チートハーレム嫌いじゃない!
【王都闘技場】
俺の目の前には前回優勝者の、重騎士全1ランクのマクシームが身の丈に倍する斧槍を振り回し、こちらを威嚇している。激しい風切音とその風圧によって、自慢の赤髪が揺れ、聴覚、触覚も刺激される。
こいつはレベルも高ぇが持っている武器も重騎士最強武器、武九反と来てやがる。
間違いなく今まで戦ってきた中で最強の敵だ。
痺れる重圧浴びせてくれるじゃねぇか。これだからこのゲームはやめられねぇ。
極度の前傾姿勢で2つ、色の異なる刃を構えて、突進の準備をする。
この試合開始の合図があるまでの待ちはいつだってたまらなく興奮しちまう。
来い………
来い…
来い!
来い!!!!!!!
「第29回特A級闘技会決勝、試合!開始!」
〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
「「「カンパーイ!」」」
「いやぁーレッドバルトさんの試合はやっぱ面白いっすわー!自分よりゴツイ相手を手数と早さで圧倒して仕留める!マジかっけーすよ!」
「くはは。そーだろそーだろ」
試合後の酒場にて浴びるように、酒をかっくらい、舎弟のヨイショも小気味良く、気分がいい。
「レッドさんかっこ良すぎー。ねぇ今度は何貰うのー?私欲しい装備あるんだけどなー」
「あっ、ちょっとずるいー私も私もー」
両脇に女を侍らせ、その女達がおねだりしながら腿に腕にタッチしてくる。メイとサツキというヴァルキリーとエルフのアーチャーのコンビだ。彼女たちは素晴らしく容姿の造形がいい。んーもう敵になるやつもいないし、貢いじゃおうかなー。くはは。
一番ランクの高い特A級闘技会にて優勝するとゲーム内における特典を得ることが出来る。俺は第七回大会の優勝から数えてこれで3度目の優勝となる。
一回目の願いは双剣士最強の武器を願い、黒刀夜盲を手に入れた。双剣士の武器なのに1振りってどういうことだ!と運営に文句をいったものだが、全く受け付けてもらえなかった。
そして2度目の願いで白刀那楼を得た。
ウォリアーオンラインは剣士、騎士、アーチャー、聖騎士、重騎士、魔術師、拳闘士、果ては銃士など多岐に渡り、そのほとんどの職においても優劣が誤差程度でしかないという恐ろしいほどの緻密な調整がされている。
唯一不遇とされていたのが双剣士だ。
手数は多いものの決定的に攻撃力に欠け、双剣というシステムに制御された状態であっても扱いの難しい武器。稼働初期にカッコよさにつられて双剣士を選んだ人間も、多くは不遇職ということを理解したらすぐに転職した。何しろ対重騎士、聖騎士とのダイヤグラムは3:7で確定という圧倒的天敵が存在する中では闘技会優勝は望めるべくもない。
その評価を第七回大会で覆したのが俺だ。
廃人でも度を超えている時間をかけた重騎士系モンスターによるレベル上げと同時に行われたプレイヤースキルの底上げ。それにより生み出された騎士系キャラにのみ関節に特効が発生することを利用した全弾急所連撃。
第七回で当時の聖騎士全1プレイヤークリフトに決勝で披露した時には、俺の赤い髪、俺の名前、特効判定に発生する赤いエフェクトを見てベルリンの赤い雨と名付けられ、双剣士の評価が一転した。
一時は双剣士と重聖騎士のダイヤも5:5に戻されたり、俺に憧れ双剣士に転職する者が増えたが、ベルリンの赤い雨のとてつもない難しさ、対重騎士の無理ゲー感に結局は元サヤとなった。双剣士と重聖騎士は3:7、レッドバルト:重聖騎士のみ7:3というのが世間の評価だ。
それに加えて最強の双剣を手に入れてからは本当に敵がいなくなった。黒白の片手剣は両方の攻撃力を合わせれば聖騎士に匹敵し、かつ手数は聖騎士の倍というものだから最早俺は完全な公式チートとなった。
「くふふ、じゃあ今回の特典をメイちゃんに、来月の特典をサツキちゃんにプレゼントしよう」
「きゃーレッドさん大好きー!」
「絶対だからねー!ふふ。」
