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星月夜

星月夜ってほしづきよ、でいいんでしょうかね?せいげつや、の可能性もあるんでしょうか?

星月夜 田島圭吾


 浴槽にお湯を貯め始めてから、入浴剤がないことに気づいた。愛理に入浴剤を取ってくると伝え、近所のコンビニに向かった。

 コンビニの内部は以前来た時と全く変わっておらず、「店長」はレジに置いたままになっていた。話題の映画の宣伝放送が流れる中、最短経路で入浴剤と、ついでにライターオイルを取り、アルコールコーナーに向かった。家で切れていたのは確か、赤ワインだけだったはずだ。レジに向かっている途中、ポンッと通知音が鳴った。

「良かったら、美味しいパンも持ってきてください」

愛理からだ。「了解」と返事を送り、パンを選ぶ。そういえば、彼女は何が好きなんだろう。今まで一緒にいたときにはパンは食べていなかった。女子高生はやっぱりスイーツ系のパンが好きなのだろうか。いや、昨日太もものことを気にしていたし、カロリーが高いものは控えるべきなのだろう。そう思い、パンをひっくり返してカロリー表示を確認したが、どの程度がカロリー控えめなのかよくわからなかった。

 結局、かごの中に入れたのは六本入りのチョコチップが入ったスティックパンと、餡子が入ったコッペパン、そしてプリンだった。

 帰りがけにレジの中を見てみると、フライヤーが起動していた。近くの冷凍庫から唐揚げを出し、六分待つ。その間に鶏のパッケージを組み立て、愛理に「ごめん、ちょっと遅くなる」と送信した。六分待っている間にレジの裏側をなんとなく見ていると、書きかけの点検表を見つけた。レジが金額を自動的に計算するようになってからナイトの人は「する必要がない」とはっきり言いきったが、結局オーナー次第なのだろう。書きかけの点検表の近くには抜け殻が落ちていた。点検表の時間は、一二月三日の七時二〇分そこから書き始めたのなら、恐らく人間が消えたのは二一分頃だろうか。起床時間が七時四〇分頃だっただろうか、その間に植物が繁茂した…?

 そんなことを考えているとフライヤーからピーと音が鳴ったので油をきり、唐揚げを二食分パッケージに詰める。そうして帰ろうとしたときに、歯ブラシがいると思い、歯ブラシをくすねてきた。

 「ただいま」

「遅いですよ、暴れましょうか?」

「お姫様がすぐに暴れないの。ほら、パンと、唐揚げと、プリン。これあげるから落ち着いて。あと歯ブラシ」

袋の中からどんどん商品が出てくると、彼女は目を輝かせた。

「ポテチはあります?」

「あ、ごめん。忘れてきた」

「もう、ラインぐらい見てください」

そう言われ、スマホを確認すると、「早くしてくださいね」「あ、ポテチもお願いします!」「あ、たまにはジュースも飲みたいですね」「オレンジジュースをお願いします」「あとはー…グミも食べたいです」

