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特殊生物災害  作者: onyx
5/16

前兆

現在地:石狩岳付近

時刻:09時13分

高度1000m

観測ヘリOH-1 コールサイン「鷹の目」

いつもの偵察任務だ。そう、連中の巣穴を探す任務である。連中は大抵その辺の地面から突然地上に現れたり山の傾斜から飛び出して来たりするのが殆どだがそういったルートは連中が出現すると同時に埋まって無くなる事が多い。とっとと本拠地を見つけ出して叩かなければいつ最初の出現時のような大群で現れるか分からないので、毎日こうして巣穴を探すべく石狩岳を中心とした一帯を偵察しているのだ。

「どうだ今日は」

「毎度同じ……特に気になる物は無いな」

前席パイロットの大井二尉が後席観測員の河村二尉に訊ねる。既に何十回とこの一帯を偵察しているがそれらしい物は未だに発見出来ていなかった。ぼちぼち捜索範囲を広げる時期かも知れない。もうこの当たりで探していない場所は無いし怪しいと思える場所もマークしてある。このまま通常の偵察任務に戻り、コースを巡回して帰還し本部に偵察ヘリの増派を具申するのが得策だ。下手に長居して燃料を無駄に消費するよりはいいだろう。

「このぐらいでいいかもな、今日は切り上げよう」

「了解」

機首を別方向へ向けてその場を去る。規定のコースを巡回し終わり、警戒本部へ戻ろうとしたその時だった。熱センサーが巨大な熱源を探知。地中をゆっくりと南下していた。延長線上には帯広市がある。

「ちょっと待て、何だコイツは」

「どうした」

「デカいぞ……50mはある」

「とうとう女王様のお出ましか、報告するぞ。鷹の目から警戒本部へ、異常を感知した」

上士幌町の警戒本部へ第一報が届く。全警戒線展開部隊に対して第一級の戦闘態勢が命じられた。武器庫と燃料庫が解放され、搬出された大量の物資が山積みになっていく。同時に巡回に出ていた部隊が全て呼び戻された。鷹の目の交替に向かう別のOH-1が飛び立ち、非常線の道警警備部隊へ撤退準備の要請が送られると警戒線付近で巡回中だったパトカーがサイレンを鳴らしながら全て引き上げて行った。道警釧路方面本部もこれに呼応しSATと銃対に出動待機を下命し、帯広市へ機動隊を出動させてライフライン関係や市庁舎の警備を開始している。


警戒本部指令所

「全障害に通電チェック、監視モニター及び動体センサーから目を放すな」

指示を飛ばすのは警戒線展開部隊長を務める工藤一佐だ。彼を筆頭に部隊は普通科・機甲科・特科の主戦力が1~2個中隊ずつ、1~半個中隊からなる各種支援部隊と特に制限のない火力支援部隊・予備戦力で構成されている。俗に言う戦闘団の編成に近いが規模は大きいので米軍の任務部隊に近い構成だ。

ここの防衛を任されているだけあってその権限はかなり大きいもので、旅団の各部隊及び旅団司令部や方面隊司令部・空自・海自への直通回線が揃っており、緊急の際は事後承諾と言う形になるが必要な部隊に対し司令部を通さないでここから直接呼びつける事が出来るようになっていた。最もそれが機能していたのも最初だけで現在はこの一帯に展開している陸・空の部隊へ繋がる直通回線を使用する事の方が多い。

「通電チェック終了、全障害異常なし」

埋設してある爆薬のチェックが終了。ここから遠隔操作での起爆が可能だ。もし連中が押し寄せて来たらまずはこれで損害を与え進行スピードを遅らせる。

「現時点を持って24時間の臨戦態勢に移行する、関係各所へ通達急げ」

「30分で増援が到着します。当面は問題無い戦力と思われますが大いに越した事はないでしょう。」

「千歳基地に集結中のF-2各機は対地装備を整え現在発進待機中です」

「第15護衛隊が津軽海峡に進入中、海峡監視に入ります」

「出張って来た所でどうせ何もしないだろうが宗谷海峡の監視体制を強化しろ。お節介な連中の動きを見張っておけ。」

生物が初めて出現した時、こっちの混乱に乗じてロシア海軍の太平洋艦隊が情報収集艦を引き連れて様子見に出張って来たのだ。特に何かして来た訳ではないが通信の傍受ぐらいはされていたと思うべきだろう。大使館経由で正式に抗議してお帰り頂いたがまた性懲りも無く現れる可能性はあるので予め網を張って置く事にした。既に潜水艦も張り込んでいるので何かあれば情報が入るだろう。

