Prelude
それは暑い夜の、晴れた日だった。
湖面に浮かぶ様々に形取られた点がはっきりと見える、風の無い日だった。
夜鷹が鳴きだすのを合図に、僕ら二人はグループを抜け出して湖へと駆けていった。
「プラネタリウムみたい。」
「いや、プラネタリウムで見たよりも綺麗だよ。」
「…ムード作りというものを勉強したほうが良いよキミは。」
「僕は本物の星のほうが好きなだけだよ。」
「あ、さそり座。私の星座だよ。」
彼女は僕の嘆きを気にもせずに湖面に映った星座探しに夢中になる。
「普通は天を見上げて探すものだと思うけどな。」
「あれは…なんだっけ」
「はくちょう座だよ。」
「これは?」
「こと座」
次に彼女が指差すであろう星座を予想しながら、指を動かす素振りを待つ。きっとわし座に決まっている。
「じゃあ…」
「わし座。」
「まだ言ってないのに。」
「夏の大三角を目の前にして指す星座なんて限られてるもの。」
「やっぱりキミは星座よりもムードを勉強したほうが良いよ。」
軽く頬を膨らませて不貞腐れる。
「私はね、星になりたいんだ。」
「星って、あの、星に?」
僕は湖面に映った点ではなく、天高く鏤められた天の川を指して言った。けれども、
「違うよ、この、星に。」
彼女は天井にぶら下がった星々ではなく、しっかりと湖面を指差して続けた。
「あんなに尊い存在にならなくていい。手が届きそうだけれど、触れた瞬間揺れて消えちゃうような幻に。」
「これだって湖が作り出してる偽物の星じゃないのか。」
「だから良いんじゃない。でもこれは偽物じゃないよ。私にとっては本物よりも手が届きそうに無い本物。」
「よく、わからないや。」
「いつかわかる時がくるよ。」
そのとき彼女のショートヘアーを夏の暑い風が揺らした。
言うまでも無く、湖に映った幻も同時に揺れて消えた。
皆さんは、星はお好きですか?
私は星好きを拗らせて星を題材にした小説を書いてみたいと思い、この物語を膨らませました。
どうやら、北海道に同じ名前の施設があるそうですが関係性はございません。おっ、と思ってアクセスしてくださった方はごめんなさい。ですが、冒頭の湖は北海道の洞爺湖をイメージしています。作中には北海道関係はあまり出てきませんが、私が風のない日に湖面に映った星空を見た時が忘れられなくて描いた物語です。時間がある方やそうでない方もどうか、最後まで彼らの行く末を見守ってやってください。
未熟者ゆえ、至らない部分や感想などを書いてくださると私の励みの糧になります!ここまでご覧くださりありがとうございました。