7. 花火
修学旅行当日。
3人は同じバスの中で念入りに計画を練っていた。
それが、全ての始まりだった。
そして、全ての終わりでもあった。
僕らがあの夜、抜け出していなければ恐らく何事も無かったかのように"彼"は人生を終えていただろう。
それが最良であるかと問われれば、応えに苦しむが今となってはもうどうでもいいことだ。
あの日から世界の滅亡へのカウントダウンは始まっていて、それに巻き込まれたかどうかってだけの話だ。
蝶の羽ばたき1つで世界は変わるというけれど、あの時誰か1人でも先生に見つかっていれば。
誰か1人でも引き返そうと言っていれば。
誰か1人でもキャンプファイヤーが見たいといっていれば。
宇宙船に乗せられて終わりの見えない旅をする犬のように、何も知らずに死ぬことは無かったかもしれない。
でもそれが、最善で最良で、言い訳をするとどうしようもない事だったってのが精一杯で。
それまで、生きれたことに感謝するしかないんだ。
悔しいけれど―――――。
ショックのせいで、修学旅行の日のことはとある出来事しか覚えていないんだ。
昼間の事は何一つ覚えちゃいない。
でも、3人で行動してたのは確かに覚えているよ。
いつもそうだったからね。その日だけ違うなんてありえない。
だからこそ招いた、死だった。
あの日、白鳥は亡くなった。
風の無い、穏やかな日だった。
夜鷹が鳴きだすのを合図に、修学旅行のグループから抜け出した3人は湖にやってきた。勿論、修学旅行で提案した天体観測をするためだ。
そんな中で白鳥は忘れ物をしたといって、僕ら二人を置いて急いで旅館のほうへと戻ったんだ。
…ずっと、帰ってこなかったほうが彼にとっては良かったはずなんだけれど。
「プラネタリウムみたい。」
「いや、プラネタリウムで見たよりも綺麗だよ。」
この会話だけは覚えているんだ。
あの日も灯にはムード作りをおぼえたほうが良いと怒られた。
今でさえ、それは直っていないのだから釈迦に説法というものだ。
彼女は、星になりたいんだと言った。
実際に見えている星ではなくて、虚像を映し出している美しい湖面を指差して。
当時の僕には、湖に映る星なんかよりも夜空で瞬く星の方が綺麗に見えたけれど、今となっては両方の美しさが分かる。
手の届かないものって、届かないから、欲しいんだ。
届いてしまったら、それが目的になってる人はそこで満足して次の段階に踏み込めずに終わってしまう。
だから、高嶺の花より道端に咲いているタンポポの方が僕は好きなんだ。
僕には、どんな花よりも輝いて見える。
でも、灯は高嶺の花なのに、道端で咲いて居たんだ。
ずっと、ずっと。
そのことに気づいたのは、ずっと後になってからだったな。
しばらくすると、白鳥が帰ってきて合流した。
それが、最後だった。
その時。
目の前を真っ白い光が包んだ。
花火?いや、それにしては不自然に明るい。というか、目も開けていられない。
ものすごい衝撃波が湖に木霊して、大量の水しぶきが3人にかかる。
何がなんだか分からない。他の二人はどこだ、そばにいるのか、それさえもわからない。
かろうじて"人間"が自分の前にいる、それだけは分かった。
それが星一君なのか、白鳥君なのか分からないけれど、微かに水しぶきが遮られている、そんな気がした。
数十秒間もの間鉄砲水と衝撃波と光線を食らっていた3人は気づいた時には湖の畔で重なって倒れていた。
まず最初に起き上がった私は辺りの光景を見て愕然とする。
湖の水量は3分の1ほど減っており、魚が散らばっていた。
広葉樹の葉は散り散り、近くの小屋のガラスは吹き飛んでいるようだ。
ここまでして、何が起こったのかまったくわからない私でも違和感に気がついた。
"どうして周りの様子がはっきりと見えているのか"
腕時計は衝撃で壊れてしまったらしく、現在の時刻は示していない。
ただ。それがあった時刻は正確に示していた。
2XXX年 7月21日 PM 20:32
そう、今は夜であるはずなのだ。
白夜も起こりそうに無いこの日本で、夜のこの時間に、真昼のような明るさ。
しかし、太陽の明かりではないことは光の色で分かった。
ちょっとだけ、そう、トンネルのナトリウムランプのようにオレンジ色が混じっている。
そのせいで周りの景色の色が失われ、セピアチックな風景を作り出していた。




