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TYPE B  作者: BALmf
2/26

#02 あかり

初めての出逢いは

何でもない日で、

何でもない日差しの、

何でもない初春の日。



まだ真新しい教本と、

何年も履いていないヒールの無い靴で、

遥々隣の県から

電車と送迎バスを乗り継いだ。


まだ慣れない教習番号を呼ばれて

顔を上げると、

どうってことはない普通の指導員。


初めての会話はなんだかぎこちなくって、

指導教本に書いてあるような

模範解答ばかり並べる人。




「初めて」

という言葉はいつもずるくって、

特別なことなんて

何一つ無いこのひとときに、

後になって言い訳をくれるんだ。


初めて運転した車の補助ブレーキを踏んでくれた人。

初めて握ったハンドルを一緒に握ってくれた人。




教えてくれる指導員なんて誰でもよかったけど、

たまたま連続で巡り逢ってくれた人。


二度目に見るちょっぴり見慣れた顔に

なんだかほっとしていたから、

初めて会話らしい会話が始まった。


「お仕事何されてるんですか?」


カーブを曲り切った時、

唐突にそんなこと聞かれたから、

ただでさえコースからはみ出してしまう私は

大きく外側にふらついてしまった。


「実は自動会社に少し前に転職したんです」


自動車会社に勤めているのに

今更免許を取りに来て

こんなに下手くそで

カーブも曲がれないことが恥ずかしかったけど、

隣に座るあの人があまりに穏やか過ぎたんだ。


あの人も

実は転職して指導員になっていた。

前の仕事は自動車販売店の自動車整備で、

偶然にも私が勤めている自動車会社の販売店だ。


驚くべき偶然なんだか

単なるちっぽけな奇遇なんだか

そんなの分からないけど、

たった二回しか会っていないあの人を

ほんのちょっぴり身近に感じさせてくれた。


指導員のあの人にとって私はお客様。

だけど、

もしあの人が転職していなかったら

逆に私にとってあの人はお客様だった。



教習車を降りる時、

前回のように

ありがとうございますを言うと、

「良い車を作ってくださいね」


もっともらしいような

もっともらしくないような

だけど、

指導教本には書いていなさそうな、

なんとも間が抜けた言葉を

少しはにかんでくれた人。

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