こんな様子のラインがあと一二件ほど続いていた。

「めちゃくちゃ食べるじゃん。あと、さすがにコンビニにパンナコッタはないと思うよ」

「なんてこった!」

不覚にも、吹き出してしまった。

 「そういえば、蛇口閉めましたよ」

「そういえばお風呂入れたままだったね。お湯あふれてなかった?」

「いや、お湯は大丈夫なんですけど、なんで歯ブラシが二つあるんですか」

鏡に吸盤でくっつけられた入れ物が二つある。その両方に歯ブラシと歯磨き粉が入っていた。片方は自分用で、もう片方は元カノの物を捨て忘れていたようだ。

「ああ、掃除用だよ。と言っても俺が使えなくなったのそのまま入れただけだし掃除もちょびっとしかしてないからそんなに汚れてないんだけどね」

「ふーん、そうですか…もしかして元カノさんのこと、まだ未練あったりするんじゃないんですか?」

「どうしてそう思うの?」

声色に少し動揺がみられたのだろうか、彼女はにやりとして口を開く。

「掃除に使ったなら、もっと汚れるはずですよね?真っ白ってことは、まずありえません」

探偵のようにゆっくりと、言葉に抑揚をつけて話している彼女が、なぜか段々面白くなって笑いをこらえていると、ついにこちらに指を突き付けてきた。

「つまり、あなたにはまだ元カノさんに対する未練がある気がします!」

「いや…そこは、はっきり断定しないと…」

笑いを漏らしながらそう言うと、彼女はしまったというような表情を見せた。

「もう、昨日の仕返しが台無しじゃないですか。まあ、プリンも持ってきて頂きましたし、パンも私好みでしたから今回は暴れないようにします」

「そっか、暴れないならいいんだけど」

そういって新しく買った歯ブラシを左―自分用の歯ブラシと同じ入れ物に入れた。そして、元カノの歯ブラシをベランダにあるごみ箱に捨てると、彼女から「なぜ、掃除用の歯ブラシを捨てる必要があるんです?」と、探偵めいた口調で話しかけられた。愛理が間違えて使わないためだ、と伝えると彼女は納得したように手を叩いた。


 風呂から上がり二人とも服を着ると、彼女は何かを探すように部屋を眺めた。何が欲しいのと聞くと、スマホと化粧水と乳液、ヘアオイルが欲しいみたいだった。ラインで電話をするとすぐに場所がわかったので通話を切って、次のタスクに移ることにした。

「肌に合うかわからないけど、これ使ってみる?」

そういって机の下からナイトケア用品一式を出すと、彼女はまじまじと私の顔を眺めた。

「これ使ったら、圭吾さんみたいな肌になれますか?」

「いや、俺より愛理ちゃんの方が肌きれいに見えるけど…」

言い切る前に彼女の両手が私の頬に伸びた。そのまま何度か頬を撫でられた後に、頬をこねくり回された。

「…肌はきれいですけど、全然肉ないですね。斜めから見ると、恐ろしく痩せてます」

「そんなにかい?たしかに、同世代に比べると圧倒的に軽量だけどさ」

「四一キロってほぼ病気みたいなものですからね。なんかダイエットとかしてるんですか?それとも何も食べてないんですか?」

「結構ちゃんと食べてるよ。でも脂っこいもの食べるとおなかの調子が悪くなるからそういうのは食べないかな」

「ダイエット中みたいな食生活なんですね。甘いものは好きですか?」

「好きだけど、高いからあんまり食べないかな。嗜好品は煙草とお酒だけ」

「ふーん、そうですか…じゃあ、今からデブ活しませんか?」

「俺は望むところだけど、愛理ちゃんはいいの?」

「大丈夫です。この世界にいると体の状態もリセットされて翌朝には元通りですから」


星月夜 中西愛理


 圭吾さんに髪を乾かしてもらっている途中、付近にあるコンビニやスーパーを調べた。特に気になるものもなかったので、あきらめてインスタを見ているとリール動画で付近に無人販売のスイーツショップがあるという情報を得た。

「圭吾さん、ここ行きませんか?」

「スイーツの無韻販売店?確かに、無人販売店なら二四時間営業だし空いてるだろうね」

「ここからそう遠くないですし、髪乾かしたら一緒に行きましょ」

「そうだね、じゃああとは前髪よろしくね」

そういうと彼は私にドライヤーを手渡し、服を選び始めた。

 前髪を乾かし終わると、彼はもう着替えていた。白シャツに黒のズボン。黒のジャケットに黒のコートとマフラー。一見するとサラリーマンのようだが、首から下がるネックレスと金色の髪がホスト、という印象に近づける。

