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特殊生物災害  作者: onyx
12/16

要撃準備

現在地:上士幌町から北へ数キロ地点

時刻:14時20分

32発のAPFSDSが女王の体に着弾。衝撃で一瞬女王が身じろぎ、その巨体を少しだけ後ろに下がらせた。ダメージが通ったらしく金切り音のような悲鳴を上げている。同時に群れの移動も一瞬停止した。

「帯広1から警戒本部、幾らかダメージは入った模様、動きが止まった」

「再度射撃を実施せよ」

2射目の準備に入る。各車が砲身を上下させて砲弾を再装填していた。だがここで陣形に変化が見られた。群れの中央から後方に居た中型が前面に移動。チラホラと統率を無視して突出しようとしていた小型の抑えに入るようだ。

「群れに変化あり、中型が前面に移動している」

中型が移動した事で小型が再び統率を取り戻したようだ。これはもしかすると厄介な事実に気付いてしまったかも知れない。本部でもそれに気付いた。下手に中型と女王に手を出すと最悪群れが瓦解し数百の小型種が散り散りになる恐れがある。工藤一佐が呟いた。

「…………先に小型を仕留めないと拙いか」

同時に鷹の目も異変を探知した。第五波の熱源が急に消失したそうである。さっきの女王の悲鳴が原因だろうか。

「……このまま群れが南下を続けると何所を通過する」

「まず241号線を越えてその後方の660号線を通過、現状のルートですとそのまま316号線沿いに南下すると思われます。その先の士幌町を通る134号線が第2次阻止線です。そこから向こうは音更まで田園が20キロほど続きますので、空爆で決着をつけるのならそこが最後のチャンスかと。」

反復爆撃を掛ければ或いはと思うがそれでも時間は掛かる。対戦車ヘリでは制圧力が足りない。かと言って普通科部隊をぶつけるのは無しだ。高射特科の中隊へ弾薬を補給出来れば幾らか面制圧は出来るかも知れないがこれも時間が掛かる。余り考えている時間はない。取りあえず既に砲弾は装填してしまっているそうなのでこれを小型の群れに撃ち込んでしまおう。その後に榴弾で可能な限り削る。特科部隊も陣地転換が間もなく終わるのでこれも加えて火力を増強して阻止砲火を展開し、戦車部隊は撃ちながら後退させて道を開ける。まずはF-2で再攻撃の準備だ。

「千歳から連絡はないか」

「クロウチームが間もなく離陸します。ヘイローチームは1機がエンジン不調を起こして離脱、7機編成で来るそうです。」

少々の火力低下はでも今は痛いが文句は言えない。早急に不調を直して戦列に復帰して貰いたい所だ。

「よし、戦車隊は現在装填している砲弾を小型の群れへ撃ち込め。その後に榴弾で再度小型を攻撃。10分もすれば特科が陣地転換を終える、それまで数を減らしてくれ。」

「「了解」」

再度攻撃が開始された。32発のAPFSDSは、小型の群れに飛び込んで地面に突き刺さるまで飛翔を続けた。1発で10体以上を貫通して群れに穴を開けれたのは良い事だがやはり面での制圧力が欲しい所である。だが次は榴弾だ。多目的の砲弾なので榴弾砲のような制圧力は期待出来ないが今は十分だろう。時期に特科の砲撃も来る。やれるだけでやるのが仕事だ。

「各車、射撃準備」

群れの数から言えば狙って撃つような物でもない。照準はかなり適当だ。群れに飛び込めばそれでいい。各小隊長の報告を聞き終えたので秒読みを始める。互いの距離は残り2600程だ。撤退の時間を換算すると後2~3回の攻撃が限度と思われる。

「5・4・3・2・1、撃っ」

同時発射の轟音が鳴り響いた。32発の榴弾が群れの中で炸裂して多数の小型種を薙ぎ倒す。群れ前方の数はかなり減って来ているが油断は出来ない。次の斉射準備に入った。


帯広市:帯広警察署会議室

「繰り返しお伝えします、住民の方は警察・消防・自衛隊の誘導に従って避難をして下さい。本日12時を持って帯広市全域が警戒区域に指定されました。職場・ご自宅に残る事は出来ません。速やかに避難して下さい。また帯広市以北の音更町も警戒区域に含まれます。住民の方は付近を巡回する警察・自衛隊の誘導に従って避難をして下さい。落ち着いて行動して下さい。尚、現在道東自動車道の帯広JCTから池田ICの区間が通行禁止になっています。通る事は出来ませんのでご注意下さい。」

こういう非常時は腐ってもNHKだと思わせられる。そんな事を考えながら山口巡査部長は会議室のテレビを眺めていた。何本目かも忘れた煙草を灰皿に押し付けてお茶を飲む。道内の各局は持てる力を全て動員して報道を行っていたがやはり情報が少ない。こういう時はNHKだ。落ち着いて見ていられる。

「…………さて」

食べ終わった弁当の容器をゴミ箱に放り込んで会議室を後にした。取りあえず自分の部署へ戻る。交通課のある部屋に入ると課長がさっきと同じ内容を繰り返すテレビを聞き流しながら地図を眺めていた。

