黄色ドロップ 忘れすぎな女
私は本棚の片隅にある、黄金色のドロップ缶を手にした。フタを開け、右手でひと振り。
左の手の平、【想い出ドロップ】が1つ転がり落ちてくる。
【黄色ドロップ】だ。それを口に含むと……
あの想い出がよみがえってきた。
そう。【忘れすぎな女】の想い出が。
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黄色ドロップ 忘れすぎな女
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昔付き合っていた彼女のお話を。
自分より9歳も年上の彼女。不思議な事に私は、9歳年上の女性と付き合うのはこれが3回目だった。10歳でもなく、8歳でもなく……何故か9歳年上。
とにかく彼女は、【忘れ物】がひどかった。
例えば(例えがたくさんありすぎるのだが)……
2人でボーリングへ行き、戻ってきたら
「財布忘れた」
当時の彼女は【黄】色い財布を愛用していた。
「財布忘れた?」
「うん! バッグごと忘れた」
あの時は財布どころか、それを入れていたバッグ自体を忘れていた。
「バッグごと!? 何で気づかないの!?」
「ちゃんと、ボーリング(MY)シューズは持ってきたわよ!」
「いや……」
むしろシューズの方を忘れろよ。
「お気に入りの財布なのに!」
すぐにボーリング場に連絡して、取りに戻ったのは私だ。
★☆
銀行にお金をおろしに行き、通帳と財布をATMの前に忘れるという経験もある。
あと【余りにもひどい】と思ったのが、朝出かける時、外に出て自宅玄関のカギをかける。そのカギを、なんとドアノブに挿したまま出かけるという失態も。
携帯をどこかに忘れるのも日常茶飯事。
こんな話もある。
コンビニで弁当を買いに行った彼女。手ブラで戻ってきた。
「あれ? 弁当買いに行ったんじゃないの?」
「あ。持ってくるの忘れた……」
「何しに行ったんだ?」
「仕方ないでしょ! 温めてもらってる間に忘れたの!」
「お金払って、手ぶらで店出るって……」
「それぐらい普通よ!!」
絶対普通じゃない。ただ、この後も彼女はそういう事を何度も繰り返した。
預けていたモノを店に取りに行って、普通に手ぶらで帰ってくるとか……
携帯や財布をタクシーに忘れるとか……
ただ悪運だけは強い彼女。財布も携帯もカギも、トラブルに見舞われる事なく戻ってくる事がほとんどだった。
彼女のリクエストに応え、私がプレゼントした指輪。それだけは行方不明のまま、戻ってくる事はなかったが……。
最後に1つ。2人で旅行を計画した時の話だ。
空港で出発の便を待っていた私と彼女。
「あ……」
ふと彼女が呟いた。
「財布忘れた」
あの……
ホントにお気に入り?
(おしまい)
ただの【物忘れ】でなく、人としての【何か】が欠けているのかと。