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三国滅亡

天華暦1031年、初夏。落霞連邦の首都・星火城。


劉星火は、議事堂の窓から遠くを見つめていた。初夏の穏やかな風が、彼の長い髪をそよがせる。しかし、その表情には深い憂いが刻まれていた。


「蒼天遊」彼は静かに呼びかけた。


「はい、盟主」蒼天遊が近づいてきた。


「最近、玄龍国の動きが妙だと感じないか?」


蒼天遊は一瞬躊躇したが、すぐに答えた。


「はい。北方の国境付近で、兵の動きが活発になっているという報告が入っています」


劉星火は深くため息をついた。


「やはりか...」


その時、突如として扉が開き、一人の伝令が駆け込んできた。


「盟主! 緊急事態です!」


劉星火と蒼天遊は驚いて振り返った。


「何事だ?」劉星火の声が鋭く響く。


「玄龍国が...玄龍国が我が国に侵攻を開始しました!」


部屋の空気が一瞬で凍りついた。


劉星火の表情が一変する。


「詳細を話せ」


伝令は息を整えながら報告を続けた。


「北方の玄武関が陥落しました。玄龍国の大軍が、我が国の領内に押し寄せています」


蒼天遊が即座に問いかけた。


「我が軍の状況は?」


「応戦していますが、玄龍国の軍勢があまりに膨大で...」


劉星火は拳を握りしめた。


「くっ...まさか本当に...」


彼は蒼天遊を見た。


「蒼天遊、即刻全軍に動員をかけよ。そして...」


「はい」


「碧波国との同盟を確認せよ。彼らの支援なくしては、この危機を乗り越えられまい」


蒼天遊は深々と頭を下げた。


「承知いたしました」


劉星火は再び窓の外を見やった。遠くの地平線に、不吉な暗雲が立ち込めているように見えた。


「天よ...我らに力を」彼は小さく呟いた。


一方、玄龍国の本陣。


李玄策は、大きな作戦地図を前に立っていた。彼の周りには、玄龍国の将軍たちが緊張した面持ちで集まっている。


「諸君」李玄策の声が低く響いた。「我らの時が来た」


彼は地図上の一点を指さした。


「玄武関の陥落により、落霞連邦の北方防衛線は崩壊した。我々はこの勢いに乗じ、一気に中枢部まで進軍する」


将軍の一人が進み出た。


「李軍師、碧波国の動きは?」


李玄策の目が鋭く光った。


「奴らも動くだろう。だが、我々の進軍速度が彼らの予想を上回れば、援軍が到着する前に決着をつけられる」


別の将軍が不安そうに言った。


「しかし、山岳地帯での戦いは...」


李玄策は冷静に答えた。


「そのための準備は整っている。我が軍の新兵器、"飛龍弩"を見せてやろう」


彼は、複雑な機構を持つ巨大な弩を指さした。


「これにより、山岳地帯での攻城戦も有利に進められる」


将軍たちの目が輝いた。


「さすがは李軍師!」


李玄策は満足げに頷いた。


「行くぞ、諸君。玄龍国の栄光のために」


「おおっ!」将軍たちの雄叫びが、本陣に響き渡った。


碧波国の王都・碧海城。


陸海龍は、急遽召集された緊急会議の席に着いていた。彼の表情は厳しく、目には深い憂慮の色が宿っている。


「報告せよ」彼の声が、静まり返った会議室に響いた。


宰相の周海棠が一歩前に出た。


「陛下、玄龍国が落霞連邦に侵攻を開始しました」


陸海龍の眉間に深い皺が刻まれる。


「予想より早かったな...」


「はい。そして」周海棠は一瞬言葉を切った。「落霞連邦から、同盟の確認と援軍の要請が届いています」


部屋にざわめきが起こった。


陸海龍は静かに目を閉じ、深く考え込んだ。

しばらくの沈黙の後、彼は目を開いた。


「諸卿、意見を聞こう」


海軍元帥の孫風雷が立ち上がった。


「陛下、これは我々にとっても危機です。玄龍国が落霞連邦を制圧すれば、次は我が国が狙われるでしょう」


財務卿の王守財が反論した。


「しかし、戦争となれば莫大な費用が...」


陸海龍は手を上げて、議論を制した。


「諸卿、我々に選択の余地はない」


彼はゆっくりと立ち上がった。