「課長、今後の方針は」

「基本は同じだ。それから本当にヤバい時はここも一時的に引き払うからな、貴重品は纏めて置け。」

「分かりました」

自分の机に座って必要な物を纏める。外に漏らしたら拙い物と私物で分けた。取りあえずこれで置いとく。作業を10分ほどで終わらせて立ち上がり、窓を開けて一服している課長の横に並んで自分も火を点けた。

「…………阻止出来なかったらどうするつもりですかね」

「道東自動車道を暫定的な最終防衛線に設定するそうだ。だが可能なら31号線の当たりまでに何としても食い止めたいのが本音だろう。後続で入った増援の部隊が316号沿いの予測進路上に地雷埋めにさっき出発したそうだ。」

「当面動かせる戦力でちまっこいのと中途半端にデカいのを掃討出来たとしてあのデカブツをどうするかですな」

「もし出来るのであれば帯広の駐屯地にどうにかして誘い込んで集中攻撃ってのも有りらしい。さっき上で話し合ったらしいが陸自さんはその案も視野に入れると言ってたそうだ。あまり現実的はないがな…」

「なるほど………ま、自分らは出来る事をしますかね」

当面は市内の巡回と避難の呼び掛けが主任務だ。もし市内に侵入でもされたらなす術はない。署に立て篭もるが逃げるかもしくは食われて死ぬかだ。

「巡回行って来ます」

「おう」

ヘルメットを小脇に抱えて外に出た。MP5をチラつかせる部隊を尻目に自分のパトカーへ向かう。連中は戦力の消耗した銃器対策部隊を補完する為に編成された緊急対応小隊だ。警備部隊から選抜されて速成教育を受けた人間で編成されており、総勢で3個小隊ほど居るらしい。その内の1個分隊が帯広署の防護を担当していた。特型警備車も1台付いているがあれで捌けるのは精々1~2匹ぐらいだろう。自分も随分捻くれた考えをするようになった等と思っているとパトカーに着いた。既に何人か乗り込んでいる。

「全員居るか」

「1人トイレに行ってます」

「戻り次第巡回に出るぞ」

乗り込もうとしたら忘れ物に気付いた。交通課まで足早に戻る。中に入るとテレビには首相官邸からの映像が映し出されていた。記者会見を行うらしい。官房長官が演説台に立つ。

「現在、北海道石狩岳の周辺において発生している特異生物による大規模な侵攻は、本日の13時19分に発生し現地の部隊による侵攻阻止の為の攻撃が続いております。報告では約30m程の大きさのある女王と推定される個体が800~1000規模の群れを従え、帯広市を目指し南下中との事です。政府は先ほどの閣議により、今日で当該生物の撃退の為に立法した臨時措置法案を撤廃し、正式な防衛出動の下命へと踏み切ったものであります。」

事態が事態なだけに文句を言う連中は余り居ないらしい。国内の問題を解決する為に必要な事をするだけだ。課長がボヤく。

「まぁこれで我々もやり易くなったな。たった今からここは戦地と想定される場所になった訳だ。」

「邪魔者は問答無用で追い出せますね、んじゃ行って来ます」

忘れ物の手帳を懐に突っ込んで署を後にした。パトカーに乗り込んで市内の巡回を始める。と言ってもこの辺は既に避難が終わっているので音更町の当たりをメインに見回る予定だ。陸自の車輌もチラホラ見える。大体は片付いたような雰囲気だった。


警戒本部指令所

「クロウチーム離陸、第1次阻止線を通過する頃には到着するでしょう」

「十分だ。全員焦るな。」

第2次阻止線には戦車・特科・普通科が各1個中隊展開している。加えて2個小隊規模の89式装甲戦闘車だけで編成された支援部隊も居た。効果的に運用出来ればそれなりの数の小型種を蹴散らせるだろう。こっちの特科も間もなく陣地展開が終わる。もう少しだ。

「戦車隊が4度目の斉射を実施」

「互いの距離は」

「2500を切りました」

女王が攻撃を受けてから進行速度が低下している。かなりゆっくりしたスピードだ。

「遅滞攻撃を行いつつ小隊毎に後退を開始、本部まで戻って来てくれ」

「特科陣地から入電、FHは残り5分ほど掛かりますが99式の中隊は直ぐにでも撃てるそうです」

「直ちに射撃開始、着弾修正は帯広2に従え」

「こちら帯広2、観測支援を開始する」

帯広1は少し前に後退して今は第2次阻止線で給油&整備中だ。朝からずっと戦域の監視や特科の観測支援を行って来ただけにパイロットも疲労の色が濃い。鷹の目も同じくここで休んでいた。今は交代で別のヘリが出ている。と、ここで増援の知らせが入った。

「第2戦車連隊の増援が道東自動車道を移動中、1時間程で音更に到着します」

「規模は」

「2個中隊だそうです」

正面火力が増えた。とすればここと第2次阻止線でもう少し時間稼ぎが出来れば万全の状態で迎え撃てるかも知れない。最後は戦車隊の総攻撃とF-2からレーザー誘導爆弾の集中投下当たりで勝負を着けられそうだ。

「特科陣地、射撃開始」

「戦車隊が後退を始めました」

「よし、戦力は増えつつある。可能なら音更の前で仕留めるぞ。」

既に青森で待機している増援も移動を開始していた。手遅れになる前に動かせる戦力は集めておきたいものである。あと少し時間が稼げればいい。


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