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特殊生物災害  作者: onyx
14/16

阻止

士幌町:第2次阻止線

時刻:15時15分

群に変化が訪れた事により、迎撃準備が急ピッチで進められていた。既に突破された第1次阻止線でも陣地再構築と追撃部隊の編成が行われている。群と第2次阻止線との距離は残り7キロ程だがまだ戦車の射程外だ。特科陣地は既に砲火を撃ち上げており、数十発の155mm榴弾が群の頭上に降り注いでいる。少しでも進行速度を遅らせようと群の先頭に着弾地点を設定していたが移動速度に対し修正が追いついていなかった。陣地再構築を済ませた第1次阻止線の特科部隊と重迫撃砲も援護してくれているが、第1特科団の射程外な事もあって決定的な阻止火力に欠けている。ヘリ部隊もまだ補給が済んでおらずF-2編隊の到着も今しばらくの時間が必要だ。だがF-2は群が第2次阻止線に到達するまでには確実に到着する事が予想出来るのでこちらに関しては大丈夫である。問題は第2次阻止線から暫定的に設定された道東自動車道の最終防衛線までの間には埋設した障害以外に阻止火力が存在しない事だった。恐らくF-2が補給を終えて再度現場空域に到着し空爆を仕掛ける時間はない。

「千歳へ繋いでクロウ・ヘイローの状況を聞け」

「了解」

「こちらの重迫も撃たせろ。補給が終わったヘリから順次離陸、1秒でも時間を稼ぐ。」

「アタッカー1-1及び2-1の補給終了、離陸させます」

「こちら帯広2、敵集団は第2次阻止線まで6,8キロの地点、1-1及び2-1の指揮を引き継ぐ」

「千歳から返信、ヘイローチームは既に離陸し急行中、クロウチームは先ほど装備の換装が終了し滑走路進入中だそうです」

「こちらロミオリーダー、現場空域到達まで約10分を想定、進入方向の指示を願いたい」

「本部からロミオリーダーへ、敵集団は依然南下中、南から進入し北上してくれ」

「了解、通信終わり」

特科とロミオチームの火力で何所まで時間が稼げるか分からないがやるしかない。恐らく第2時阻止線を突破するまでにはヘイローチームが駆け付けるだろう。その後は障害で数を削ってクロウチームの赤外線誘導爆弾を女王の頭上に落とせばそれでいい。最後は増援の2個戦車中隊による行進間射撃ででも小型を十分仕留められるし逃げやすいように分散配置している普通科部隊でも対応可能だ。道内の部隊から掻き集めた、装甲とある程度の火力を有する車両を展開している全普通科部隊に与えてある。

「道東自動車道の第2戦車連隊派遣部隊より入電、迎撃準備完了」

「間に合ったか」

あの一帯は高架橋ではなく盛り土構造の高速道路だ。その気になればフェンスを破壊して下へ降りて移動・攻撃が出来る。後で弁償でも何でもしてやるぐらいの気合がないとこの局面は乗り切れないような感じがした。覚悟を決める。

「ロミオチームが約10分で到着する、それまで遅滞攻撃を続行せよ」

距離がじりじりと詰まっていく中、特科部隊による攻撃が続いた。対戦車ヘリの攻撃も1-1から2-1に入れ替わって2回目が行われ、2チームとも補給のために帰投しようとした時にようやくロミオチームが到着。

「こちらロミオリーダー、南から進入し現在北上中、攻撃準備に入る」

「了解、特科部隊は射撃中止せよ」

特科陣地からの轟音が止むと同時に上空をF-2が通過した。エンジン音で建物がビリビリと震える。

「全機マスターアームオン、爆撃行程に入る」

群は既に視認出来ている。夥しい数の小型種と数体の中型、そして中央に陣取る女王が見えていた。まず鼻先にロケット弾をぶち込んでその後に無誘導爆弾を頭上にお見舞いする。

「秒読み開始、5・4・3・2・1、撃て」

8機のF-2は編隊を崩さずに飛行し続け、ロケット弾の一斉射を行った。同時に無誘導爆弾を投下し一気に北上して離脱する。バルカン砲の制圧射撃命令に備え上空待機に入った。

