出会いは突然に
やぁ、俺はエルビン・マークスだ。
所謂転生者だ、見渡すと白い空間に神を名乗る老人、初めはテンション上がったね、チートだ美少女だ、なぁんてウキウキ話を聞いていたけど、転生特典なんてなかったよ……一方的に話を聞かされて、終わったらぽいっと転生させられた。
母も父も優しかった愛情はあっただがチートはなかった、ステータス画面もなかった、技巧と呼ばれる『スキル』の様なものはあるらしいと言うのは分かった、それだけで俺のテンションを上げるのには十分な情報だった。
それから兵士をしている父に槍術、剣術、体術など基本的な事を習った、スキルを使って見たいその一心が突き動かして5歳からこの世界アインツレイの成人年齢16歳までの11年間ほとんど毎日通いつめた。10歳の夏初めてスキルを発動させた実感に奇声をあげながら同じスキルを連打し続けて父に怒られた思い出ははっきり覚えている。
しかし成長チートなんてものも無い、11年修行したと言っても、俺が歳を重ねる中で共に老いてゆく兵士長である父を倒せたのが11年目である、しかし父より強いものなどこの国にはゴロゴロいるのだ、視察に来ていた王国騎士団長へ組手を頼んだ際瞬殺された事もある。
修行の合間に前世知識で商業チート出来るんじゃないか?と思い立ったが生前の技術、例えばマヨネーズなんか普及していたり、農業なんかも素人の助言する事のない程、前世と同じまたはそれ以上の技術が有った。聞いてみると500年前魔王を封印したのは転生者の勇者であり、封印を解いた魔王を再封印したのは召喚された少年だったそうだ。そうこの世界割と転生者が居るようだ。そのせいで技術が伝わって居る様だ。
そして今現在冒険者5年目21歳の春、冒険者としては中堅、実力も認められるようになった頃、やばいのに目をつけられてしまうことになる。
俺たち冒険者は基本パーティを組んで行動する。少なくて2人、多くて6人。大規模討伐戦のような物なら各パーティでレイドを組んで戦うようなものもある。
そして俺たちのパーティは4人
俺と剣士のスレイブ(男)、術師のエレミア(女)、弓士のアルテ(女)だ。
一見バランスのいいパーティの様だが、いや、バランスはいい、各々の役割も男女比も良かったのだ。
そう良『かった』このパーティの連中とは三年の仲だ。むしろ仲良しこよしである。このパーティの不和を招いて居るのは寧ろ俺だ。
エレミアもアルテも可愛い、美少女だ。俺より年下の女の子達、その子達が2人ともスレイブとくっついた、いやそれは良いのだいやそれが原因なのだが……3人がいちゃいちゃするせいで俺だけ肩身がせまいのだ。苦痛、苦痛なんだ、まざまざと見せつけられる友人同士のいちゃいちゃが。
「俺はお前らより年上だからパーティのお兄さんで居たい」
なぁーんて言ってても初め転生すると聞いて憧れて居たのはスレイブの立場なんだよぉ!
じゃあ俺もスレイブを好きになって仲良くスレイブきゅん3人で分け合おう♂なんてのも無理、女の子が好きなんだものしょうがない。
悩んで、黙りこくって、心配されて、取り繕って繰り返し繰り返しだった。
そんな中……
「おい、おいってば!エルビンさん!」
「はっ!?あぁ何だスレイブか、ビックリさせんなよ」
マジでびっくりしたのだ、ぼぉっとして居た俺が悪いんだがマジで心臓に悪い。
「ダンジョンの下層なんだ、頼りになる奴にぼーっとされてちゃ困んの!」
「すまんすまん」
俺たちは中級ダンジョンの中でもレベルの高いダンジョンに潜って居た。湧いてくる魔物の素材や、ダンジョン内の出土品などを売りさばくのが冒険者の仕事でもある。
「スレイブー!エルビーン!宝箱あったよぉ〜!」
この部屋の探索をして居たエレミアとアルテが戻って来た様だ。
「中身はまだ確認していない、みんなで開けよう」
「みんなで開けるのが良いって占いで言われたから待ってたの〜」
しっかりした喋り方して居るのがアルテ
ほんわかした喋り方をして居るのがエレミアだ。
「きてきてぇ〜」
呼ばれたところに向かうと、大きめの宝箱が有った。
「んじゃ、いっせーので開けるか」
「よし「「「いっせーの」」」」
錆びた蝶番が擦れギギギという音がなり、中には。
「短剣か?」
黒をベースとし刃の部分は紫色、装飾として刃より少し濃い紫色の蔦の装飾が施されていた、しかし短剣にしては少し長いな……
「なーんか嫌な感じだな」
スレイブはそう言うが俺は超かっこいいと思った。中二病が抜けきれてない可能性はある。
「なら俺が持って帰ろうか?」
ちょっと振って見たいと思った結果の発言なのだが
「それじゃあお願いする」
「お願いしますぅ〜」
「頼みました」
満場一致だった。そんなに嫌なのか……?
短剣の持ち手部分を掴み持ち上げると短剣の持ち手が伸び、短槍程の大きさになった。
「うおっ!エルビンさん、ちょうど良かったじゃないですか何時もの槍結構磨耗してるみたいでしたし」
「そうだな」
少し蔦の装飾が動いた様な……いや気のせいか……?
「ここまでにして今日は帰るか?」
「そうですね、割と時間経ってますし、出たら案外夜になってそうですね」
じゃあ帰るかと、踵を返そうとした時
ズルル、ズルルと不気味な音が槍からした。
「蔦が……伸びてるぅ〜?」
エレミアの間抜けっぽい声が不気味さを緩和させるが
いきなり蔦が腕に絡みつきその蔦の先端が腕の肉を貫き体内に進入して来た。
「がっがあぁぁぁぁぁぁぁ!!」
痛みが、蔦がどんどん腕を体へ向けて登ってくるのがわかる気持ち悪い。
「エルビンさん!くそ、呪われた武器だったのか!?アルテ急いで転移結晶だ、早く神官様に見せないとエルビンさんが死んじまう」
「転移結晶だなっ!、有ったぞ!」
「なら早く!急いでくれ!耐えてくれよエルビンさん!」
意識が薄れてゆく皆んなの声が聞こえなくなって行く中で、脳に直接語りかける様に一言聞こえた、その一言は生涯で忘れる事のできない『愛の言葉』で『呪いの言葉』だった。
『ズットイッショ、ニガサナイ』