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特殊生物災害  作者: onyx
13/16

肉薄

現在地:上士幌町付近

時刻:14時50分

2個戦車中隊が攻撃しながら後退を開始。99式の中隊による砲撃がそれを援護している。2個中隊が町に到着する頃には、準備が完了したFH-70による砲撃も加わり濃密な砲火が群れの前進を阻害していた。そのお陰で数分だが時間を稼ぐ事に成功。同時に予測進路上への障害を設置する時間も僅かながら稼ぐ事が出来た。

更に数分後、敵本隊が第1次阻止線に到達。上士幌町には空挺資格を持った人間で構成された臨時編成の1個小隊が本部防護のために残っていた。様々な建物の屋上から生物群の動向を監視している。一応、M2重機関銃や無反動砲等を持ち込んでいたがこの程度の火力ではあの数に対抗出来ないのは見て明らかだった。ここは何もせず素直に通過するのを待つ事にする。99式とFH-70による砲火も数十発が群れの中に着弾しており、その度に吹っ飛ぶ小型種がここからでも見えていた。

第7師団から派遣されている2個戦車中隊は町の各所に小隊毎に纏まって待機。万一の場合には何時でも攻撃・撤退が出来る準備は整っていた。弾薬と燃料もまだ十分にある。

「第1監視所から警戒本部、敵生物群が阻止線を越えた。進路は依然として南下中。こちらへ向かって来るような動きは認めらない、以上。」

「了解、そのまま監視を続行せよ」

約5分後、群れの全てが第1次阻止線を通過した。既に上空ではクロウ・ヘイローの両チームが到着し待機中である。

「警戒本部から第2次阻止線指揮所へ、敵生物群が第1次阻止線を通過した。こちらは部隊の再編成と補給を行う。全ての作業終了まで以後の指揮をそちらへ引き継ぐ、以上。」

「了解、指揮を引き継ぎます」

「各地上部隊は本部へ帰還せよ、繰り返す」

田んぼで車高を低くして身を潜めていた戦車中隊と自走高射特科中隊が後退を開始。一時退避させていた補給部隊も呼び戻して受け入れ準備を整える。特科陣地は引き続き阻止砲火を続行。そちらにも補給小隊を割いて兵站の確保を行う。同時に第2次阻止線で休憩していた帯広1と鷹の目が再度北上し第1次阻止線に到着したので、これより敵生物群の後詰め出現に備えるため警戒監視態勢の再構築を開始。


後退を開始した幾つもの車列が上士幌町へ向けて移動している。松田一曹の小隊もそんな車列の中にあった。キューポラを開けて体ごと外に出る

「取りあえず俺らの受け持ちは終わったか…」

「給料分は働きましたね」

砲手の石岡二曹も砲手用ハッチから上半身を出して風を感じていた。M2重機関銃に手を置いたまま毎度のようにボヤく。

「斉藤もご苦労だった、戻ったら少し休んでくれ」

「了解です」

インカムで運転席の斉藤二曹に声を掛ける。余計な事は言わずこちらが思う通りに90式を動かしてくれる彼には感謝仕切れなかった。2・3・4号車もよく働いてくれたし、1人も負傷者が居ないのは良い事である。全てが無事終わったら小隊で呑みに行こうと思った。取りあえず今は警戒本部への帰還を急ぐ。


士幌町:第2次阻止線指揮所

「各部隊、状況知らせ」

指揮を引き継いだのは非常線本部で陸自と警察の連絡役を務めていた森本一佐だ。こういう事態になった場合は指揮を引き継ぐ事も予め決まっていたので、人選はそれに見合う能力を持つ者を集めてある。

第2次阻止線には主に戦車・普通科・特科の各1個中隊ずつが正面に展開。第1次阻止線から下がって来た対戦車ヘリの2個小隊8機と、元々こういう事態のために帯広駐屯地で待機させてあった2個小隊を合流させて1個飛行隊となった航空火力があった。これにクロウ・ヘイローの両チームが加わる。時間的に静内からの増援は間に合いそうに無かったがそれは仕方ない。近接航空支援・特科の観測支援と対戦車ヘリの統制は帯広2が行う。