「こちら帯広2、着弾効果大なるも群は依然として移動中、制圧射撃の実施を要請する」

「ロミオリーダーウィルコ」

8機は再び高度を落として西から進入を開始し、群に20mm砲弾の雨を浴びせ掛けた。50体近くを撃破しそのまま東へ離脱して高空で集結。全機とも既にバルカン砲の残弾は無いに等しかった。

「ロミオリーダーから本部へ、残弾僅か、帰投する」

「了解」

「千歳から入電、クロウチーム到着まで30分を予定」

ロケット弾と無誘導爆弾による攻撃で100体近くは削れた。死に掛けている無数の小型種が地面でのたうっている。しかし群は移動を止めない。距離は残り約6,5キロに迫っていた。


ロミオチームの帰投により特科陣地が再び砲火を開いた。ヘイローチームの到着まで残り15分ほどである。出来れば第2次阻止線に来る前にヘイローチームの空爆が欲しい所だ。その時間を稼ぐためにも攻撃を続ける。

「アタッカー3-1及び4-1離陸、攻撃開始地点到達まで3分と想定」

「アタッカー1-1と2-1が間もなく補給終了」

「3-1及び4-1は帯広2の指揮下へ入れ」

「重迫陣地から弾薬補給要請」

「補給部隊を向かわせろ、特科陣地は大丈夫か」

「残弾が半分を切りました」

「そっちにも向かわせて置け。なるべく補給のタイムラグは作るな。」

命令と同時に弾薬を満載したトラック群が出発した。重迫及び特科の両陣地へ向けて車列が伸びていく。各トラックともに自衛用のM2重機関銃を備え、前衛と後衛の中型トラックの荷台には重機関銃の他に74式車載機関銃2基を左右に向けて設置していた。小型種20体程度ならばなんとか捌ける武装である。最も補給部隊が襲われるような最悪の事態を回避すべく汎用ヘリ部隊のハンターチーム4機が上空で直援を行っていた。こちらもドアガンとしてM2重機関銃を搭載しているので、トラックとも合わせればそこそこの弾幕を張れるだろう。

「補給部隊が出発、ハンターチームが直援につきました」

「第2次阻止線本部からヘイローリーダーへ、現在地は」

「こちらヘイローリーダー、現場空域まであと7分弱を予想」

焦っても仕方ないのは頭で分かってるが、体はそうもいかなかった。出口のないイライラが体中を駆け巡っている。群との距離はようやく6キロを切ろうとしている所だ。まだ戦車の攻撃は届かない。重迫・特科・ヘリ・空爆の4種でなるべく間隔を作らずに攻撃を繰り返すのは簡単な事ではなかった。

「帯広2から本部、アタッカー3-1及び4-1が現着した。攻撃を開始する。」

「了解、群と本部の距離は残りどれぐらいだ」

「約6キロ」

「…………分かった、攻撃開始」

「了解」

8機のAH-1Sがロケット弾を斉射。群の先頭部分に食らいついて爆発する。着弾で四散する小型種と、爆発の衝撃で前進が一時的に停止した連中に後ろから追突して玉突きを起こす小型種によって群の前進は再び阻害された。そこへ20mm砲弾が降り注ぎ、玉突きで小山のようになっていた小型種に無数の風穴を開けていく。最も1発食らっただけでその殆どは四散し跡形もなく吹き飛んでいた。

