#18 重なる想い
初めて入ったあの人の家は
その広い空間をなんだかもて余し、
ところどころに
あの人の面影を落としていた。
静けさが漂うリビングは
食卓に椅子が四つあり、
予定の無いまっさらなカレンダーが飾られていた。
0分を刻む掛け時計からは
私の大好きなショパンのメロディーが響いていた。
とりとめのない話ばかりで、
なかなか核心に切り出せない私に、
小さな肉まんをラップに包んでレンジで温め、
ただ静かに見守っていてくれた人。
時計とにらめっこし、
たぶん紅くなっている頬を
両腕で包み隠すように
冷たいフローリングばかり見ていた私が、
時折チラチラあの人を覗き込むと、
あの人の方はリラックスして、
「どうしたの?
俺に話あるから来てくれたんでしょ?」
ちょっかい出して子供扱いするんだ。
「あのね・・・」
きっと言い出してしまえば、
この溢れる想いは途切れないのだろうに、
今日は妙に頼もしいあの人の前で、
まだまだ子供の私は
その最初の一歩を踏み出せない。
モジモジしたまま三十分も経ってしまったから、
「これからもずっと友達で居てくれるのかなあ?」
あの人への唐突な問いかけは、
こんな間抜けなものになってしまった。
当然のごとく、
あの人は半笑いとはてなをその瞳に浮かべ、
「そうだよ。友達で居てあげるに決まってるじゃん」
優しく諭してくれた。
・・・そうじゃないんだよなあ。
「これからも友達のままで、
それは
変わることはないってことでいいんだよね!?」
こんなに
いつもとは明らかに違う私のはずなのに、
「俺バカだから分からなくて」
あの人は本当に分からないのか、
照れ笑いなんかするんだ。
思わずつられて照れ笑いしちゃうと、
「あ!
俺たちの関係性のこと!?」
今頃になって、
意味深なことに気づいてくれた。
私はまだ何一つ答えなんてもらってないのに、
なんだかそれだけで安心してしまった。
あの人は
見つめていた私の瞳からすっと視線を逸らした。
「今日でこうやって逢うの何回目だっけ?」
まだ六回の約束しかもらっていない私に尋ねるんだ。
ぽつり、
ぽつりと、
「手紙もらってから、
夜ご飯食べに行って話して
楽しかったよ。
有給合わせてくれて
朝から遊園地行けて楽しかったよ」
まだ始まったばかりの
あの人との歴史を呟いてくれた。
一呼吸置いて、
「俺の言いたいこと伝わった?」
あの人らしい照れた瞳でからかうんだ。
今度は私の瞳がはてなで埋め尽くされてしまったから、
「そうじゃなくて・・・」
こんなじれったい二人だったから
意味深な話には
あの人の静かな家がちょうど良かった。
「少し早いかもしれないけど、
よければ俺と付き合って欲しいよ。
もっと知りたいし、
もっといっぱい色んな所に行きたいと思ったよ」
あの人らしく
どこか目線を逸らした柔らかい声だった。
「手紙もらってすごく嬉しかったし、
白いセーターとかもすごく可愛いと思ったよ。
俺奥手だし、
すごい照れ屋だからそこは分かってよ」
最初だけは特別サービスしてくれて、
今まで聞きたかったことを
口に出してちゃんと言ってくれた人。
こんな時に限って
いつもあだ名なのに
名字で私を呼んでしまう人。
こんなにも
嬉しくて嬉しくてたまらないはずなのに、
戸惑いを隠しきれず
黙っている私に、
「返事は急がなくていいよ。いつまでも待つよ」
まるであの人から告白したかのように振る舞ってくれた人。
あの人の家を出る時、
「駅からの道覚えないとなあ」
ぼそっと言う私に、
「また来てくれるの!?」
嬉しそうに可愛く喜んでくれた人。




