11. あかり
星を見ることだけは、引きこもっていても続けていた。
留年は決まっていたが、好きな授業には出席して単位を取っていた。
どちらにせよ、留年も意味はないのだ。卒業なんてできないのだから。
どちらにせよ、残り一年もない寿命だ。その奇特な行動を馬鹿にするやつもいないし、喫煙所で白鳥と会話していることを気味悪く思うやつもいない。
いや、思っているのかもしれないが、全人類の寿命が残り半年ということを聞いて狂ってしまった人間は少なくないんだ。それと同じにみられているのかもしれないな。
灯と天体観測に行ったのは、この後すぐの出来事だった。
その明くる日、僕は灯に連れられて日本宇宙開発機構へと足を運んだ。
あの夜、家に着くまではほぼ会話はなかったんだけど、灯の家の前で今日宇宙開発機構に出向くことを強制された。
…無理やり、ではない。僕は拒否しなかった。
星の研究を行っている施設に行くことができるなんて夢のようだし、なにより灯にまた会えることがうれしかった。
弱い人間だ。本当に。
まず、所長さんが出迎えてくれて僕もぎこちないあいさつを交わした。
一方で灯はハキハキと物を言うし、以前の灯を知っている僕からすれば僕らは入違ってしまったような感じだ。
日本で一番大きな宇宙開発機構は、本当に広くてこれなら星を掴むことだって可能な気がした。
僕の望遠鏡なんて宇宙望遠鏡からすればおもちゃみたいなものだ。
でも、そうしたことの積み重ねが一番だって所長さんが教えてくれた。
「最初から星を掴んでいる人間なんていない。コツコツ、好きなことに力を注ぐことで、徐々に道ができて行って、ようやく掴める位置にたどり着くんだ。」
僕は少し自信を持つことができたね。何せ、自分の今までやってきたことは何も意味をなさないことだろうと悲観してきたのだから。
そして、一番の大きな問題。アンタレスの現状を巨大な宇宙望遠鏡で見ることになった。
「…これが、アンタレス…?」
「あぁ、そうだ。さそり座の心臓…もっとも、今は脈動すら感じられないがね。」
僕らが中学生のころに多くの命を奪ったさそり座の心臓。
真っ赤に輝いて夜空にアクセントを醸し出していたころとは想像もできないくらい変わり果てた姿だった。
まるで、中性子星の如く白い弱弱しい光。
「中性子星の密度は太陽の10の14乗倍とも言われている。ようするにべらぼうに重たい星だ。それがさらに爆発するって計算結果が出た。」
「それはどういう…」
「炭酸ジュースを思いっきり限界まで振って、爆発するときと同じような感じだよ。」
「…」
声は出なかった。例えというのはわかっているが、それにしたって十分すぎる威力だ。
「ま、助かる余地はないと思うよ。この計算結果が出たときは世界中に検算を求めたけど、どの国も帰ってくる答えは同じだった。」
「そゆこと~!だから、死んじゃうその時まで何かできないことはないかなって思ったの。」
「そこで、君たち二人に仕事を引き受けてもらいたい。…まぁ、全人類に残された時間は半年しかないから、君が拒否すれば、この話はなかったことになる。」
「…拒否したら、署長さんはどうするんです?」
「なに、心配いらないよ。ため込んだ金で家族と世界旅行の旅に出る。それだけの話だ。君に全てが委ねられているなんて思わないでほしい。」
それはそれで、意欲がそがれる言葉だったが僕は二つ返事で了承した。
ほぼ土日しか家に帰る時間はなかったが、もともと寝に帰っているような生活をしていたため大した問題ではなかったし、むしろ住む場所や食堂なども提供され、ものすごく好待遇を受けた。
しかし、勿論のこと僕にできる仕事は限られていて灯のサポート役という立ち回りがぴったりだった。
僕は何も知らなかったけれど(灯は僕に毎日電話をかけてくれていたが、僕が無視していただけであって随一報告するつもりではあったらしい。)、日本の宇宙開発機構で広報役として活躍していた。ルックスは誰もが認めるほどだったし、それを活かしてCMなどにも出ているようだった。
半年で、この地球が終わると聞いて、職員はばたばたと辞めてしまったため、灯のマネージャーもいなくなってしまったらしい。
だからこそ、僕が起用されたのもある。
そして、サポートマネージャーも兼任しながら僕がやっていたことといえば、星の観察。
一見何もしていないように見えるが、普通の望遠鏡ではなく宇宙望遠鏡を使用しての探査が目的だった。
勿論、現役で動いている宇宙望遠鏡を操作するなんておこがましいため、現役を引退した宇宙望遠鏡「あかり」を使用していた。
…名前は、偶然には思えなかったけどね。
そして、観察を続けて1か月たったある日。
僕は、とうとう『星を発見した。』




