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第二話:好きになったら幸せになれない。

 足早に階段を登り、『文芸部』と看板がついている教室に入る。

 今日も一番最初に来ることができた。放課後にこんなに早く来るのは俺くらいだろう。

 迷わず向かって右側、窓から二番目の席に陣取る。

 これで覗き込まれない限り周りからは見えない。

 水筒から紅茶を注いで、一口飲み、ため息をつく。

「さて、今日も始めるか。」

 手提げから『予言の書』を取り出す。

 集中したいときはいつもこうする。文芸部として理想的なルーチンだ。

 ……あいつらがいなければ。


「こんにちはー!」と、元気過ぎる声が部室に響く。

 オカルト部の織野瑠奈(おりのるな)だ。部員数が足りなくて部室を合同にされてしまった。

 『予言の書』なんて知られたら面倒くさいことになる。

 昨日のアレは恐ろしくて寝付けなかったが、冷静に考えてみれば悪戯に偶然が重なっただけだろう。

 朝から雷予報が出ていたし、「目の前」なんて曖昧な表現だ。

「あのばあさんにやられたのか…。」

 怪しいやつだと思っていたけど、こんな簡単なことだったとは。

「山本くん、何、読んでるの。」

 うわ、こいつ覗き込んできた。

「織野さん。急にびっくりさせないでよ。」

「ごめん、嫌だった?」

「別に……」

 俺が嫌だと言えないのをいいことに、近くまで寄ってくる。

「『予言の書』?ついに山本くんもオカルトに目覚めてくれたの?!」

 ほら、やっぱりめんどくさい。ドヤ顔だ。

「そっかー。わたしの想いが伝わったんだね。」

 毎度よくそんな台詞を普通に吐けるな。逆に関心する。

「そんなんじゃないって。いっしょに買ったら安かったから。」

「ねえ、わたしにも見せてよ。」

「あ、ちょっと。」


『〈第二の予言〉20XX年6月2日 東雲(しののめ)高校の校門が開く15分前にトラックが正門に衝突する』


「なにこれ。わたしたちの高校じゃん。これどこで買ったの?」

「えと、それが、分からないんだ。適当に歩いてたら見つけたから。」

 実際、あのあとどう帰ったのかよく覚えていない。散歩しているとよくあることだ。

「ね、じゃあ明日確かめてみようよ。これが本当か。」

 こうしているとラブコメでも始まりそうだが、それはないと断言しておこう。

 彼女にはいつも一緒にいる日向颯斗(ひなたはやと)という幼馴染がいるのだ。そう、()()()()()

 彼女に恋をしたって、成就することはない。

 俺は叶わない夢は持たない主義だ。

「俺は別にいいかな。どうせインチキだし。」

「えーっ。じゃあわたし一人で行っちゃうからね。」

 不意に、窓をドンと叩く音がする。

「あ、颯斗(はやと)。」

 瑠奈が呼ぶ。

 俺は立ち上がって窓を開けてやる。

「瑠奈。もう終わったか?」

「うん。今行くね。」

 開けてやったのに礼も無しか。

 こいつらは俺なんてお構いなしに続ける。

「俺、お前がいないと数学出来ないからさ、頼むわ。」

 香月もそうだが、どうしてこの二人はラブコメみたいなセリフを簡単に言えるんだ。

「ウチに頼ってばっかだと、将来お嫁さんできないぞ。」

「うるせー。俺はいいんだよ。」

 早く帰ってくれないかな。

「あっそうだ。山本くん、これここに隠させて。」

 ドン、とカバンから大量の教科書が出てきた。

 うちの学校、置き勉禁止なんだが。

「じゃあわたし帰るね。」

「あ、うん。さよなら。」

 やっと行った。ようやくゆっくりできるぞ。

 次のページをめくると、白紙だ。

 なんだこれ?

 そのページ以降はすべて白紙だった。

 印刷ミスか、わざとか。わざとなら確かに気味が悪い。


 そこに、瑠奈が小走りで戻ってくる。

「明日、わたし待ってるから。来てね。」

 また、そんなことを言う。


 ◆◆◆


 翌日、朝7時30分。結局来てしまった。予言の時間まで5分ある。まだ瑠奈は来ていないようだ。

 7時31分。早すぎてほかの生徒は誰もいない。

 7時32分。もう一度、『予言の書』を開く。やっぱり3ページ以降は白紙だ。初めて開いたときはどうだったっけ。

 7時33分。予言によると、この校門にトラックが衝突するらしい。怖いのでちょっと離れておこう。

 7時34分。あいつ、結局来ないのかよ。来るだけ無駄だったな。

 7時35分。走る音が聞こえる。

「あれーっ!山本くん。来てくれたの!?」

 予言を確かめるのに、時間ちょうどに来るやつがいるか?

 それにもう秒針は一周する。結局インチキだったな。

 ――――その時。

「危ない!」

 えっ?

 トラックがブレーキ音とともに滑り込み、ガシャン!と音を立てて校門にめり込む。校門は柔らかい素材なので、運転手は無事のようだ。

 慌てて駆け寄る俺をよそに、瑠奈は目を輝かせて叫ぶ。


「山本くん、あの『予言の書』本物だよ!」

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