おおう、こりゃあいい。美女二人に抱きつかれて、お胸が当たる当たる。これこそ勝ち組の特権とくらぁな。
「あ、ところでレッドバルトさん来週の大型アップデートで新職くるらしっすよ」
「ほぉ。もう情報出てんの??なんて職よ」
「なんか運営が小説投稿サイトと業務提携?したらしくて新職がそれにちなんでノベリストって話なんすよ。」
「くはは。小説家がどうやって戦うんだ。くっそ笑える。ネタ職確定だな」
「っすよね。」
ウォリアーオンラインも3周年を迎えて、運営も100万人登録の記念にお祭り感覚でネタ職生み出して、もっと盛り上げようって腹か。嫌いじゃねぇよ運営。今まで良調整を生み出してきたからこそ許される笑いだ。
「不遇と呼ばれた双剣士より下がやっと来やがった!これでもう最弱職とは呼ばせねーぞ!!」
「はは、アンタ現役最強じゃないすか!」
「きゃーレッド面白ーい♪」「きゃはは」
酒場は夜遅くまで喧騒が止まなかった。
〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
3日後、大型アップデートと共に、ウォリアーオンライン運営会社が超大型小説投稿サイト「小説家だろう」管理運営会社の傘下に入ることが発表され、今回のアップデートにより新職ノベリストが誕生した。
ノベリストはこれまでの戦闘職とはだいぶ趣が異なる仕様となっていた。
まずレベルが存在しない。
ウォリアーオンラインに小説投稿サイトの著者評価ポイントシステムを組み込み、ノベリストの強さはそのポイントに応じて変わる。ポイントを多く獲得している人気小説家はそれに応じて強くなる仕組みだ。
そしてモンスターを倒すことでは経験値は入らず、モンスターを倒すごとにランダムでプレイヤーのデバイスに自身の作品のページを飛ばし、閲覧で1ポイント、更には評価を付けてもらいポイントを得るという運びで更にキャラを強化させていく育て方をしていく。
また一定ポイントを得ている自作品のキャラを具現化させ、一緒に戦うことが出来る。
これもまた、ありそうでなかった召喚士といったような職をノベリストに組み込んだ仕様だ。
そして何故小説投稿サイトがヴァーチャルネットワークゲームに参入してきたのか最大の疑問が現実時間と仮想現実没入時間の差異によるものだ。
更にはキーボードで文字を直接入力することなく思考転写によって文章を出すことの出来る機能もあり、大幅な作業効率化を見込むことが出来る。
時間のない兼業小説家にとって現実の1/6に圧縮されたこの世界はまさに執筆にうってつけのツールであった。とりわけ、多数の読者を持つ人気作家達は例外なくこの世界に飛び込んでいった。
「ノベリストPP2112 異世チーレムダンhttp://**** キャラ勇者 パーティ募集してまーす」
「ノベリストPP1450 VRチーレムデスゲhttp://*** キャラ剣士 パーティー入れてクダサーイ」
「なんだこりゃあ・・・・」
パーティ募集の広場の様子が様変わりしていた。ノベリストが所狭しとパーティ募集をかけている。よくわからん単語が多すぎて目眩がする。チーレム??なにそれ。
今までであったなら、「重騎士lv72 SV4.6パーティ募集」とかいう単語を自身のキャラの上にウィンドウを出していた筈だ。レベルとSTR(筋力)AGI(敏捷性)VIT(体力)などの振り方を見てパーティを決める。因みに俺は「双剣士lv96 SA2.8」だ。
持っているデバイスからウォリアーオンラインの情報サイトにアクセスしてみると、既にテンプレが存在していて自分の執筆している作品の属性?を載せてそいつの成長性を図る意図らしい。意味が分からん。なんだ異世界に迷い込んだみたいだ。
既に掲示板では「ノベリストTUEEEEEE」「VRでチートが現実にww俺の書いてる小説だコレ」などと盛り上がりを見せている。
「レッドバルトさん!マジやばいっすよ!」
