第一話:予言なんてただの思い込みだ。
今日で5月も終わり、快晴だ。
午前中しか授業がなかったので、いつもとは違う道で帰ろうと思ったのだが……。
「ここ、どこだ?」
完全に道に迷った。どこを見ても見覚えがない。
こんなときも誰かと一緒だったら相談できたのだろうか。
すぅ、はぁ。大きく肩を揺らして深呼吸をする。とりあえず落ち着いて状況を整理しよう。
ふと見ると古本屋があるじゃないか。これは収穫だ。
ちょうど昨日一冊読み終わったから、新しいのを買って行こう。
『在庫処分』と書かれたコーナーを見ると一冊売れ残りがある。
『予言の書』
呆れた。これは売れなくて当然だ。見た目だけで怪しすぎるもん。
いや、オカルト部の女子たちなら喜ぶかもしれない。
そう思って手に取るとすかさず、
「ヒッヒッヒ、兄ちゃん。その本に興味があるのかい?」
「え?いや、俺は。」
人影が近い。思わず手で押しのける。
「最近入った奴なんだけど気味が悪くって。もらってくれるなら500円でもいいよ。ついでにあっちとこっちもつける。」
このばあさん、めんどくさいな。いや、めんどくさいというか、なんかうさんくさい。
しかし、うさんくさいやつが気味悪いと思う本ってのは、ちょっと気になるかも。
かえって案外ほんものの予言の書だったりして。
まあ、俺の未来が予言出来たって、悪い未来しか出てこないだろうけど。
「ありがとうね~。」
満面の笑みのばあさんが手を握ってきた。
結局圧されて4、5冊買わされた。一生の不覚。
これでも安くしてもらったから1冊くらいの値段で済んだけど、この4、5冊に文庫本1冊分の価値はないだろう。
話もそこそこに手を振りほどいてそそくさと離れる。もう二度とこないようにしよう。
歩きながらページをめくる。片手で本を持つのは難易度が高い。
いつの間にか、空が暗くなっている。
『予言の書』。あえて中身を見ずに買ったが、どんな内容だろう。
予言と言ってもどうせ薄っぺらい宗教書ってところだろう。こんなもの、ちょっとでも期待して読むと痛い目を見る。
キーンコーン――――
最初のページをめくるとともに、時報のチャイムが鳴る。
『<第一の予言>20XX年5月31日 16時のチャイムが鳴り終わるとともに、山本照彦の目の前に落雷する。』
――――カーンコーン
「山本…照彦…?」
突然出てきた自分の名前に混乱して、予言の書を落とした。
まてよ。
キーンコーン――――
5月31日って今日……
文章の意味を理解する前に、チャイムが鳴り終わる。
――――カーンコー…
空がうなり、バリバリバリ、と閃光が突き刺す。
目の前の木が真っ二つになって火花が散った。
「うわぁ!」
状況を飲み込むまで、しりもちをついたまま呆然としていた。
しばらくして、ようやく理解できた。予言が、当たったのだ。