「落霞連邦との同盟を確認し、全軍に動員をかけよ。我々は、玄龍国の野望を阻止せねばならぬ」


「御意!」重臣たちの声が、一つになって響いた。


陸海龍は窓の外を見やった。碧い海が、遠くまで広がっている。


「風よ」彼は小さく呟いた。「我らに味方せよ」


星火城の作戦室。


劉星火、蒼天遊、そして五凰将軍たちが、緊張した面持ちで地図を囲んでいた。


「現状を報告せよ」劉星火の声が、重く響く。


蒼天遊が答えた。


「玄龍国軍は、三路に分かれて南下を開始しています。東路は already 青龍峡を通過、中路は玄武平原を南下中、西路は白虎谷に進入しつつあります」


高義将軍が拳を握りしめた。


「くっ...奴ら、よくもここまで...」


楊豪将軍が叫んだ。


「俺様に任せてくれ! 必ずや敵を撃退してみせる!」


李静将軍が冷静に言った。


「待って。敵の数があまりにも多すぎる。正面からの対決は避けるべきよ」


風雷将軍が頷いた。


「そうだな。ゲリラ戦で敵の進軍を遅らせるのが得策かもしれない」


玉龍将軍は静かに目を閉じたまま言った。


「山の力を借りるのだ。我らの地の利を最大限に活かさねば」


劉星火は深く頷いた。


「そうだな。では...」


彼は地図上の一点を指さした。


「ここ、赤鳳峡に我らの本陣を置く。地形を利用し、敵の進軍を食い止める」


蒼天遊が付け加えた。


「そして、碧波国の援軍と合流する時間を稼ぐのです」


劉星火は厳しい表情で全員を見渡した。


「諸君、我らの戦いが今、始まる。落霞連邦の運命は、諸君の手にかかっている」


「御意!」将軍たちの声が、部屋に響き渡った。


玄龍国軍の先鋒部隊。


"飛龍弩"を携えた部隊が、山岳地帯を進んでいた。


先鋒を率いる若き将軍・趙雷が、前方を指さした。


「あれが赤鳳峡か...」


副官が報告した。


「はい。敵の本陣がそこにあるとの情報です」


趙雷は冷笑した。


「ふん、山に隠れるとは情けない。我らの"飛龍弩"で、やつらの巣を崩してやる!」


「しかし将軍」副官が慎重に言った。「この地形は複雑で、"飛龍弩"の威力を十分に発揮できないかもしれません」


趙雷は不機嫌そうに副官を睨んだ。


「黙れ! 李軍師の計画に間違いはない。全軍、進軍だ!」


「おおっ!」兵士たちの雄叫びが、山々にこだました。


碧波国の艦隊。


旗艦の甲板で、孫風雷が望遠鏡で遠くを見つめていた。


「くそっ、風の向きが悪い」彼は舌打ちした。


副官が近づいてきた。


「元帥、このままでは予定より到着が遅れそうです」


孫風雷は歯を食いしばった。


「わかっている。だが、諦めるわけにはいかん。全艦に告げろ。全速前進だ!」


「はっ!」


孫風雷は再び海を見つめた。


「落霞の者たちよ」彼は小さく呟いた。「もう少しの辛抱だ。必ずや援軍を...」


赤鳳峡の落霞連邦本陣。


劉星火は、高台から戦場を見下ろしていた。遠くに、玄龍国軍の旗印が見える。


「来たか...」彼の声は、低く重かった。


蒼天遊が近づいてきた。


「盟主、準備は整いました」


劉星火は頷いた。


「よし。では、作戦を開始せよ」


「御意」


蒼天遊が下がると、五凰将軍たちが近寄ってきた。


高義が進み出た。


「盟主、我が部隊は東の尾根を守ります」


楊豪が続いた。


「俺様は、正面の峡谷を死守する!」


李静が言った。


「私は、後方の補給路を確保します」


風雷が笑みを浮かべた。


「俺は、敵の後方をかく乱する。ゲリラ戦で攪乱してやるぜ」


玉龍が静かに言った。


「わしは、山の気を操り、敵の動きを妨げよう」


劉星火は深く頷いた。


「頼んだぞ、諸君。我らの祖国を、そして民を守るのだ」


「はっ!」


将軍たちが散っていく中、劉星火は再び戦場を見つめた。


「さあ、運命の戦いが始まる」


彼の目に、強い決意の色が宿った。


天華暦1031年、初夏。

三つの国の運命を賭けた大決戦が、今まさに幕を開けようとしていた。


そして、この戦いの結末が、大陸の歴史を大きく変えることになるのだった。


(続き)


