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STELLAR PLACE  作者: 如月十六夜
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17. 最後の夢

「少しだけ、表情が硬いわね。怖い夢でも見た?」


「あっ、わかっちゃいますか…? …明日に迫った終わりの日の夢を見たの。きっと、この通りにならなければいいけど、っていう夢。」


「あら…。どんな夢だったの?タキシードを探しながらでいいから、お話してほしいな。」


「…そうですね。あれは――」






酷く、憎たらしいほど爽やかな朝だった。

晴れ晴れしく、清清しい。もう二度と迎えることの出来ない素敵な厄日だ。


昨日の夜から空の一部を覆っていたオーロラは、まだ仄暗い冬空一面を覆い尽くしていた。


オーロラはこの世のものとは思えないほど美しく、神様が最後に見せてくれた光景だとテレビは言うけれど、私には悪魔が最後だからと見せてくれた死の宣告にしか見えなかった。



スマートフォンの連絡用アプリはもう使い物にはならなかった。

最後の日だからか、回線が込み合っているんだろう。ずっとロード中のぐるぐるがぐるぐるしていた。

みんな最後の日でも考えることは同じだ。



いつも通りの生活を心がけようと、冷蔵庫を開け朝ごはんの支度をするが、ハムも卵も全部使い切ってしまったようで最後の日なのに最初から出鼻をくじかれることと成った。


二度と朝ごはんを食べることはない。


それならば、と私は朝ごはんの用意をやめた。

パンや冷凍のご飯くらいは探せばあるだろうけどろくでもない物を口にいれて後悔するよりかは、食べずに後悔しないほうがマシだ。


ただ、自分の命が終わるのがもう24時間を切っていると考えるとどうも物悲しくなってしまう。

死刑執行直前の死刑囚ってこんな気持ちなんだろうか。




誰もが、今日でこの世が終わるとしたら何をする?

みたいな妄想は人生で一度は必ずしているとおもう。

小学校の道徳の時間だったかな。


私だったら、有り金全部を使い果たして限りない贅沢をするという月並みな考えだった。

周りの生徒たちも似たような考えだった気がする。

白鳥君は、船をチャーターして海の真ん中に行く、星一君は…なんて言ってたっけ。




意味もなくスマホの電話帳を眺める。登録先には何故か家族と星一君しかいない。


私は、ここで夢であることに気が付いた。

気づいていた。



でも、最後のシミュレーションができる。そう考えたらこのまま自分に嘘をついて、夢の中の星一君に会って、たくさんお話ししよう。


そう考えて電話を取り、星一君にかけた。





しかし、聞こえてきたのは話し中の音。





ツー、ツーという無機質な音が殺風景な部屋に響き渡る。

つくため息も無くなり、もう用は無くなったスマートフォンをくずカゴに投げ込んでまたいつも通りの生活に戻ろうとする。


いつも通りの生活。芸能生活。


でも、最期の日に芸能生活なんてできっこなかった。


夢の中なら、とも思ったけれど夢の中でも妙に現実染みていて付けたテレビも終末世界の特別番組しかやっていなかった。



そこで一度も鳴った事のなかった家のインターフォンが鳴った。

…いや、私はあまり家にいることがなかったから初めて聞いただけかもしれない。


聞いたこともなかった音をはじめて聞いて少々驚いたが、ドアを開けるとそこには見知らぬ男性が立っていた。


「月見里さんですね。市の職員のものですが、中央区に隔離用シェルターが用意されているのでそのご案内に参りました。」


「シェルター?」


と私が怪訝な顔をして聞くと職員は呆れた様子で


「…月見里さんともあろう方が、今日が何の日かご存知ですよね?」


と言った。


「知ってはいますけど、私はそこにはいきませんよ。」



宇宙に行くからね。

と、聞こえないほど小さな声で呟いた。



「…そうですか。そういう方多いんですよね。でも仮にシェルターで私たちが助かった場合、地上に出た時にあなた方の処理を行うのは我々なのです。考えておいてくださいね。午後10時までは誰でも受け付けていますので。」


そういって職員は一枚のチラシを私に突きつけて去っていった。シェルターに来ない住人を一軒一軒回って歩いているんだろうか。

シェルターとは言っているが、地球規模の大きな天災に耐えうるほどのものが人類に作れるなどと到底僕は考えられない。

それこそ地底深くまで掘り進んでいれば話は別だろうけど、今度は酸素が尽きるだろう。



街は混乱状態に陥っていると思っていたが、案外そうでもなく至って普通だった。

たしかに、一ヶ月以上前からお触れが出ていたし、テレビのワイドショーなどでもその話題で持ちきりだったからか、知らない人はいなかったはずだ。

電車は普通に動いているし、お店に至っては地球最後などと銘打ってここぞとばかりに商売をしている。

しかし、一部の店では20時には店を閉めるなどと注意書きをしており、やはり命は惜しいのだろう。



ディストピア感溢れるこの世界をもう少し堪能していたい気もする。

オーロラは奇麗だし、それを反射する水面もこの世のものとは思えない色をしていて、きっと一日中見続けていられるだろう。


夢の中でも最期を迎えられるとしたら、私は2回死ぬことになるんだろうか。


…三途の川を2回渡るんだろうか。


天の川だといいなぁ。


夢だから、と気にも留めていなかったけれど、何も考えずに宇宙開発機構へと足を進めているうちに妙な違和感を覚えた。



「…なんで、星一君は私の電話に出なかったんだろう。」

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