小競り合い-2
松田一曹たちが中型を退けた4時間後、巡回中の第4普通科連隊所属の小隊が林道で敵生物の小集団を確認。迫撃砲の射程外なため火力支援は受けられないが96式装輪装甲車に自前の火力があるので問題はないだろう。攻撃の準備が進む。
「いいか、誘き出すだけだ、下手にやりあおうなんて考えるな」
班長の菅原三曹が96式の車内で指示を飛ばす。敵は96式から見て2時方向の森の中だ。単発で射撃を加えて誘き出し、自動擲弾銃の斉射で一気に仕留める作戦である。車内から機関銃担当の陸士がミニミを覗かせているがこれは牽制用だ。これで仕留めようと思ったらどれだけの弾薬を消費するか分かったもんではない。5,56mm弾では関節の柔らかい部分を狙わないと効果的なダメージを与えられないのだ。
「おい、連中はまだ居るか」
「やるなら今だぞ」
擲弾銃を操る車長が答えた。森の中に小型種3体確認出来る。この程度の数なら十分制圧可能だ。誘き出してとっとと木っ端になってもらう。
「よし、総員下車」
後部ハッチから飛び出して96式の前面に展開。森の中に居る生物に向けて射撃する。
「レートは単発、射撃開始」
89式の乾いた発砲音が響き渡った。各隊員が10発ほど撃った所で生物がこちらに向きを変える。それを確認した車長が叫んだ。
「来るぞ!下がれ!」
「後退、乗車しろ」
ミニミが後退を支援すべく射撃を開始。誘いに乗せられた生物3体は森の中から道路に飛び出した。カマを振り上げて威嚇しながら近付いて来る。やはり何発かはめり込んでいるが軽く出血しているだけで致命的なダメージにはなっていないようだ。厄介な連中である。
「全員乗ったぞ」
「了解、始める」
擲弾銃のトリガーを押し込んだ。40mm擲弾が生物3体に着弾して弾ける。カマや胴体の節足が爆発で千切れ飛び、アスファルトに黄色い体液を撒き散らした。10発ほど撃った所で射撃を止める。
「2体死亡、残り1体はまだもがいてる」
「トドメだ」
M870を構えた隊員が降車。特殊作戦群や西部方面普通科連隊への配備が終わり、3~4年前から一般部隊へゆっくり配備が始まったショットガンだがまだまだその数は少ない。その数少ないのを掻き集め近距離制圧用として警戒線展開部隊に供給していた。M24や64式で仕留めようとした場合、射手の技量に左右されるので一般隊員が生物を一撃で殺そうとする場合はM870を使う事が多い。
十分に注意しつつ目の前まで近付いた。頭部に狙いを定め近距離でぶっ放すと脳漿や体液、甲殻が飛び散る。完全な死亡を確認し96式まで戻った。
「終わりました」
「本部に連絡、処理班を寄越して貰え、一通り済み次第巡回を再開する」
十数分後、73式装甲車が1両やって来た。携帯放射器を装備した隊員が降車して死骸の焼却処分を開始する。これもここ一ヶ月で見慣れた光景だ。事後処理が済むのを見届けて巡回を再開。規定のルートを通り、各所に設置してある動体センサーや監視モニターに異常が無いか調べて回った。途中で同じように巡回中の部隊とすれ違いながら警戒本部へ帰還。今日もこれといって異常なしだ。あんな連中が出現する時点で十分異常だがこの程度は既に慣れてしまっている。感覚が狂っているのはここに居る全員が自覚していた。何より初めて連中が出現した時の状況に比べれば遥かに平和なのである。