表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

1.そもそも俺の考え方がおかしいことはわかっています。


 彼女がいつできるのかと、ずっと悩み続けていた俺の紹介をしよう。



 周りの浮ついた話を聞いて、死ねと思う反面で羨ましいと思う時期がずっと続いていた。中学生の時、スポーツマンとヤンキーとイケメンばかり彼女がいて、ちょっとスポーツができ真面目くんでブスの俺は彼女なんてできるはずもなかった。できる友達はとにかく非リア。あー、イケてない組なんだと思い生きていた。友達といて楽しかったが、彼女がいないことがどうしても引っかかってしまう。The 思春期。



 そうして高校時代になる。ちなみにこの時、母親以外の女の子と喋った回数は中学三年間で20回。あまりになさすぎて覚えていた。そんな環境育ちの俺が、男子7人女子33人のクラスに三年間いるとは思いもよらなかった。初めは話すだけで顔が赤くなり、女子から、

「かわいい!ウブじゃ〜ん!」

とバカにされる始末。



 ある日、飲みかけのジュースを突然渡され、

「あげる」

と言われ、ウブな少年の俺は、

「えっ……いや、ほら……そのぉ」

と、明らかに動揺して反応。

 この反応で女子は爆笑。何恥ずかしがってんのよ、こんなのなんてこともないでしょ、とクラスメイトに言われる始末。挙げ句の果てに、ある女子から、

「童貞かよ!」

と言う、男子からすれば屈辱的な異性からのツッコミを受けてしまう羽目にあう。

 このように、頭おかしい女子のおかげか、女の子と話すことは慣れていった。三年経つ頃には恥ずかしさもなくなっていた。



 高校生でレベルアップし、女子と話す才能が開花した俺に待っていたのは、非リアの鎖だった。ぶっちゃけ、彼女を作るのは見た目ではなく、人間性だ。

 彼女を作る上で大事なのは愛です。その人をいかに思うか、気持ちを伝えるのか。願ったって自分のポテンシャルは変わらない。マイナス面を磨き、プラス面を増やして努力すれば、彼女はできる。そのことに高校生で気づけたのだ。



 が、できない。運動神経はさらに良くなった。ちょっとはイケてる系になれた。顔は変わってないが、表情豊かになっていた。良くなってる。良くなってるはずなのに、彼女はできなかった。

 もうわからない。そこでこう思うことにした。






 世の中は贔屓であふれている。それは神なのか、神というもののさらに上の存在を定義するならこの世界の創造主様かわからないが、人生に難易度を設定している。そして俺の人生には、最高難易度が与えられている。何か不自由がある生活なわけでなく、運動もでき話術もちゃんとできる、顔はブスで仕方がないけどまあいいとして。つまり、俺は普通なのだ。普通の人生を歩むことしか許されてないのだ。そうした普通の人生であるからこそ、彼女という存在を作る力を俺には与えなかったのだ。誰かに愛されるような人柄にどう頑張ってもなれない、いやさせないように、設定されていたのだ。それはきっと、神というクソ野郎、また創造主というクソクソ野郎が遥か昔から決めた因果であるのだろう。その因果は前世からも定められていて、クソ野郎のせいで俺は彼女ができない運命にさせられている。できたら死ぬという制約でもつけて、クソ神様がかなりお強い呪いをかけたのだろう。いや、かけたんです。間違いありません。だって普通ですよ。運動神経が悪いわけでなくて、人柄も悪い評判もなく、彼女を支えることもできる、まあできたことはないんでどうなるかは知りませんが、恐らくそうでしょうという推定でしか話はできませんが、そんな男ですよ。できない理由なんてそんなにあるわけではないじゃないですか。おかしいだろ日本。おかしいだろクソ神様。いや、創造主のうんこ野郎。ふざけんな、死ねよ、おいこら。

 歪んでる。歪みきってる。

 そう思うことで、自分を正当化した。

 そして、一生独り身だと覚悟を決めた。

 俺は一生独りだと。



 まあそうして歪んだまま大学生となり、なんやかんやで彼女ができたわけです。

 先に言ってしまいます。理由は謝るためです。神様、創造主様、失礼いたしました。あなた方は何も悪いことはしていませんでした。定められた運命もありませんでした。僕の決めつけでした。申し訳ありません。

 とにかく、俺は彼女ができたのだった。その過程の中で話してしまおう。すでに溢れ出ているが、俺がおかしいということを。






 彼女さんの名前はナツ、煇ナツだ。煇はヒカリと読む。美しい名前だ。まあ本人はそこまで美しくはないのだが、それはあくまで個人の意見ですので皆さんの意見とは異なるかもしれませんと言っておこう。

