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 救世主と魔王が生まれて、数年の月日が経った。

 この頃、世界は魔物が巣くう混沌とした時代に突入していた。

 感情のなかった少女は姿の分からぬ魔王として、この世界を恐怖のどん底へと叩き落していた。

 配下の魔物を使い、人々を襲い、殺し、悪逆の限りをつくしていた。

 しかし、そんな魔王となった少女に悪意などかけらもなかった。

 ただ、少女は自分を救ってくれた神様に従ったまで。魔王とは知らず、神様の言うことを信じ、親だとしたい、ただひたすらに人間を殺していった。

 それが当たり前だと思っていた。

 少女はそれがいい行いだと思い疑わなかった。

 いつしか、少女は心も体も闇に染まっていた。誰もが恐怖する本当の魔王へとなってしまっていたのだ。

 誰も少女を止めない。止めるものなんていない。

 少女にあるのはただの一つだけ。命を救ってくれた、自分に生きる価値を見出してくれた、先代魔王の教えのみ。そうして、授けられた従順に従う配下の魔物のみ。

 少女は自分で考えることなどしてこなかった。いや、する必要などなかった。

 だって、少女には絶対的な教えが存在する。

 それを疑うことなど、少女には考えもつかなかった。

 神様だという魔王から言われた言葉が頭の中を埋め尽くす。


「人間は悪だ。殺さねばならない。この世界を守るために」


 少女は高らかに笑う。

 もう、感情のなかった頃の面影などなくしてしまったかのように、邪悪な笑みをその口元に浮かべる。

 自分が人間であることも、少女の頭から抜け落ちてしまったようだ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 感情のない少年も、少女と同じように成長を遂げていた。

 最初の頃とは比べ物にならないほどの、微笑みが似合う少年へと変わっていた。

 王様の教育は行き届いていた。

 物心がついたころ、少年は自分が世界を救う救世主だと疑わなかった。

 なぜなら、その頃を境に世界には魔物が跋扈ばっこするようになったから。まるで自分の成長を待っていたかのように、魔物たちが少年の成長に合わせて力をつけていった。

 いくばくの時が流れ、少年は国を飛び出し旅に出ることを決断した。

 もちろん、王様も含め、その国全員が少年の旅路を祝った。魔道師も貴族も、国民すべてに見送られ、少年は本当の救世主になるための旅に出た。

 これで世界が救われる。

 魔物に怯える日々とはおさらばだ。

 そんな笑みが国民全員から感じられた。

 それもそうだろう。少年を召喚した日から今日まで、国民すべてがこの時を待ち望んでいたのだから。

 しかし、歩みを進める少年には問題があった。

 それは、魔物を悪だと思いこみ、人間は善だとする考えだ。善は助け、悪は滅ぼすのが当たり前。

 それが今の少年に心を覆っていた。

 王様の熱心な教育の賜物だろう。少年はどういった意味でも救世主だった。世界は善と悪の二つで区別できると疑っていない。魔王になった少女と同じように、自分の考えなど持っていなかった。ただ、親だと信じ、慕っている人の言葉を守るためにしか動いていない。

 しかし、少年は知らない。

 世界には善悪では図れないたくさん感情があることを。

 それに触れた時、少年の心はどうなるのか。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 君達には想像にかたくないだろ?

 

 

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