「戦車中隊準備よし」 「特科陣地、射撃用意よし」 「各普通科小隊、準備よし」

「FVの小隊も射撃位置に就きました」

「対戦車ヘリの離陸準備が整うまで後10分を予定」

「帯広2から入電、第2次阻止線到達まで1時間以内の到達と予想」

取りあえずまだ時間はある。今の内に出来る事をしよう。

「クロウ及びヘイローチームへ近接航空支援要請、然る後に特科の砲撃を開始」

「了解」

上空で待機していたクロウ・ヘイローの2チームへと命令が飛んだ。まずクロウチームから行動を開始した。ヘイローチームはその後に続く。

「クロウリーダーから全機、行くぞ」

今回の攻撃は小型が比較的多い群れの後方から攻め立てる。なので真北から進入して一気に南下した。投下準備に入る。群れは既に600体近くまで減っていたがそれでも十分な脅威だ。それに連中が損害を気にするとも思えない。行動原理や思考回路までは分からないが女王だけでも帯広に到達させる腹のような感じはする。それがどういう結果を招くかも予想しか出来ないが、何れにしろ阻止するのが任務だ。編隊は間もなく第1次阻止線に到達する。各機が互いの間隔を一定に保ちつつ飛行していた。

「投下準備」

編隊の間隔を少し広げた。包囲するように着弾させるような事は難しいが、これで広範囲に落下するだろう。まず先頭の4機が投下した数秒後に残りの4機が続いて投下する。そこまでの知能はないと思うが小型種が逃走しようとした場合はこれでなるべく逃げ場を減らせるだろう。

第1次阻止線の特科陣地が見えた。阻止砲火を撃ち上げる煙が幾つも立ち上っている。一度後退した重迫撃砲部隊も群れを射程内に収めたらしく、田園の各所から散発的な砲撃が窺えた。

「………5秒前、4・3・2・1、今」

編隊長を含む4機がまず投下した。そのまま上昇し離脱する。続いて残り4機も投下した。上空で合流して編隊を組み直す。数秒後に地上で幾つもの爆発が連続して発生。群れの中やその周囲に着弾している。

「ヘイローチーム、投下準備」

こちらも同じ手順で投下した。これで小型種の数をかなり減らす事に成功。女王も爆発の余波を受けたらしく全体の行動が少し鈍くなった。おまけに特科の阻止砲火が何発か女王に直撃している。巨体を震えさせて金切り音のような悲鳴を挙げているのを重迫の隊員たちが耳にしたそうだ。

「帯広2から本部、着弾効果大なり、現在群れの前進はほぼ停止中」

「了解、クロウ・ヘイロー両チームは引き続き機関砲による制圧射撃を実施せよ」

「クロウリーダー了解」

「ヘイローリーダー、了解」

その後、2チームによる20mmバルカン砲の制圧射撃が5回ほど行われた。全弾を撃ち尽くした編隊は補給のために千歳基地へ帰還。群れは残り500を切ったぐらいにまで減っている。


「阻止砲火を緩めるな、可能な限り減らせ」

こちらの重迫撃砲小隊も射撃を開始している。群れを射程に納められるロケット補助推進弾による攻撃だ。精度は下がるが面を制圧する攻撃なのであまり問題はない。

「対戦車ヘリ部隊、離陸準備完了」

「直ちに攻撃開始。南東から進入してロケット弾攻撃を実施せよ。各特科及び迫撃砲部隊は危害範囲を考慮し着弾地点を群れの後方へ移動。」

これで破片が女王の巨体に阻まれて前方への飛散が少なくなるだろう。おまけに女王へ幾らかダメージを与えられるかも知れない。同時に16機のAH-1Sが離陸し、4チームに別れて移動を開始した。前線で観測任務に就いている帯広2がこれを統制する。