「予備戦力の一部を道警の非常線まで進出させろ、もしここが破れた場合は彼らにやって貰う」

今ここに展開しているのは主に第5旅団と第7師団の部隊が中心だ。第2師団や第11旅団からも部隊は来ているが規模的には前者の方が大きい。状況が切迫して来た場合は青森で待機している第9師団の戦闘団が増援として北海道に上陸し後詰め及び予備戦力となる予定だ。そうならないように最善は尽くす。

「鷹の目から入電、熱源は依然南下中、まだ出現の兆候は無いとの事です」

「分かった、交替のヘリが到着次第直ちに帰還しろと伝えろ」

「了解、警戒本部から鷹の目へ」

「帯広市へ避難勧告が発令」 「道警部隊撤退準備完了」 「102・129特科大隊が射撃準備中」

作戦は埋設した爆薬でダメージを与えてからF-2で空爆、90式を主軸に特科との連携で押し潰す方針でいく。普通科も89式と96式があるので火力・装甲は十分だ。静内の第7高射特科連隊から87式自走高射機関砲も来ているので、大挙として出現しても制圧はそこまで難しくはないだろう。

「各員、帯広市方面へ被害が及ぶ事だけは避けねばならない、最悪でも非常線のある士幌町当たりが阻止限界だ。これ以上の犠牲を出さないように最善を尽くそう。」

地図を囲む首脳陣が頷く。どれだけ生物群の動きにいち早く対応して部隊を動かせるかは彼らに掛かっていた。


上士幌町内

フル装備の普通科隊員と弾薬・燃料を積んだ車両が行き来する中に90式の姿があった。1個中隊が整列しており、慌しい空気の中に居ながらも妙な落ち着きを見せている。地上での尖兵として真っ先に生物の群れへ突っ込む役目を帯びているのでその使命は重大だ。

「各車へ、チェック出来る物は今の内にチェックしておけ、何かあってからじゃ遅いからな」

そんな中の1両に松田一曹は乗っていた。今日は小隊の当番でなかったので個人的に変な噂をされないで嬉しいと思っていたがこの事態を見てすぐに頭を切り替えていた。89式に弾倉を叩き込みながら90式のチェックを済ませていく。

「火器官制は問題無し、徹甲弾と榴弾も満載、機関銃もOKです」

石岡二曹が報告して来た。相変わらず状況を楽観視したような声量だが本人はあれでも大真面目である。

「斉藤、足回りの調子はどうだ」

「問題ありません車長、燃料も大丈夫です」

操縦士を務める斉藤二曹だ。口数は少ないが仕事は完璧にこなす。操縦の腕もいい。

「中隊長から各車、このまま出動待機に入る、命令を待て」

暫く待機だ。次の情報次第では直ちに出動する。車輌陣は既に出動準備が整っており、普通科部隊も後は各車に分乗するだけという状態だ。迫撃砲陣地も射撃体勢を整え対戦車ヘリも出動待機に入っているし後方の特科も陣地展開を終えている。そしてここには居ないが長射程の火力を保有する第102・129特科大隊も山の向こう側に布陣し射撃体勢を整えつつあった。MLRSと203mm自走榴弾砲による高火力の支援砲撃は心強い。

「……後は待つだけか」

現れるのは接近中のデカブツだけか、そいつを筆頭とした大軍団なのかはまだ分からない。どっちにしろ倒さなければならない連中だ。向こうから出向いてくれるなら巣穴を探したり小型種の小集団をチマチマ迎撃する苦労をしないで済む。全部終わった後で巣穴の残敵掃討もあるだろうがそれは後で考えればいい。今は迫りつつある脅威を退ける事に集中しよう。

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