更に特科と重迫による砲撃が頭上で炸裂し小型種を次々に撃ち減らしていった。これで群の総数を200体近くにまで減らす事に成功。あと一息だ。

「ヘイローリーダーから本部、このまま進入を開始して南下する」

「了解、各陣地は砲撃中止」

「ヘリ部隊は一次撤退する」

砲火が止んだ。帯広2指揮の下、アタッカー3-1と4-1も危害範囲から離脱する。この間にタイミングよく補給部隊が両陣地に到着したため補給がスムーズに行われた。群は少ない数ながらもバランスよく集団を構成し直し、再び前進を始めようとしていた。戦車中隊の一斉射撃によって全身に突き刺さったAPFSDSから体液を滴らせながらも女王はしきりに鳴いて小型種を鼓舞している。背部は幾重も炸裂した榴弾の破片が突き刺さり、甲殻の厚くない部分からは出血が見受けられた。かなりのダメージを負っているように見えるがその生命力はまだまだ残っているようである。残り3体までに減った中型も、全身から夥しい出血をしながらも女王のように鳴いて小型種の統率に励んでいた。

「こちらヘイローリーダー、投下ポイントまで1分」

コクピットからでも既に女王の姿は視認出来ている。一時帰投している間に相当数の攻撃を食らった事は目に見えて分かった。これがトドメになるかは分からないが、取りあえずぶつけるだけである。

「秒読み開始……4・3・2・1、今っ」

全機が無誘導爆弾を投下して一気に南下しつつ高度を上げて上空待機に入った。残り少なくなった群に無数の爆弾が降り注ぐ。轟音と広がる黒煙が上空からも見えたそうだ。次第に晴れて行く黒煙を帯広2が監視している。

「こちら帯広2、効果確認を行う」

熱センサーも併用して様子を探る。中型の熱源は残り1体になり、小型も総数で100体近くを残すのみとなっていた。女王は未だ健在である。

「帯広2から本部、攻撃に注意が必要だ。中型が残り1体になっている。」

「重迫及び特科陣地は以後命令あるまで待機、アタッカー1-1と2-1による制圧射撃を行う」

「ヘイローリーダー、指示を求む」

「帰還して待機せよ。何時でも出れる状態で頼む。」

「了解、RTB」

3-1と4-1の入れ替わりで1-1・2-1が離陸。しかしここで群に再び変化が現れた。残り1体となった中型が先頭に立ち、小型種を半々に分けて新たな群を形成し始めたのである。

「何をする気だ」

「こちら帯広2、女王の取り巻きを片付ける」

「了解、距離に注意しろ」

アタッカー2チームは女王の周囲を包囲し周りの小型種掃討を開始した。この間に中型を司令塔とする新たな群は前進を始め、軽快なスピードで本部まで残り5キロの地点へ進出する。女王もノロノロと前進しているがそのスピードはかなり落ちていた。

「各部隊は射撃準備」

90式の中隊が砲身を上下させて最終チェックを済ませる。FVの小隊も小型種へ向けて機関砲を睨ませた。

「距離4000でFVは射撃開始、戦車隊は3500まで待て」

「「了解」」

距離がジリジリと詰まる。女王は相変わらずノロノロと進んでいた。既に取り巻きの小型種は残り10体近い。

「……距離4500」

「クロウチーム到着まで10分切りました」

「よし…」

「距離4400」

かなり速い。女王はその巨体からすれば信じられないスピードだったが、やはり小型と中型の方が速かった。こっちの方が軽快に動ける分で有利になる。みるみる距離が縮まっていった。残り4100となる。もうちょっとだ。

「………距離4000」

「射撃開始」

FVが砲火を開いた。35mm砲弾が小型種を切り裂いていく。だが損害にも臆する事無く群は前進を続けた。あっという間に距離が3500まで縮まる。

「中隊総力射開始」

16両の90式が一斉に火を噴いた。全弾を真正面から食らった中型種は一瞬で粉々に吹き飛ばされ、焼け爛れた甲殻と筋肉繊維を四散させて絶命する。と、ここで女王に変化が訪れた。

「こちら帯広2、女王が進路を変えた、本部へ向かってる」

「なに…」

本部内に緊張が走った。だが次の瞬間には全員が次の行動に移る。無線機と地図を運び出して車両に分乗し撤退する準備を整えた。

「こちら本部、各阻止部隊は直ちに後退、女王が本部へ向かっている」

展開していた戦車・普通科部隊が後退を開始。重迫陣地も撤退準備を開始した。念のため残り2キロを切るまでは様子見を行う事にしたが、全員の安全を考え残り3キロまでの監視とする。