赤鳳峡の戦場。初夏の陽光が、峡谷の岩肌を照らしている。しかし、その光景とは裏腹に、空気は張り詰めていた。


玄龍国軍の先鋒部隊が、峡谷の入り口に到達した。


趙雷将軍が馬を進め、前方を見据えた。


「ふむ...敵の姿が見えんな」


副官が報告した。


「将軍、斥候からの報告では、敵は峡谷の奥に陣を構えているとのことです」


趙雷は冷笑した。


「なるほど。臆病者どもめ、奥に隠れおって」


彼は振り返り、部下たちに命令を下した。


「よし、"飛龍弩"部隊を前線に。敵の陣地を叩け!」


「はっ!」


巨大な"飛龍弩"が、ゆっくりと前進を始めた。


一方、落霞連邦軍の本陣。


劉星火は、蒼天遊と共に高台から敵の動きを見ていた。


「来たか」劉星火が静かに言った。


蒼天遊は頷いた。


「はい。予想通り、"飛龍弩"を前面に出してきました」


劉星火の目が鋭く光った。


「奴らの自信の源か...だが」


彼は峡谷の地形を指さした。


「この地形では、あの大型兵器も思うように動けまい」


蒼天遊も同意した。


「はい。そして、我々の罠も仕掛けてあります」


劉星火は頷いた。


「よし。では、作戦を開始せよ」


「御意」


蒼天遊は即座に命令を下した。


峡谷の両側に潜んでいた落霞連邦の弓兵たちが、一斉に動き出した。


玄龍国軍の先鋒部隊。


突如として、無数の矢が空から降り注いだ。


「敵襲だ!」趙雷が叫んだ。


兵士たちが慌てふためく中、"飛龍弩"部隊が狙いを定めようとするが、狭い峡谷では思うように動けない。


「くそっ!」趙雷が歯ぎしりした。「何をしている! 早く反撃せよ!」


しかし、その時だった。


「将軍! 上を!」副官が叫んだ。


趙雷が見上げると、峡谷の上から巨大な岩が転がり落ちてくるのが見えた。


「退けーっ!」


しかし、その叫びも空しく、岩は"飛龍弩"部隊を直撃した。


峡谷に、金属の砕ける音と兵士たちの悲鳴が響き渡る。


落霞連邦軍本陣。


「やった!」楊豪将軍が歓声を上げた。


劉星火は冷静に状況を見ていた。


「まだだ。これは始まりに過ぎん」


蒼天遊が報告した。


「盟主、敵の先鋒部隊は混乱しています。しかし...」


「しかし?」


「本隊がすぐ後に控えています。李玄策の率いる精鋭部隊です」


劉星火の表情が引き締まった。


「か...李玄策か」


一方、玄龍国軍の本陣。


李玄策は、先鋒部隊の惨状を冷静に見つめていた。


「ふむ...予想通りだな」


側近が驚いて尋ねた。


「軍師、まさかこれも計算済みでしたか?」


李玄策は静かに頷いた。


「ああ。落霞連邦軍の策を引き出すためのな」


彼は地図を広げ、新たな指示を出し始めた。


「全軍に告げよ。第二段階の作戦を開始する」


「はっ!」


碧波国の艦隊。


孫風雷元帥は、焦りを隠せない様子だった。


「くそっ、まだか!」


副官が報告した。


「あと半日で目的地に到着します」


孫風雷は拳を握りしめた。


「半日か...落霞の者たちよ、それまで持ちこたえてくれ」


赤鳳峡の戦場。


玄龍国軍の本隊が、峡谷に進入し始めた。


劉星火は、その様子を見て眉をひそめた。


「蒼天遊、あれは...」


蒼天遊も緊張した面持ちで答えた。


「はい。李玄策の新たな動きです」


玄龍国軍は、先ほどとは異なる隊形で進軍していた。前衛には軽装の部隊、そして後方に重装備の部隊が控えている。


「罠を警戒しているな」劉星火が呟いた。


蒼天遊は頷いた。


「はい。先の作戦は、もう通用しません」


劉星火は深く息を吐いた。


「ならば...次の手を打つ時だな」


彼は五凰将軍たちに新たな指示を出し始めた。


戦いは、新たな段階に突入しようとしていた。


太陽が西に傾き始める頃、赤鳳峡の戦いは激しさを増していった。


玄龍国軍の軽装部隊が、巧みな動きで落霞連邦軍の防衛線を突破しようとする。それに対し、落霞連邦軍は地の利を活かした巧みな戦術で応戦する。


峡谷の上空には、矢と石が飛び交い、地上では剣と槍がぶつかり合う音が絶え間なく響いていた。


劉星火は、高台から戦況を見守りながら、次々と指示を出していた。


「高義、東の尾根を死守せよ。楊豪、正面からの突撃を阻止せよ。李静、後方の補給路を確実に」


各将軍たちは、必死に戦いを繰り広げていた。


一方、玄龍国軍の本陣。


李玄策は、冷静に戦況を分析していた。


「ふむ...予想以上に手強いな」


彼は、新たな作戦を練り始めた。


「よし、第三軍団を右翼に、第五軍団を左翼に展開せよ。挟撃の態勢を取れ」


その指示に従い、玄龍国軍の隊形が変化していく。


赤鳳峡の戦場は、刻一刻と緊迫の度を増していった。


両軍の将兵たちは、疲労と緊張の中で必死に戦い続けていた。


そして、夕暮れが近づく頃...