 彼女さんとの出会いは、大学でのある授業。

 たまたま隣の席にナツさんが座った。

「隣座って大丈夫だった?」

 と聞かれ、

「大丈夫だよ」

 が初めての会話。

 その授業は今思い返しても、人生の中でもっともくだらないと言わざるを得ない授業で、ほとんど全員が暇つぶしをしていた。

 俺は体たらくな人間で、対した話も聞かず楽をしたいタイプだ。そんな授業聞くはずもなく、俺は紙に落書きをしていた。高校の時描いた、ドラゴンの絵だ。

「ふぁっ!」

 先生の声しかない空間に、甲高い驚嘆の声が響く。

 先生は気づいてないのか淡々と話を進めていたが、教室中が声の出どころを探していた。隣の席に座っていた俺はこの声に触れないわけにはいかないと思い、

「どうしたの?」

と声をかけた。

「うまいんだもん、だって」

 目を輝かせながらそう言った。

 変な奴だが、面白そうと思ってしまった。絶対なにかあるだろ、コイツと思ってしまった。



 その日以降から、たまにではあるがナツさんが隣の席に座ることがあった。

 その度に俺は、

(コイツの裏側の本性絶対暴いてやる)

と意味のわからないやる気に満ちていた。

 しかし、実はナツさん、授業は真面目に受けるタイプで、変なところはおくびにも出さない。

 なかなか見つけることが見つけられなかったある日、ナツさんが授業前にスマホをいじっていた。ふとその画面が目に入った。それはphont という、漫画や絵、小説を投稿できるサイトだった。それは俺もよく見ている。

「これ、見てんだ」

 画面を除いていた俺はなにも考えず言ってしまった。

「知ってるの?」

「絵の練習のために見てたんだよね。どんな人の絵を見てるの?」

「そうだねぇ。ファントさんとじんたさんと骸さんはよく見てる!あとhopemanさんの漫画は毎回チェックしてて、絵が綺麗ですごいなぁーって思うんだ!あと......」

 全部書いたら終わらないのでやめますが、授業が始まってもずっと喋り続けていて、ざっと30分は話していた。

 俺は相槌をするのをやめて、「あっそう」と話を流し始めた。

「ねぇ、聞いてるの!この人いいんだよ!」

 話を流しているのをわかってなお、攻めてくる。困った。全く弾切れしない絵描きさんの名前を、無防備の俺にナツさんは打ち続けた。弾を撃ち満足したナツさんは、一言。

「今度、おすすめ教えてよ!」

 オススメ言ったらまた話が止まらなくなるじゃん、と言う言葉をしっかり噛み砕いて、

「気合い入れて紹介するわ」

と覚悟を持って答えた。

 やっぱ変=面白い、と思ってしまう俺はそう言った変な箇所を掘り出したくなる悪い癖をもっている。もうphontの話はうんざりだが、変なとこを掘り出したい気持ちは変わらなかった。

 実際、このあとどんどん変人であることが明らかになっていくのだが、それはおいおい話すとしよう。






 ここで一つ、俺の持論を聞いてほしい。

 偏見かもしれないが、phontのような画像投稿サイト好きの女子は、BLが好きな人が多いと言うことだ。同性愛に差別的な思いはないのだが、BL画が好きと言うのは一流のオタクである(偏見)。〇〇推し、攻めと受け等々。オタクしか知らない言葉。もしかしてナツさんは使いこなせているのではないか。

 これは何かのきっかけがあって気づいたわけではない。ただ、そう思った。そう、The 偏見。理由なんかあるわけない。直感だ、直感。

 でも、ここを知っておきたかった。知っておいて何か得することがあるわけではないが、

(俺の直感ってすごくね!?)

