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深淵の墓守令嬢  作者: Bell
序章
9/13

辺境伯家の追放事情・9

 少女が投げ放った光球に、スヴィアは眩しそうに目を細め困惑を露わにする。


 リオ王国において貴族の大部分が魔法使いであるのとは反対に、平民階級出身の魔法使いは稀な存在だ。平民は貴種に比べて魔力量の少ない傾向があり、魔法を行使可能なだけの水準を超える者は少ない。加えて魔力量が足りていても、魔法の知識を身に付けるだけの環境も整っておらず宝の持ち腐れとなる場合がほとんど。

 特に流民街の環境など劣悪の一言。そんな場所で育ったであろう少女がどうやって魔法を、それも詠唱を破棄した誓名(スペル)による行使など身に付けたのか。


 と、瞬時にそこまで考えを巡らせたスヴィアだったが、とりあえず一旦は目の前に迫る魔法への対処に思考を切り替える。


 少女が放った照球(シャイン)は、その場に光源を作り出す初歩的な下位の光魔法。のはずなのだが、少女の手から放たれた光球は通常のそれより明らかに光の密度が濃い。過剰に魔力を込め効果を底上げしていいるのだろう。


 少しでも魔力操作を緩めれば暴発し弾け飛ぶ…いや、それが目的か。 


「"廃却炉(アファルクター)"」


 スヴィアは手のひらに白い靄を生み出しフッと息を吹き付ける。靄はフワリと飛んでゆくと落下してくる光球へ引火し、あっという間に光を呑み込み燃やし尽くした。


「な、何でっ……」


 靄の中で光が燃え尽きるという異質な光景に戸惑い唖然する少女。


「"撃ち放つ焔(フラムショット)"」


 それを尻目にスヴィアは十八番の魔法を組み上げ、煌々と燃え上がる炎槍を撃ち放つ。

 

「避けろセシリーッ!」


 焦燥を露わにしたキールが少女の名を叫ぶも間に合わない。


「へっ…あれ?熱、い…あ、あぁぁぁ、痛い、痛い痛いっ」


 燃え尽きる光球に意識を取られたのか、少女は直撃した炎槍に左の眼を焼かれその場に崩れ落ちた。


「お前よくもっ!」


 その様子を見て激高したキールが刀を手にスヴィアへと飛び出す。刃は潰されているとはいえ、魔力による強化を纏った鋼の塊という時点で簡単に人を殺められる凶器であることに変わりはない。すぐに周囲の兵士達が取り押さえようと動き出すが、


「全員手を出すな」


 それを制止したのは他ならぬスヴィアだった。


 対外的にキールは未だ辺境伯家の嫡子という扱いのまま、取り押さえるにも兵士達には躊躇いが発生するだろう。一方のキールは激情に冷静さを失っている状態。下手に交戦させれば兵士達の中から死傷者が出かねない。ディーナであれば問題なく取り押さえることも出来るだろうが、


 何にせよ、最適なのは私だろう。


「スヴィアァァァ!!!」


「久しぶりに修練を付けてやる」


 スヴィアは現出させた槍の柄で正眼に振り下ろされた刃の潰れた刀を受け、右足を後ろへ引きながら穂先を降ろし滑らせるように逸らした。更に流れるように槍を回転させ、刀を上から叩き落とす。

 このままでは体勢を崩すと判断したキールが瞬時に刀を手放し、代わりに握り込んだ拳を魔力で強化してザンッと踏み込むのに合わせ、スヴィアは更に半歩左足を引きながら刀を抑えていた槍を跳ね上げ拳を斜め下から打ち払った。


 前へ前へと攻勢に出るキールと、防戦しながら隙を探るスヴィア。まだ姉弟の関係が良好だった数年前、打ち合い稽古をしていた時から二人のスタイルは変わっていない。ただ一つ当時と異なる点があるとすれば、


「なんだ、拍子抜けだな」


 それはキールが任務を放り出し流民街へ入り浸り、そしてスヴィアが迷宮深層での任務に身を置き続けた二年という月日の差であろうか。


 体重を乗せた拳を払いのけられたキールは、腕が伸び切り重心は前のめりと隙だらけ。スヴィアはその頬に肘を叩き込むと、体勢を崩し無防備を晒すみぞおちに膝を突き刺す。


「ゔっ」


 そして体をくの字に曲げふらつくキールの顎を掌底で打ち抜き地面に叩きつけた。


「っ!」


 受け身も取れず息の吸い方を忘れたように藻掻くキールに、スヴィアは心の底から呆れたような視線を向ける。

 二人で打ち合い稽古を行っていた頃、キールの近接戦の技量は非常に高いものだった。魔法を禁止した模擬戦ではスヴィア相手にも優勢だった程に。


 今じゃ見る影もないな。


 先程のキールの反応からするに、流民街に入り浸る理由が少女に入れ込んでいるためという噂も真実だろう。相手はおそらくセシリーと呼んでいた先程の少女。


「誰かこの馬鹿を縛り上げて駆車に放り込んでおけ」


 スヴィアはキールを拘束するよう指示を出し、こちらの様子を伺っていたゴロツキ達へ視線を移す。目が合うなり彼らは慌てて地面に跪いた。どうやらこの場において最も重要視すべき人間が誰か、正しく判断を下したらしい。


「さて私達はこの孤児院に用があるのだが、構わないな?」


 ツカツカと目の前まで歩いてきたスヴィアに、纏め役の男が緊張した様子で深く頭を下げ肯定する。


「とのことだ。孤児院の調査を開始するぞ」


 その平伏を肯定と取らえたスヴィアの指示に、小隊の兵士達は孤児院の中へと踏み込んだ。

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