《セイアッド》
あの凄惨な事件が起こって以来、人類は日中にのみ行動を制限された。万が一、日没後に外出する際は必ず月光から目を守るためのゴーグル、《月光除け(ルナデス)》をつけることを義務付けられた。数千万人を死に追いやった《月狂い事件》の後、政府は月光対策本部の設置を行った。《月狂い》によって《月憑きの人間嫌い》になり果てた人間を駆除するためだ。
実験から分かったことであるが、一端《月憑きの人間嫌い》になったものは二度と戻ることはない、脳に影響を与えるようで開放するには命を絶つ方法しか今のところみつかっていない。
俺は今、月光対策本部で働いている。あの惨劇を二度と繰り返さないために、これ以上犠牲者を増やさないために……
二十歳になった俺は、父さんがしていた研究を俺は引き継ぐことになった。あれからいろんなことが分かってきた。あの月の大接近から四年、人類に直接的な脅威になることはなかった。
しかし、この年、四年前と同じ、月の接近があることを父さんは突き止めていた。今までの軌道から離れ、再び地球に接近するその様子はもう一度攻撃してやろうという月からのメッセージのように思えてならなかった。
――そんな俺の予感は的中することとなる。
「月から何かが降ってきます」
隕石か何かに思われたが、事実はそんな生易しいものではなかった。
「これは……!?一体……!?」
「何であろうと、俺が止めます。止めてみせます」
――朔望 月翔出ます。
「行くぞ、《セイアッド》!」
コクピットからの月翔の声かけに返答するかのように、月光対策本部の新兵器にして秘密兵器の「移動型搭乗要塞」が本部から登場する。真っ赤に染まったその様相は、四年前の惨劇によって流れた血汐のようにくすんだ赤色だ。
「憎しみの炎で燃やし尽くしてやろう! 俺ならできる! 絶対にだ!」
この感情が傲岸不遜なものだと言うことは重々承知している。だけど、目の前の選択肢には「やる」か「やらない」の二つしかない。
今だけじゃない。きっと、これからもそうだろう。
何もやらなきゃ変わらないし、何かやれば、何かが変わる。
月だって、潰そうとしない限りは潰れない。
だから、俺は潰す。
――この月を、憎い月を、この手で。
こうして、俺たち月光対策本部を中心とした地球人と、月との苛烈な戦いが幕を開けようとしていた。
俺はこの父さんからもらったペンダントで起動した、《セイアッド》さえあれば、月なんてあっという間に壊すことができる、そう考えていた。
「なんであろうと、この俺がぶっ潰してやる!」
ある程度溜めてるで開放していきます