 と思いたいだけなのだ。

 そう、これは俺の直感が正しいのか確かめたい。

 ただそれだけのことなのだ。






 そうして月日が流れ、なんだかんだでナツさんと付き合うことになった。

 読者は思うでしょう。

「えっ、付き合った過程は特に書いてなくね⁉︎」

「馴れ初めは⁉︎」

「なぜ、隠す⁉︎」

 と思うかもしれません。お許しください。後々書きます。理由はシンプル。

 書ききれないからです。色々あるんで、とりあえずここはすみません。







 告白した場所は彼女さんの家。

【遊びに行ってもいいか?】

 とLIMEでの連絡し簡単に了承をいただいた。

 告白は初めてで、緊張した。振られたらどうするか。というか、こんな頭おかしい俺なんかと付き合ってくれるのか、など。考えれば考えるほど悪いことしか浮かばなかった。

 ナツさんの家に行くと、座椅子に座り、

「おつかれさま」

 と迎えてくれた。

「それ使っていいよ」

 とナツさんは、近くに置いてあったクッションを指差した。

「ありがとう」

 そういってクッションの上に座った。

 そのあと、かれこれ10分ほど他愛もない会話をしていた。一度会話が収まり、

「あのさ」

 と俺が切り出す。

「ん?」

 ナツさんがいつもと変わらない相槌をうつ。俺はナツさんの顔を見つめた。

「ナツさんのこと好きなんだよね」

 自分でも驚くほど、あっさりと言葉が出た。あまりに自然で、日常会話のようにスッと耳に入るようだった。

 ナツさんは一瞬ポカンとした顔で俺を見る。そして、少し驚いた表情で、

「へっ?」

 と声を漏らす。ナツさんが俺を見つめる。

「好きなのさ」

 もう一度繰り返した。

「俺と付き合ってくれませんか?」

 少し恥じらいが生じ、顔が赤くなるのがわかる。益々恥ずかしさが現れ、合わせていた目線を外した。

 沈黙の時間。あー、振られるね。これは振られるわ。振られる間ですよ、間。

 本当にダメだったら嫌だな。

「いいの?」

 ナツさんが口を開いた。

 いまだ恥ずかしさが残る俺は、ゆっくりとナツさんに目線を向ける。

 ナツさんの顔は、少し赤くなっていた。このとき、ナツさんの目線は俺の方を向いていなかった。

「逆にいいの、私で?」

「ナツさんに告白したわけだからさ、嫌って俺がいうわけないだろ」

 あまりに自然な返しだった。考えることよりも先に口が動いていた。

「じゃあ、付き合う?」

 ナツさんが恥ずかしそうに下を向きながら呟く。

「付き合ってほしいよ、俺は」

 ナツさんはまだ下を向いたまま、顔を赤らめている。

「よろしくお願いします」

 か細い声でそういった。

「こちらこそ」

 はっきりとした返事を返す。

 この瞬間、急に安心感に襲われて、今までの緊張感が一切なくなった。自然と笑みが溢れる。

「はぁ〜、よかったぁ」

 安堵のため息が漏れた。

 急に訪れた安心感で、硬くなった体が緩くなるのがわかる。

「振られたらどうするか、心配だったぁ........」

「ふふ、告白お疲れさま」

 笑顔でナツさんが答える。

「ねぇ、ご飯食べた?」

 時計を確認すると午後7時。まだご飯を食べてないことに気づくと、不思議なもので空腹感が押し寄せてきた。告白に集中し過ぎたせいで、お腹を空かしていたことは忘れていたのだろう。

「食べてないわ」

「じゃあ、どこか食べに行く?」

「いいよ」

「それじゃ、準備するね」

 そう言うとナツさんは立ち上がり、家を出る準備を始めた。

 ふと、ナツさんが座っていた席に目がいった。

(あっ.......)

 思った言葉が、口の手前で止まった。驚きと戸惑いと欲求が、入り混じった独特の顔を今の俺はしているだろう。

 目に入ったのはたいそうなものではなく、ただの漫画。

 その瞬間、脳内がギュルギュルと急回転し、脳裏にある文字が浮かんだ。

 その文字は、BL。

「あの、一つ聞いてもいい?」

「ん、なに〜?」

 あまりにも浅はかで、深く考えず感覚で解き放ってしまった言葉に俺は後悔しか持たなかった。BL好きでしょ、と聞く気満々で声をかけてしまった。

 ここで、

「いや、何でもない」

 という返答をしてしまうと、絶対何かあるでしょ、という会話になってしまい、疑問を抱いたままになってしまう。

 じゃあ、ここで全く違う質問をすればいいじゃないか、と思うでしょう。ところがどっこい。今俺の脳内には、でかでかと”B”と”L”の文字が光り輝いている。他の言葉を考える余地などありはしなかった。

 ここまでの思考時間は、0.7秒。

 ナツさんの受け答えへの返答は、1秒。

「BL好きっしょ?」

 見た目は冷静、脳内動揺の俺が、ちょっとチャらく言えば冗談みたいに聞こえ、ナツさんをあまり傷つけないだろうも思いこの言葉が出た。

 今思えば、このような気遣いをしたところでまるで意味はないことを、この時は全く考えていなかった。

「え......」

 ほらぁ〜。

 動揺してんじゃ〜ん。

 最悪だわぁ〜。

「見てるよー。あ、面白いのあるんだよ」

 このテレビ面白いよねぇ、という会話並みの落ち着き。

「あ、そ、そうなの......」

 拍子抜けしたことは否めない。

「なに、もしかして嫌だった?」

 恐る恐るナツさんは問い返す。

 俺は漫画が好きで、オールジャンルいけるタイプだ。全く気にならない。

「いや、全く!」

「なら良かったぁ」

 ナツさんは笑いながら答えた。






 玄関で二人で準備してるとき、ふとナツさんが俺の方を向いた。

「ねぇ、私も一つ聞いてもいい?」

「なに?」

「なんで、BLについて聞いたの?」

 そういえばなんでだったっけ。質問を聞いてからそう思った。

 強いて言うならこれかと思い答えた。

「気になったから」

 ナツさんは声を出して笑った。

「変な人だね」

「まあね」

 そう言うと外に出て、二人歩き始めた。

 俺は変な人だってことは知っている。

 だからこの人の変なところも認めていこう、と俺はそう思うことにした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