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STELLAR PLACE  作者: 如月十六夜
11/19

10. ひきこもりのサジタリウス

世界が終わる日から、ちょうど1年前。

現代版ノストラダムスとも言われている空前絶後の天体ショー。

各社報道局もこの日から一斉に特集を組んだりして視聴率合戦に取り組んでいた。


当然、世界的にも大きな問題と言わんばかりに注目されて急激な株価の大暴落だったりいきなり戦争を吹っ掛ける国が出てきたり、それはもう阿鼻叫喚の世界へと成り果てていた。


日本国は、来たる日までに莫大な税金をかけて地下隔離シェルタ-を日本中に建設。

おおよそ全ての日本国民が入ることができる地下都市の建設を進めていた。

おそらく、世界最後の日までには間に合わないだろうといわれているが、助かる人間もいないと踏んでのことだ。

投げやりなんだ。全部。



僕はというと、ちょうどあの日からずっとふさぎ込み始めて通学すらままならないまでに心身ともに疲れ切っていた。

それでもなんとか中学高校は卒業し、進みたい大学へと進学はできた。勿論、灯も一緒だったがあの日以来そんなに多くの会話はした記憶がない。


話しかけてはくれたが、僕のほうが殻に閉じこもってばかりで昔の僕を知っている人からすれば180度人間性が変わってしまったという人もいるだろう。

それでも灯はずっと話しかけてくれた。そのことを面と向かって感謝することはなかったが、それは彼女も理解している。



大学へ入学して半年が過ぎていたが、すでに僕は留年が決まっていた。

ろくに授業も出ずに引きこもっていれば当然とも言える。

大学には行くが、毎日精神病を患っている人のように、白鳥の幻と会話して、喫煙所で時間をつぶすだけ。

肺はもう既に僕の心となじように、ドス黒く染まっているだろうな。

そのことを心配して時々灯は訪ねてくるが、一度も家へ入れたことはない。



電話帳には灯のものと家族のもののみが登録されているが、履歴はすべて灯からだった。

勿論、着信のみ。掛けなおしたりはしない。

偶然手に取った時に反射的に出てしまった時だけだ。




それでも変に意固地になってプライドだけ高くなってしまった僕は声もろくに聞かずに即電話を切ってしまった。




実際、人間ってのは突然残りの寿命が1年ですって言われても何もできないんだよ。

当然、お金持ちやスターレベルの有名人であればまだ変わりようもあるだろうけれど、金もない、家族もない、学もない平々凡々以下の星屑にも満たない人間はどうしようもないんだ。

いつもと変わらないどころかさらに偏屈になって。


見えていたはずの先々の出来事を自らつぶしにかかっていく。


僕もそんな人間だったことは間違いないのだけれど、ある日…世界の寿命から半年前。

あまりの寂しさからついに彼女からの電話に出てしまった。


灯も出るとは思っていなかったのだろうけれど、いつも通り…いや、話すのは半年以上ぶりなのだからいつも通りってのはおかしいかな。

なんにせよ、僕の知っているいつも通りに話してくれたんだ




「…あっ。えっ?星一君?」


僕は無言でスマホを耳にあてがう。


「良かった、ようやく出てくれたんだね。灯だよ。覚えてる?」



忘れるわけがないだろう



「あのね、ようやく星を掴むことができそうだから星一くんにも報告しようと思ってね。」


星を掴む?


「うん。あと、半年で私たち死んじゃうらしいじゃない?だから、その前にこの地球から脱出しようと思って!」



話が壮大だった。

というかどこからその発想が出てくるのか本当に感心した。



「もしもしきいてる?」


聞いてるよ。


「そう、ならいいの。それでね、私、この春から宇宙開発機構のインターンシップ留学することにしたんだ。宇宙飛行士の真似事。」


やっぱりスケールが桁違いだった。

僕の手の届かないところで彼女は星を掴もうとしている。


「でね、星一くんも一緒に来ないかなって…私以上に星が好きだから、きっと喜ぶだろうなって。」



素直に話を鵜呑みにして、はいわかりましたというのも癪ではあるが、もう何か月も人と話をしていないそれだけで残りあとわずかしかない寿命を乗り越えられる気がしなかったので、二つ返事で了解してしまった。


単純な奴だ。



結局人間は一人では生きていけないのだ。

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