旅立ちの日 - 内定、公園、野球 -
これは、とある三題噺専門のサイト(今はもうありませんが……)でもらったお題です。そのサイトに投稿したものを書き直しました。大筋は変わってないのですが、細かいところでは結構変わったと思います。また、文字数は1,000文字ちょうどとしています。
それにしても、投稿する時、これはどんなジャンルなんだろう? と大分悩んで、結局わからなくて、もーいーや! と『その他』で投稿しました……。
今、僕は住み慣れた町を散策していた。
変わらない小学校への道。 変わってしまった小学校。
いつの間にか、家の近くの公園のベンチに座り、ぼんやりと公園で遊ぶ子、行き交う人たちを眺めていた。この公園はほとんど変わってない。
何をどう考えればいいのか、何だかうまく考えがまとまらない。何を言ってるのかって?
実は、僕は、明日、この町を出ることになったんだ。
僕はずっとこの町で暮らしてきた。大学も、片道二時間の通学に耐え、この町から通いとおした。きっと就職しても。そう思ってた。ずっと、おそらく一生、この町で暮らすんだ、と。
別に、そうすると決めていた訳じゃないけど、何となくそう思ってた。
昨日までは。
どうしてこの町を出ることになったのか、と言えば、就職のためだ。僕を雇ってくれる会社が、とてもとても遠い場所にあるからだ。
今年の就職は困難だった。言われてはいたけれど、少なくとも僕の想像を超えていた。一年をかけた就活で、これまで、一つも内定の連絡は来なかった。
けど、昨日になってやってきた連絡は、内定を通り越して、即日の採用通知だった。しかも、その翌日から即戦力になって欲しいから、移動中に仕事を教えるために迎えをよこすと言うのだ。
正直、戸惑った。
嫌なのかって? そんなことはない。
自分で望んだ会社だ、入社後のことには希望がある。
あまりの展開にびっくりしてるだけかもしれない。
いつの間にか、公園ではちびっ子たちの野球が始まっていた。思えば、僕もよくやったもんだ。それが高じて、中学でも高校でも野球部だった。レギュラーをとれるほどじゃなかったけど、でも、楽しむことができた。それも大学への長い通学時間と引き換えに止めてしまったけど。
ふと、公園の反対側に、同じ様に野球を眺めてる女性がいることに気付いた。
そうだ。僕が野球を始めた理由を思い出した。近所の女の子に誘われたんだ。「さ、野球するわよ」って。 彼女は、僕の返事なんか待ってなかった。
まったく……。 彼女には逆らうことなんかできなかったな。
でも、後悔なんてまるでない。本当に楽しかったから。
あぁ……。 そうだ。今さらだけど思い出した。
何が楽しかったのか、そして彼女に逆らうことができなかった理由を。
もう、苦笑いするしかない。
明日、この町を出るって言うのに、ホントに今さらだ。
でも、その時の僕は知らなかったんだ。
翌日、僕の前に現れた案内人が「さ、仕事するわよ」なんて言うことを。
書き直し始めたときは、最初はちょっとだけ、と思ったのですが、いつの間にか全面改稿になってしまいました。出だしは同じですし、共通する記述はありますが、かなり違う感じになりました。旧作は私のHPで掲載しています。もし、興味があれば、お願いいたします。