駆け足で向こうから舎弟がやってくる。こいつは情報が早くて役に立つやつだ。ザ、異世界の説明役。
「ノベリストが相当ぶっ壊れって話っす!PP2000帯ですら今日のE闘技会を無双状態っすよ!全くもって通常職がお話になんねぇ!」
闘技会はE~Aの日別大会が開催されていて下位のランクほど1日の開催数は多く、Aランクは各都市で1日一回、そして月初めに王都で特A大会が開催される。
Eランクが大体レベル20~30帯が目安で後は10レベル刻みで上がっていく。
特A闘技会は80後半はないと参加しても必敗で終わる。
「レッドバルトさん、恐らくは俺の読みでは来月の第30回3周年記念特A闘技会はノベリストだらけになってると思うっす・・・今から対策しないとやべぇっすよ!」
「くはは。小説家だろう??噂の召喚が強かろうが、そいつら躱して、ヒョロヒョロの本体ぶったたきゃすむ話だろうが」
「ノベリスト自体もクソ強ぇんですって!!Eランクで初狩りしてるブチ折りのトンパがノベリストに向かって斧スキル、武器破壊使ったら、逆に斧ぶち砕かれてましたよ!しかもあいつらの武器羽ペンすよ!?羽ペンで斧砕かれてトンパも俺らも愕然としちゃって」
「かは。所詮はEランクで弱いものいじめしてる野郎だったってことだろう」
闘技会でイカれちまった武器は補修保証なんてねぇからな。死んじまった時のペナルティが無いだけで壊れちまった武器は鍛冶屋持って行くっきゃねえし、砕けりゃその武器はおさらばだ。外道のやるこった。因果応報ってやつか。
そんで俺だってEランク程度サービス開始初期だったとはいえ無傷で勝利したはずだ。
恐るるに足らんなそんなもの。
そんなことより今日は授与式だ。メイちゃんはヴァルキリーだったな。とすっと望むものは聖槍か。聖槍プレゼントしてメイちゃんGETだぜ!俺の聖槍も準備万端だ。くはは。
〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
1か月後、第30回記念闘技会は異様な雰囲気に包まれていた。
各職の全1ランクプレイヤーが揃っているのは例月通りだが半数の32人がノベリスト。
戦うものとは思えない風体の文系男子と豪壮な鎧や武器を持ち武装した人間が参加者の色を分けていた。
1回戦から共に凌ぎを削ってきた著名なプレイヤー達がノベリスト達に屠られていく。
なんだこれは・・・
「第5試合!双剣士レッドバルト対ノベリストクーガー!!中央へ!!」
一回ぐらいノベリストと戦っとくべきだったか?こりゃあ・・・
どうも胸騒ぎがしてならねぇが・・・
くはは気のせいだ。俺は最強のプレイヤーであり公式チートである自負がある。
「レッドー!!!!ノベリストなんかに負けないで!!」
「おいレッドバルト!!!てめぇが最後の砦だぞ!!絶対勝ちやがれ!!」
「レッドバルトさん血の雨降らしてほしいっす!!」
そうだ。ベルリンの赤い雨は最早聖重騎士特効の必殺技じゃねぇ。軽装職には露出した急所をつくことで同じ効果が出せる対人間特効のまさしく必殺だ。
俺の肩には全通常職達の期待と未来が乗っかってる。くはは軽ぃ軽ぃ。
「ふむ。君かい?ウォリアーオンライン最強プレイヤーのレッドバルトとかいうのは」
ヒョロっとした金髪の優男だ。羽ペンを持ち、その見た目には武の臭いは感じねぇ。
だが妙な違和感がある。
「くは。そうだ。てめぇら青瓢箪じゃあ及びもしない高みにいるプレイヤーだぜ記念になったな」
「うん。本気で戦わせてもらうよ」
開始の合図まであと数秒、敵に狙いをつけて一瞬で勝負の方を付けるべく、いつもの必勝体制を取る。
いつもと違い、興奮と怖気が同居している気がする・・・
来い……
「因みに君のレベルは96だそうだね。言っておくと僕のPPは13万だ。
レベル換算でいうと180ぐらいにあたるそうだよ」
…来い…
「そしてPPが10万を超えると小説キャラだけでなく小説に登場する概念まで具現化できる」
来い!