突如として、遠くの海から轟音が響いてきた。


劉星火と李玄策、両者の目が同時に海の方向に向けられた。


そこには、大規模な艦隊の姿があった。


碧波国の援軍が、ついに到着したのだ。


戦場に、新たな緊張が走る。


三つの国の運命を賭けた大決戦は、今まさに最終局面を迎えようとしていた。







血のように夕陽が赤く染まる海面に、碧波国の大艦隊が姿を現した。その光景は、戦場に新たな緊張をもたらした。

赤鳳峡の落霞連邦軍本陣。

劉星火は、到着した艦隊を見つめながら、複雑な表情を浮かべていた。

「来たか...」彼の声には、安堵と同時に微かな不安が混じっていた。

蒼天遊が近づいてきた。

「盟主、碧波国の艦隊が到着しました。これで...」

劉星火は彼の言葉を遮った。

「いや、まだ安心はできん」

「しかし、彼らは我々の同盟国では...」

劉星火は静かに首を振った。

「碧波国は、常に自国の利益を第一に考える国だ。この状況で、彼らがどう動くか...」

蒼天遊の目が鋭く光った。

「まさか、裏切りを...?」

「それも考えられる。だが、それ以上に恐ろしいのは...」

「両方を利用する、ということですか」

劉星火は重々しく頷いた。

「そうだ。我々も玄龍国も疲弊している。この状況で碧波国が漁夫の利を狙う可能性は十分にある」

二人は、沈黙のまま艦隊を見つめた。

一方、玄龍国軍の本陣。

李玄策も、到着した碧波国の艦隊を冷静に観察していた。

「ふむ...予想より早かったな」

側近が不安そうに尋ねた。

「軍師、碧波国は落霞連邦の同盟国です。これでは我々は不利では...」

李玄策は微かに笑みを浮かべた。

「そうかな?」

「え?」

「碧波国は、常に自国の利益を第一に考える国だ。この状況で、単純に落霞連邦側に付くとは限らない」

側近は困惑した様子で言った。

「しかし、同盟を破棄するとは...」

李玄策は静かに言った。

「同盟など、所詮は一時的なものだ。碧波国にとって最も利益になる選択をするはずだ」

彼は地図を広げ、新たな作戦を練り始めた。

「よし、碧波国の動きを見極めつつ、我々の次の一手を打つ準備をせよ」

碧波国の旗艦。

陸海龍は、甲板から戦場を見下ろしていた。彼の表情は、何も語らない仮面のようだった。

孫風雷が近づいてきた。

「陛下、我々はどちらに付くのでしょうか」

陸海龍は、しばらく沈黙した後、静かに言った。

「どちらにも付かん」

「えっ?」

「我々の目的は、この大陸の均衡を保つことだ。どちらか一方が圧倒的に有利になれば、それは我が国にとっても脅威となる」

孫風雷は困惑した様子で言った。

「では、どうするのです?」

陸海龍の目が鋭く光った。

「両者を戦わせ、互いに消耗させる。そして、最後に我々が漁夫の利を得る」

「しかし、それでは落霞連邦との同盟は...」

「同盟など、所詮は駒に過ぎん。我が国の繁栄のためなら、何も躊躇うことはない」

孫風雷は、複雑な表情を浮かべながら頷いた。

陸海龍は再び戦場を見つめた。

「よし、まずは...」

彼は、新たな指示を出し始めた。

戦場では、碧波国艦隊の到着により、一時的に戦闘が小康状態となっていた。

