毎朝
三題噺もどき―きゅうひゃくよんじゅうさん。
ふわりと、コーヒーの匂いが漂ってきた。
キッチンを見れば、母がそこに立っている。
今日は休みらしく、ゆっくりしているらしい。
「……」
私は朝食を食べるのに苦労していた。
空腹ではあるのに、口に運ぼうという気になれない。
毎朝これだから、食事が億劫になるのも仕方がない。
「……」
妹も隣で食事を摂っている。
メニューは同じなのに、どこか美味しそうにパクパクと食べ進める。
よほどお腹が空いていたのか、私が苦労している間にあっという間に食べ終わる。
もう既に、デザートのりんごに手をかけていた。
「……」
もう1人の妹は、まだ寝ている。
母が起こしに行ったあとからも、まだ眠っている。
限界まで寝ていたいのだと……私にはそんなことは出来ない。
「……」
こうして朝食を摂るのにも精一杯なのに、ギリギリになんて起きられない。
そもそも時間にはそれなりの、余裕がないと私の精神衛生上よろしくない。
だからいつも早めに起きて、朝食を食べて、早めに学校に行っている。
「……」
起きられないときはもちろんあるけれど。
それでも余裕のある時間に起こされるので、母には感謝しかない。
まぁ、母が出勤する時間に合わせて起こされているだけなんだけど。起こしてもらえるだけありがたいことなんだろう。
「……」
あ。
痺れを切らした母が部屋まで起こしに行った。
ついさっきまでゆっくりとコーヒーを入れていたのに、恐ろしい。
ぷんぷんとコーヒーの匂いがしていて、食欲がなくなっていく。アレにましゅまろでも入れたら美味しいんだろうけど、ブラックは飲めない。
「……」
二階の部屋から聞こえる母の声と、ぼそぼそと何かを言っている妹の声を聞きながら。
もそもそと朝食を食べ進めていく。余裕はあるが、あまり時間をかけるものでもない。
さっさと食べてさっさと学校に行かなくては。
「りんご食べる?」
「いらない」
パクパクと母が用意してくれていたりんごは、気づけば半分ほどなくなっていた。
多分丸々一個分切っておいてあるはずなので、相当食べている。
それでもまだ食べようとするのだから、よく食べる。
「……」
りんごはあまり好きではない。
長時間置いておくと変色していくし、そもそも食感というか味というか……まぁ、好きではない。梨なら食べられるんだけど。
「……」
なんとか食事を口に運び、最後の味噌汁を飲み干す。
食事の順番というモノは幼い頃から教えられているけれど、守ったことはない。
そんなもの守って何になるのやら……そもそも弁当もそんな順番守ってないのだから意味もないだろう。
「……」
どたどたという母の足音が聞こえたと思ったら、たたき起こされた妹も降りてきた。
なんとか食事を終えた私は、食器をキッチンへと持っていく。
そのすきに私が座っていた場所に、降りてきた妹が座っていた。
「……」
まぁ、もう座らないからいいんだけど。
アイツはほんとに周りに対する迷惑というモノを考えていなさすぎる。
こちらがどれだけ気をつかっているのか……。
「……」
母はその目の前に朝食を並べていき、後は知らないとでも言うようにコーヒーを片手にテレビを見ていた。
毎日物騒なニュースばかりしている。それに災害の被害も後を絶たない。
また台風ができて、どこかに向かっているらしい。そういえば昨日の夜はかなり雨が降っていた。雷は光っているだけだったけれど、眠るのが大変だった。アーティストの新曲が発売されたらしい。新しい映画の試写会。どっかの企業の何かのニュース。今日の占い。今日の天気。どこかからのグダグダな中継。
「……」
見ているようで見ていない母。
もそもそと食事を摂る妹。
せっせと登校の準備をする妹。
視界の端に映る、大きな棚と写真。
「……」
なんだか、ほんとに。
毎日、疲れる。
お題:りんご・コーヒー・ましゅまろ