「帯広2からアタッカーチーム、群れに対して真南300mの地点まで進出せよ」

「アタッカーリーダー了解」

16機が田園地帯を飛ぶのは中々に壮観だ。特科の砲撃と着弾の音が響く中、観測を行っている帯広2の下へと到着。攻撃開始だ。

「全機、ロケット弾による制圧射撃を実施。その後は機関砲だ。」

「了解、全機射撃位置へ」

4チームが等間隔で展開。群れの正面に陣取った。後方は特科・迫撃砲による砲火が降り注いでおり、群れの数をじわじわと削っている。動きも統率仕切れてないようで緩慢だ。チャンスである。

「アタッカー2‐1、用意よし」 「3‐1、準備よし」 「4-1準備よし」

準備が整った。帯広2から射撃指示が飛び、16機が一斉にロケット弾を発射。数百発のロケット弾が群れの正面に襲い掛かる。幾重にも折り重なる爆発で正面に展開していた小型種の半数以上が薙ぎ払われ、辛うじて生き残ったのも足を失っていたり下腹部からの夥しい出血で瀕死だったりとその殆どが移動能力を失っていた。内臓を露出させて痙攣しているのも多い。長くは持たないだろう。

女王は再び陣形を整えさせようとしきりに鳴いて中型に指示を出しているように見えるが、絶え間なく着弾する砲撃で再編成は遅々として進んでいないようだ。群れは既に400体弱までその数を減らしている。出現した頃に比べ随分と寂しい数になった。後何回か畳み掛ければ戦車中隊による行進間射撃でこちらから打って出る事も出来そうだ。万一に備えてF-2の支援を行えるように再び時間稼ぎを始める。

「帯広2から本部、制圧射撃による効果大、機銃掃射を開始する」

「本部了解、現在F-2の増援が千歳基地に集結中だ。現着まで40分以内を予定している。可能な限り遅滞攻撃の実施に努めよ。以上だ。」

「帯広2了解、通信終わり」

位置取りはこのままでアタッカーチームへ射撃を命令。20mm機関砲の火線が小型種の群れを縫っていく。幾ら5,56mmで貫くのが難しいとは言え大口径の20mm砲弾を防ぐなど出来る筈もない。1体、2体、3体とその体を貫いていった。甲殻・筋肉・体液・臓器をぶちまけて何が起きたのか理解する暇も与える事無く砲弾は降り注ぐ。全弾を撃ち尽くす頃には300体近くまで減っていた。まともに動けるのはもう残り少ない。

「アタッカーチームは後退し補給を終え出動待機、以後の指示を待て」

「アタッカーリーダー了解、全機帰投」

AH-1Sが後退を開始。既に15分近くは時間を稼げた。暫くは特科・迫撃砲の阻止砲火が頼りになる。F-2の増援到着が待ち遠しかった。

「帯広2から本部、F-2の状況は」

「既に離陸し急行中だ。コールサインはロミオ、武装は無誘導爆弾及びロケット弾。クロウチームは赤外線誘導装置付きの爆弾に換装中の為に他の部隊より到着が遅れる。」

「了解、引き続き観測を」

その瞬間、女王が耳をつんざくような咆哮を上げた。残った中・小型も同様に何か叫んでいる。突撃でもする積もりだろうか…

「群れに変化有り、女王が咆哮を上げている。他の個体もだ。」

「本部から各展開部隊、警戒せよ」

群れが前進を再開。元々損害など気にしていないのは見ていて感じ取れたがそれに拍車が掛かったようだ。ダメージを受けて動きが緩慢な小型種等は途中で引き離されて孤立している。

「再び南下を始めた、さっきより少し速い」

「迎撃用意、移動の準備も」

第2次阻止線に展開している部隊が射撃・移動の準備を整える。無茶はせず、削れるだけ削って後は埋設した障害で大ダメージを狙う方針だ。最終防衛線に集結中の増援ももう少しで到着する。それまでに時間を稼げればいい。この戦いがもう長くないのは誰もが感じていた。

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