小競り合い-1
夜が明けて来た。第5飛行隊のOH-6が薄暗い中に中型種の生物2体を確認。周囲に取り巻き10体前後を従えて南下中と警戒本部に報告した。こちらを確認したらしく、届きもしないのに両腕のカマを振り上げて威嚇している。
「こちら帯広1、生物集団を確認、中型も出現、数は2体、小型10体を従え南下中」
「警戒本部から帯広1へ、そのまま監視を続行せよ、部隊を向かわせるので観測支援を行え」
「帯広1了解」
ここで生物に関して説明しておこう。その姿はクモとカマキリを足して割ったような感じで、非常に鋭利な形状をしている。両腕のカマは殺傷力が高く大抵の生物なら一撃で仕留めてしまう。既に民間人と警察官に相当な被害が出ており、牛や馬などの家畜もかなりの数が食い殺されていた。性格もかなり獰猛で餌を取り合って仲間同士で殺し合ったりするぐらいだ。
小型種と部類された連中は体長約1~2m前後、数も多く兵隊アリと働きアリ両方を兼用しているようだ。餌を持ち帰ったりもするが巣から離れた場所まで来た連中は大抵餌を巡って殺し合う事が多いので最後に残った数匹を掃討するのがセオリーになっている。
中型種は小型種をほぼそのまま大きくした物で、体長は約4~5mである。大きくなった分その外殻も応じて強固になっており89式やミニミで撃破するには相当数の弾薬が必要だ。無反動砲かパンツァーファウストによる攻撃が効果的である。だが中型は小型種を10匹前後露払いとして従えている事が多く、装甲車輌を有していない普通科部隊の接近は困難なため戦車部隊が対応するのがセオリーになっていた。こいつは恐らく前線の司令塔に近い立場を担ってると思われており、中型が居る場合に限って小型は餌を巡る殺し合いをしない事が多いようだ。なのでこいつを潰せば自ずと群が瓦解し纏まった動きが取れなくなるので普通科小隊による包囲殲滅も容易になる事から最優先ターゲットとされている。
現在はこの2種しか確認されていないが、アリやハチに近い社会構造を持つと分析されている事からどこかに女王に準じた存在が居ると思われているがまだ発見出来ていない。巣穴をまだ発見出来ていないので思い切った攻勢にも出れないのが現状だ。既に小型だけで200体以上は殺傷しているのに出現する際は10匹前後の集団である事が殆どなので巣穴はかなり巨大な物で且つまだ500匹近く小型種は居ると予想される。航空支援と砲撃支援で押し込まないと血で血を洗う戦いになりそうだ。
話は戻り、上士幌町に設置されていた警戒本部が中型種の出現情報で俄かに慌しくなる。第5戦車大隊から1個小隊が迎撃に向かった。取り巻き排除の部隊は第11普通科連隊から派遣されている89式装甲戦闘車の部隊から2両が追従、計6両が現場付近へ進出。観測ヘリからの情報提供を受けながら急行した。
「帯広1から増強小隊、敵は依然南下中、まもなく目視距離」
「小隊長車了解」
この増強小隊を指揮するのは第5戦車大隊所属の松田一曹だ。戦車中隊の各小隊で持ち回りで対応しているのだが、松田一曹の小隊が当番の時に限って何故かよく出現する事からいつの間にか警戒線展開部隊の中でもかなりのベテランになっていた。
(…また俺の隊か)
別に誰かが仕組んでる訳ではないがここまで当たりが多いと嫌になる。朝陽が登って来て、朝焼けに染まる田園の1本道を90式4両と89式2両が進む。目視で敵を確認出来た。
「各車へ通達、このまま連中の前面に陣取って攻撃を行う、なるべく畑は荒らすな」
了解の声を聞きながら車内へ入った。キューポラを閉めて車長席に座る。
「石岡、外すなよ」
「まぁ任して下さい」
砲手の石岡二曹。長い付き合いである。軽い感じの男だが腕は確かだ。
「一曹のお陰で何回出張ってると思ってんですか、そりゃ腕も上がりますよ」
「初弾必中期待させて貰うぞ」
「そいつはちょっと難しいかも知れませんね」
いつも大体こんな調子だ。前進を続け生物の正面に到着した。こちらへ向かって進んでいる。
「砲塔9時方向、距離2800、弾種対榴、戦闘照準、1号車と2号車は右の第1目標、3・4号車は左第2目標をそれぞれ狙え、FV各車は発砲を許可する」
89式2両が35mm機関砲で小型種の掃討を開始。一撃で粉砕されて次々と弾け飛ぶのが見えた。掃討が済んだらこちらの番である。
「よし、各車撃ち方用意、号令を待て」
自動装填装置がHEAT-MPを120mm砲へ押し込んだ。砲身に仰角が掛かる。
「照準よし」 「2号車照準よし」 「3号車よし」 「4号車よし」
「撃っ」
4両が一斉に火を噴いた。轟音と共に砲弾が飛び去って行く。2体の中型に2発ずつ突き刺さって爆散した。焼けた肉片と甲殻の破片が飛び散る。
「帯広1から増強小隊、戦果確認、制圧した」
「了解、これより帰還する、通信終わり」
来た道を引き返していった。警戒本部に戻って報告を済ませて休む。ここに来て一ヶ月近く過ぎたがまだ本格的な攻撃はない。このまま小競り合いが激化していくか大部隊を投入して一気に制圧するかは分からないが何にせよ早く終わって欲しいと思うばかりであった。