「こちらクロウチーム、間もなく爆撃行程に入る」

「攻撃は一時中止だ。女王が本部に向かっている。」

「……了解、上空待機する」

ゆっくりとだが距離は縮まっていく。そして遂に残り3キロを切った。

「ここまでだな、一時撤退」

車列が士幌町から離脱。90式と89式も距離を取って後退した。アタッカーチームは第1次阻止線まで北上し補給を終えて待機している。


一向は士幌町から4キロほど後退した地点で停止した。帯広2からの情報を聞く。

「女王は士幌町へ侵入し木造民家を薙ぎ倒しながら前進中」

「くそ…」

「……再び進路を変えた、241号線上の南下を開始」

これでは埋設した障害が使えない。だがいいだろう。特科と重迫の砲撃を再開出来る。これで弱らせてクロウチームにトドメを刺して貰おう。

「各陣地は射撃再開せよ」

特科と重迫が再び砲火を撃ち上げた。榴弾の炸裂を浴びながらも女王はゆっくりを南下を再開。森本一佐率いる幕僚陣は特科陣地の近くへ移動しそこで臨時指揮所を設置、部隊の指揮を続行する。

「状況」

「砲火を浴びながらも尚南下中、普通科及び戦車隊は集結し待機しています」

「阻止線へ呼び戻せ。後詰の出現に備えさせろ。」

「了解」

「砲火を女王の片側に集中させて障害のある地帯へ押し戻せないか」

「厳しいですが…やって見ますか」

特科中隊長がほくそ笑んだ。多少なりとも自信があるらしい。正直もう後詰さえ来なければ勝ちは見えている。あとはどうやってトドメを刺すかだけだ。各小隊へ指示を飛ばす。

「各小隊、着弾地点をこちら側から見えている面に集中しろ、可能なら241号の向こう側へ押し出す」

次の砲撃から女王の側面へ着弾地点を修正した。当たっているのは目に見えて分かるが押し出せているようには見えない。多少は効果があったようだが微々たるものだ。

「やはり難しいか」

「申し訳ありません」

「一佐、クロウチームが試験攻撃の許可を求めています」

「装備は確か誘導装置つきの爆弾だったな」

「はい。赤外線誘導ですので現在周辺に女王以外の熱源がない事が救いです。」

「許可する、電源を入れてる物は一時的に全て切れ。」

砲火が止み、動力のある兵器は全てが沈黙した。高高度から投下すると味方に当たる恐れがあるので高度はなるべく低めで投下する。クロウチームが進入を再開した。

「現在地上に女王より熱源の高い物は認められない。試験攻撃を開始する。」

再び奇数・偶数機に別れて編隊を組み直した。偶数隊から攻撃を行う。

「2番機から各機へ、順次投下開始」

まず2機が1発ずつ投下した。誘導装置が女王の熱源を捉えて一気に突っ込んでいく。2発とも女王の体から後方の臓器が詰まっている部分に着弾した。衝撃で巨体が一瞬浮き上がると同時に金切り音のような悲鳴を上げる。甲殻の一部分が破れ体量の血液が飛散した。

「効果確認」

「全機一斉投弾」

重い体を引きずりながら尚も南下を止めようとしない女王にクロウチームが殺到した。誘導装置つきの爆弾が巨体の至る所にほぼピンポイントで着弾。何発かは甲殻の破れた部分に突き刺さって爆発し大ダメージを与えた。

「投下終了、後は頼む」

「感謝する」

全て投下し尽したクロウチームが帰還していく。女王は既に息も絶え絶えと言った感じだ。

「……しぶといですね」

「道東自動車道の戦車中隊を北上させろ、これでトドメだ」

命令が最終防衛線の戦車中隊へ届いた。2個中隊は自動車道を降りて再集結し、中隊毎に車列を作って北上を開始。到着まで20分前後だ。女王はもう動くこともままならないようで、両手の巨大なカマを地面に突き刺して自分を支えている。だがその顔だけは帯広を見据えているようだった。

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