうになった。




