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特殊生物災害  作者: onyx
15/16

終幕

現在地:第1時阻止線

時刻:16時40分

戦線の再構築が終了し、阻止戦力として残る部隊と小規模な残敵掃討の部隊が編成された。敵第五波の兆候があった以上ここを軽視する訳にもいかない。残敵掃討は普通科部隊を主力とし、装甲車1~2両の分隊に自走高射機関砲1両を混ぜた約1個小隊規模の編成である。これが6個小隊編成され未だ息のある瀕死の小型種を掃討すべく投入された。装甲車は移動及び火力支援、自走高射機関砲は緊急時の瞬間的火力投射用として位置づけられている。

「出発!」

6個小隊は各隊指揮官の基で行動を開始。その中に菅原三曹たちの姿もあった。あれから目立った出番もなく、黙々と輸送部隊護衛や特科陣地周辺の安全確保等の任務をこなしていたがここでようやくお鉢が回って来たらしい。96式と軽装甲機動車、87式1両ずつの小隊を指揮している。小隊は241号を100mほど南下した所で2体の小型種を発見した。

「距離340、数は2体、西へ移動しています」

「目立った外傷は」

「2体共に全身から夥しい出血が見られます、足も何本かありません」

「LAVは前へ、使用火器は任せる」

「了解」

銃座に74式車載機関銃を搭載した現地改修型の軽装甲機動車が前進。乗員はM24や64式、M870等の小型種制圧用装備を持って乗り込んでいる。生物まで約80mの地点に進出して降車した。M24を装備する隊員がアスファルトの上でプローンを開始。その間の周辺警戒は他の隊員が行う。

「…………第1目標、先頭の個体」

初弾を送り込んで狙いを定める。そして引き金を絞った。頭部に食らいついた30口径弾は見事に小型種の脳漿を破壊してその体を横たえさせる。その衝撃でもう1体がこちらに気付いた。傷ついた体をこちらに向け、カマを振り上げて近付いて来る。

「第2目標、こちらを威嚇しながら接近」

「任せろ」

周辺警戒をしていた内の隊員1人が座り込んで64式を構えた。セミオートで12発ほどを小型種に叩き込むと前のめりになって倒れ、そのまま動かなくなった。アスファルトの凹凸に沿って黄色い体液が広がっていく。

「排除完了、戻ります」

「了解」

このような形で残敵掃討の第1段は開始された。田園に無数の死骸を晒す小型種も何れは焼却処分されるだろう。


現在地:第2時阻止線付近(臨時指揮所)

「戦車中隊の位置は」

「既に射程内です」

「女王まで1500の地点へ進出、そこで集中攻撃を実施しろと伝えろ」

「了解」

次第に陽が傾いて来た。女王はロクに動けなくなったその巨体を地面に突き刺した自身のカマで依然として支えている。だがそれももう直ぐ終わりだ。次は1回で楽にしてやる。

「鷹の目から入電、周囲30キロの範囲に怪しい熱源は確認出来ず」

「…………皆よくやってくれたな」

何度か危ない事態にはなったが、これだけの戦力と火力の投射にも関わらず死者は出ていない。負傷者は数名居るが十分許容範囲だろう。

「問題はまだまだ山積みだが取りあえず一段落はつくか」

上空は帯広2とアタッカーチームが旋回し女王の動向に目を光らせている。F-2部隊は残念ながら現場空域に居ないがそれでも今の状況としては十分な航空戦力だ。

「戦車中隊、距離1500まで進出」

「よし………介錯してやろう」

2個戦車中隊は女王まで1500の地点に展開。その照準全てを女王の巨体に定めた。

「距離1500、弾種徹甲、中隊一斉射」

モニターから見る女王は既に死んでいるようにも見えた。だがその顔は下を向く事はなく、我々の後ろに存在する帯広を見据えている。得体の知れない生物だがその根性だけは買ってやってもいい。それぞれが似たような事を考えながら一斉射撃への準備を進めていた。32両全ての砲口が女王の体を睨んでいく。

「準備よし」 「射撃準備よし」 「準備よーし」

準備が整った。臨時指揮所からの秒読みが全隊員の耳へ鳴り響く。

「5・4・3・2・1、撃っ!」

32両の砲口がほぼ同時に呻りを挙げた。全弾が女王の体に食らいつく。着弾の衝撃で女王の巨体が一瞬だけ上に跳ね上がった。すると、衝撃に耐えられなかったらしく女王の上半身と下半身が引き千切れて真っ二つになった。地面に刺していたカマごと吹き飛び、女王の上半身は体液と臓器を撒き散らしながら20mほど後方へと転がっていく。断末魔もない最後であった。道路に残った下半身が異様な寂しさを醸し出している。

「…………全部隊へ、女王を排除した、警戒態勢を1段階引き下げる」

この無線を聞いた全員が安堵のため息を漏らした。当面の大きな脅威はこれで消え去った。取りあえず一安心である。その後、陽が完全に落ちるまで小型種の残敵掃討は続いた。翌朝からも残敵掃討は続行されたが前日の作戦でその殆どを駆逐したらしくこの日に発見された小型種は僅か10体未満であった。


2週間ほどは以前のような警戒態勢が続く平和な日々だった。巣穴への突入は中央特殊武器防護隊と対特殊武器衛生隊の到着を待ってから行われ、人員延べ5千人と戦闘装甲車両約100両からなる大部隊が石狩岳一帯に展開。巣穴は鷹の目主導の偵察作戦によって2つが確認されており、そこから一斉内部検索が行われた。小型種の抵抗は皆無。部隊は地下30mまでその足を伸ばし、そこで今まで出現したポイントへ繋がる大きな坑道を発見。幾重にも伸びたその先はやはり出現ポイントの崩落で埋まっていたそうだ。


内部検索開始から一週間後、先陣を切っていた第1空挺団の小隊が巨大な地下ホールを発見。無数の卵の殻とホールの隅で山のようになって蹲る小型種を発見したそうだ。小型種は既に生命反応が無く、共食いではないが互いに傷つけあったような痕跡がある事から死因は餓死と推定された。死骸や卵の殻は数体を残して後は全て焼却処分されたらしい。


以後、石狩岳とその周辺は1年に渡って立ち入り禁止とされ、入山も禁止された。完全に危険が無くなったと判断されるまで更に3年の月日が掛かったが、現在も入山に関してはあまりいい返事が貰えないのが現状である。



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