白色ドロップ 料理教室に通う女
私は本棚の片隅にある、黄金色のドロップ缶を手にした。フタを開け、右手でひと振り。
左の手の平、【想い出ドロップ】が1つ転がり落ちてくる。
【白色ドロップ】だ。それを口に含むと……
あの想い出がよみがえってきた。
そう。【料理教室に通う女】の想い出が。
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白色ドロップ 料理教室に通う女
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以前付き合っていた彼女の話。
付き合い始めの頃、彼女のウリは【料理教室に通っている事】だった。
そんな彼女の得意料理は……
蒸し野菜。
手順は3つ。
①野菜を包丁で切る
②電子レンジでチンする
③ポン酢をかける
以上だ。
とにかく彼女は、調理時間に10分以上かけるのが大嫌い。調理するのに15分以上かかる料理は絶対にしない。あと、フライパンを使う料理もあまり好きではない。それどころか、包丁を使う料理もあまり好きではない。
「何故、君は料理教室に?」
「行ってみたかったから」
突き詰めて聞くと、どうやら【料理教室に通う女】に憧れているというか自己満足に浸るというか、【料理教室に通う女って、かっこよくね?】みたいなノリだった。
けして【彼氏に美味しい料理を】という目的では無いという事がわかった。
そんな彼女が
「だって難しいんだもん!」
という料理がある。
料理と呼んでいいのか悩むところだが……
彼女は【白】米を炊くのが苦手だった。
とにかく細かい作業が大嫌いな彼女は、米を炊く水の量も目分量。
彼女がご飯を炊くと、水っぽくなったりパサパサしたり。
いつしか私は、彼女の料理教室のレシピを譲り受け……
場所さえわからぬ、彼女の通う料理教室の料理を作る事になる。
もう一度言う。
男はこう言われたら、ドキッとすると思うが……
付き合い始めの頃、彼女はよく言っていた。
「私、料理教室に通っているの」
(おしまい)
ちなみに料理に関して、彼女が1番大嫌いなのは……
買い物に行く事だ。
「料理する事は好きなのよ! でも買い物が嫌いなだけ」
が、彼女の口癖だった。