SS04 「めぐまれない人に愛の手を」
チャイムが鳴ってドアを開けると赤い雨合羽を来た少女が立っていた。
「恵まれない人のための募金をお願いします」
募金?
「募金です」
小柄な体を丈の長い雨合羽が覆う。切りそろえた前髪の下から黒い水晶のような瞳が見えた。血のような色の合羽とは対照的に肌は白く、きめ細かい。折れそうな細い首に黒いリボンが細く巻かれている。陶器でできた美しい人形のようだ。
「私たちは恵まれない人のために活動しています。協力をお願いします」
少女は手にもっていた箱を差し出した。白い箱に細いスリットが入っている。
・・・・・・恵まれない人ってどんな人を対象にしているの?
「S区の三丁目、七番地にお住まいのM・Hさんです」
ひどく具体的な答えに僕は戸惑った。驚いた理由は別にもあったが。
「M・Hさんは恵まれない人なのです」
・・・・・・どんな風に?
「良い人なのに女性にもてません。それに友達もいません」
・・・・・・はあ。
「頼み事が断れません。それで失敗を押し付けられて会社を辞めました」
・・・・・・よ、よく知っているね。
「神様は全てを見ておられます。よい事も、悪い事も、全て」
具体的にはお金を集めてどうするわけなのだろう・・・・・・その・・・・・・M・Hさんに。
「私があの人を愛します」
え?
「私があの人の所に行って、一緒に暮らします。そして愛します」
少女の頬が赤くなった。少し俯く。
「神様がそう決めました。でも、これは私の意思でもあります」
お金はそのための経費です。新しい生活には色々と必要ですから、と。
僕は手持ちの金全てを渡した。今月分の失業保険も。彼女はお辞儀をして去っていった。
それからずっと待っている。
二人暮らしに備えて新しい職も決め、どん底だった生活も改善した。
念のため、表札も新しくし、住所もそこに書き加えた。三丁目、七番地と。
・・・・・・騙されたとは思っていない。