しかし、その静けさは、嵐の前の静けさにも似ていた。

三つの国の思惑が絡み合い、誰も先の展開を予測できない状況。

策謀と疑心暗鬼が渦巻く中、戦いは新たな局面を迎えようとしていた。

劉星火、李玄策、陸海龍。 三者三様の思惑を胸に、彼らは次の一手を考え始めていた。

そして、彼らの決断が、この大陸の運命を大きく左右することになるのだった。

夜が深まり、赤鳳峡を覆う闇の中で、三国の思惑が静かに蠢き始めた。

落霞連邦軍本陣。

劉星火は、蒼天遊と五凰将軍たちを集めて緊急会議を開いていた。

「諸君」劉星火の声は低く、重かった。「碧波国の真意を探る必要がある」

高義将軍が口を開いた。

「盟主、彼らは我らの同盟国です。疑う必要などないのでは?」

蒼天遊が静かに首を振った。

「いいえ。この状況下では、誰も信用できません」

楊豪将軍が苛立たしげに言った。

「くそっ、なら直接問いただしてやろうじゃないか!」

李静将軍が冷静に制した。

「待って。そんな乱暴なことをすれば、かえって疑われるわ」

風雷将軍が提案した。

「なら、俺が密かに偵察に...」

玉龍将軍が目を閉じたまま言った。

「いや、まずは静観するのだ。相手の出方を見極めねば」

劉星火は全員の意見を聞いた後、深く息を吐いた。

「わかった。では...」

彼は新たな指示を出し始めた。

一方、玄龍国軍本陣。

李玄策は、幹部たちを集めて作戦会議を開いていた。

「諸君」彼の声は冷静さを保っていた。「碧波国の存在は、我々にとって新たな不安の種となった」

ある将軍が不安そうに言った。

「軍師、彼らが落霞連邦に味方すれば、我々は包囲されることに...」

李玄策は微かに笑みを浮かべた。

「いや、そうとは限らん」

「どういうことでしょう?」

「碧波国は、常に自国の利益を最優先する。この状況下で、彼らが取り得る選択肢は複数ある」

彼は地図を指さしながら説明を続けた。

「我々は、彼らの出方を見極めつつ、あらゆる可能性に備えねばならない」

幹部たちは、李玄策の冷徹な分析に感嘆の声を上げた。

碧波国艦隊の旗艦。

陸海龍は、幹部たちを集めて密談を行っていた。

「諸君」彼の声は低く、しかし威厳に満ちていた。「我々の真の目的を忘れるな」

孫風雷が確認するように言った。

「両国を消耗させ、最後に漁夫の利を得る...ということですね」

陸海龍は静かに頷いた。

「そうだ。だが、それを悟られてはならない」

財務卿の王守財が懸念を示した。

「しかし、落霞連邦との同盟を破棄すれば、我が国の信用は地に落ちます」

陸海龍の目が鋭く光った。

「同盟は破棄せん。ただ...適度に援助を遅らせるのだ」

外交官の趙明月が付け加えた。

「そして、玄龍国には秘密裏に接触を...」

「その通りだ」

陸海龍は満足げに頷いた。

「我々は、両国の均衡を保ちつつ、少しずつ自国の利益を拡大していく」

幹部たちは、陸海龍の巧妙な策に感嘆の声を上げた。

夜が更けていく中、三国の指導者たちは、それぞれの思惑を胸に秘めながら、次の一手を考え続けていた。

翌朝、赤鳳峡に朝日が差し込む頃。

突如として、碧波国艦隊が動き出した。

劉星火と李玄策は、同時にその動きに気づいた。