「見せよう君に。最強を。本当のチートを。」
来い!!!
「試合!開始ィ!!!」
「ノベライズ!!!!聖剣エクスカリバー!!!!!!」
「!!ベルリンの赤いa…」
ああん??くはは・・・
双刀が砕けて・・・・
ああ。頭が吹っ飛んじまった。
〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
結局、第30回闘技会は組み合わせに作為が見えるほどに一回戦で全ての通常職が消え32人のノベリストが勝ち進んだ。
レッドバルトを瞬殺したクーガーが順当に優勝を決め、波乱の記念大会となった。
そして翌日の授賞式。
完敗だ。瞬く間に負けちまった。くははノベリストが新しい公式チートってか。やる気も失せちまった・・・
このゲームは最早クソゲーと化した。もうやる意味もねぇ。この授賞式が俺の引退式だ。
チッただ苦い引退式だぜ・・・最強を目指さずこのゲームをただ楽しく遊んでる奴らは新しい最強さんに尻尾振ってやがる・・・胸糞わりぃ・・・
「あ、レッドバルト‥じゃないすか昨日の試合はお疲れーっす。
あっと・・・それじゃあ新アニィの受賞始まるんで失礼しやす」
なんだこいつの態度は・・・「俺はレッドバルトさんの一の舎弟っすから!」って言ってたじゃねぇか・・・
「クーガーカッコイイー!!!こっち向いてー!!」
「あっメイのバカ!レッドバルトがいるって・・・」
「んー??もう知らなーい。」
なんだよ・・・「あの・・・やっぱり私一人じゃ怖いから、サツキのが揃ってから・・ね?」ってのは俺が優勝できなかったらもうバイバイって意味だったのか・・・
くそったれ・・・・胸糞悪いどころじゃねぇ・・・運営があり得ねぇんだ・・・なんなんだこのクソ調整は・・・
やめてやる・・・こんなゲーム・・・
「さぁ闘技会に優勝した栄えある闘士よ!ふふん。君は何を望むのかな?」
あの闘神とかいう女に媚びた可愛らしい風体の猫だかなんだか分かんねぇマスコットも今思えば腹立たしくてしょうがなかったんだ。潰れちまえ。
「はいっ!あ、あの、奴隷NPCなんかでもいいですか?あの僕に従順で僕のことを大好きで・・・」
・・・・・・・・
「んふふ。クーガー君は中々面白いものを望むね。いいよ。進呈しよう!」
「マッマジですか!そんじゃ容姿は獣耳で、服は・・」
・・・・・・・
「キャー私も奴隷にしてー!!いっぱい尽くすから!!」
「ずるいよ!メイばっかり!私もー!クーガー様ー!」
・・・・・・・
今分かった。
ノベリスト共の書いてる小説の属性にこぞって入っていたチーレム。
奴 チーレムとかエルフ チーレムとかいう単語の羅列それはつまりは男の夢。
つまりは チート と ハーレム か!!!!
「うわぁホントにきた!!ぼ、僕が君のご主人様だ!こっ、これから・・・」
クソ運営とはおさらばしよう・・・・
運営と新たにこの世界に現れたノベリストのせいで世界は終わった。
さらばウォーリアーオンライン。三年間ありがとう。
俺の双剣士としてのチートは努力によって得たチートだった。
こんな、天から恵まれた棚ぼたのようなチートなんて認めねぇ・・・
降って湧いた女の子、誰にでも尻を振るような尻軽女なんぞになんの価値がある。
純愛こそが美しい。一生涯1人の女を愛し続けるのが甲斐性ある男だろう。
チート。
ハーレム。
等しく価値がない。
チート…
ハーレム!!
そんなもの!!
絶対に認めねぇ!!
ピンポンパンポーン
「ここで重大発表だよー?全世界に闘神ちゃんがお伝えするね~
新規のみに受け付けていた新職ノベリストだけど通常職からの転職も実装されましたー!ぱちぱち」
な・・・ん・・だと・・?