「愛理ちゃんはどれが着たい?」

そういうと彼はクローゼットの中からいろいろなワイシャツを出してきた。ワインレッドにグレー、白と黒の柄物に水墨画のようなシャツと、バリエーションが豊かだった。

「普通にパーカーとかで大丈夫ですけど、そういうの着てほしいんですか?」

「いや、一昨日俺の服着てたから気になるのかなって」

ああ、そういうことか。確かに気にならないわけではないが…

「じゃあ、ワインレッドのやつでお願いします。上着って何があります?」

「上着は、白黒のベストと、今俺が着てる分と…学ランと…あ、黒のコートが二着かな」

「なんか、本当に夜のお仕事してないのかわかんなくなってきました」

「一応、コンビニと飲食しかしてないんだけどね…ストリート系とかはあんまりしっくりこなかったからこういうのばっかり着てるんだよね」

ほんとうにホストじゃないんだろうか。とりあえず、白黒のベストと黒のコートをもらった。

「ズボンはそこのタンスに入ってるから自由に選んでね。真ん中の段」

開くと、中は真っ黒だった。よく見るとベージュのズボンがあったが、一着のみで、他は全部黒か、白黒のスーツみたいな柄のズボンしか入っていない。取り合えず、中から白黒のズボンを取り出して穿いてみると、意外にもしっくりと来る。タンスの上の棚からベルトを一つ取り出すと、不自然な穴が最後尾に空いていた。ウエストが一般人に比べてかなり細いのだろう。私の力でもへし折れそうだ。

 そうして着替えた私は、男装女子のようになった。鏡の前で改めて眺めてみると、気合が入るような気がした。スーツのような見た目だからだろうか。

「お、似合ってるね!執事喫茶で働いてみない?」

「いや、遠慮しておきます。にしても、もう少し大きいサイズのトップスってありません?胸元がきつくて…」

「…それ、同性の友達に言ったらたぶん殺されるから気を付けてね」

「え?何でですか?」

「んー、俺の口からは言えないかな。あるのはそのサイズだけだから我慢してね」

わかりました、と腑に落ちずに返事をして玄関を出た。あまりの寒さに少し足がすくんだが、薄い生地とはいえスカートよりもマシな分頑張れると自分を鼓舞してなんとか歩みを進めた。


 寒風に吹かれながら歩くこと約20分ほどだろうか、見知った大通りのそばにある小さな脇道。そこにひっそりと無人販売店は鎮座していた。車道を横切りスイーツ店に近づくと、中は明るく、精算機とアイスの販売什器のみの質素な作りが見えた。

 ドアを開けるとカランコロンと、鈴の音が鳴る。しばらく商品を眺めていると圭吾さんはふと、何かを思いついたようにバックルームに向かっていった。どうせいつも通りすぐ戻ってくると思い、そのまま商品を選んでいると案の定すぐに戻ってきた。

「監視カメラの映像から何か情報が得られるかと思ったんだけど、このお店モニターないんだね」

「やっぱり無人販売店ですから、遠隔で確認してるんじゃないんですか?私も詳しいわけではないですから推測にはなりますけど」

そういうと彼は監視カメラをまじまじと眺め、ふと目を輝かせた。

「ごめん、ちょっと耳塞いでてもらってもいいかな?」

頷き、両手を耳にあてると彼は突然飛び上がり、監視カメラを鷲掴みにした。監視カメラは四一キロを支えきれず、1秒も経過せず彼とともに天井から離れた。

「え、何してるんですか突然」

「昔読んだ小説にね、死体を運び出すシーンがあったんだ。そのときは監視カメラからSDカードを抜き取って、死体を運び終わった後に別のSDカードを差し込んでたんだ。もしかしたら、このカードを読み取ればなにか情報が得られるかもと思ったんだけど…これ、カメラ自体にはSDカード入ってないみたいだ…残念」

「相変わらず大胆な行動をしますね。嫌いじゃないですけど」

むしろ好きでしょ、とおちゃらける彼を適当に流し、アイスを4種類とケーキを2種類袋に入れ店を出た。

 ふと空を見上げるとそこには月と、星が輝いていた。この町で星を見るのはいつぶりだろう。そう考えると、少し頭痛がした。気持ちの悪い痛みだ。圭吾さんに頭痛を訴えると彼は私を背に乗せ家まで歩き出した。彼の髪超しに紫煙が香っていた。


ゴッホよりモネが好き。でも葛飾北斎の安心感たるや

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