「来たか...」両者の呟きが、それぞれの陣営に響いた。

碧波国艦隊は、ゆっくりと赤鳳峡の入り口に向かって進んでいく。

その動きに、落霞連邦軍と玄龍国軍の両方が緊張を高めていった。

陸海龍は、艦橋から静かにその様子を見つめていた。

「さあ、真の戦いの幕開けだ」

彼の目には、計算された冷徹さが宿っていた。

赤鳳峡の戦いは、今まさに新たな段階へと突入しようとしていた。

三国の思惑が交錯する中、大陸の運命を左右する重大な局面が始まろうとしていたのだ。


赤鳳峡の入り口に差し掛かった碧波国艦隊。その時、思わぬ事態が起こった。

旗艦の甲板で、一人の水夫が足を滑らせ、手に持っていた信号旗を取り落とした。その旗は、風に煽られて艦隊の中央に舞い落ちる。

「あれは...」落霞連邦の見張りが叫んだ。「進軍の合図だ!」

一方、玄龍国軍の斥候も同じ光景を目にしていた。

「軍師!碧波国が動きます!」

李玄策は眉をひそめた。「予想より早いな...」

碧波国艦隊では、陸海龍が混乱した様子で叫んでいた。

「何が起きた?誰が合図を出した?」

しかし、すでに艦隊は動き始めていた。

この偶然の出来事が、三国の運命を大きく動かす歯車となった。

落霞連邦軍は、碧波国の「合図」を見て、一斉に攻勢に出た。

「援軍が来た!」劉星火が叫ぶ。「全軍突撃だ!」

玄龍国軍は、突如の事態に戸惑いを隠せない。

「くっ...」李玄策が歯ぎしりする。「全軍、態勢を立て直せ!」

碧波国艦隊は、意図せず戦闘に巻き込まれていく。

「やむを得ん」陸海龍が決断を下す。「落霞連邦に加勢せよ。それが今は最善の策だ」

三国の軍勢が入り乱れ、戦場は混沌の渦と化した。

その中で、ある必然的な流れが生まれ始める。

玄龍国軍は、二国の挟撃に苦しみ始めた。李玄策の冷静な指揮も、形勢を覆すには至らない。

一方、落霞連邦軍と碧波国軍は、意図せず息の合った連携を見せ始める。

この流れは、もはや誰にも止められない必然となっていった。

戦いは、一気に決着へと向かって疾走し始めた。

玄龍国軍の陣形が崩れ始める。

「くそっ...」李玄策が叫ぶ。「後方部隊、前線を支援せよ!」

しかし、その指示が伝わる前に、落霞連邦の楊豪将軍が突破口を開いた。

「うおおっ!」彼の雄叫びが戦場に響く。「敵の中央が崩れたぞ!突け!」

碧波国の水軍も、玄龍国軍の側面を激しく攻撃する。

「全艦、一斉砲撃!」孫風雷の声が轟く。

玄龍国軍の敗走は、もはや避けられないものとなっていた。

李玄策は、苦渋の決断を下す。

「全軍撤退...」彼の声は、かすれていた。

玄龍国軍は、混乱の中で退却を始める。追撃する落霞連邦軍と碧波国軍。

そして、赤鳳峡の戦いは、玄龍国の敗走という形で幕を閉じた。

戦いの後、三国の指導者たちは、この予期せぬ結末に思いを巡らせる。

劉星火:「まさか、こんな形で勝利するとは...」

陸海龍:「偶然が、我らの思惑を超えて事を動かしたか...」

李玄策:「運命とは、かくも皮肉なものか...」


戦況が玄龍国軍に不利になる中、李玄策の冷静な判断が光る瞬間が訪れた。

「全軍に告ぐ」李玄策の声が、玄龍国軍全体に響き渡った。「段階的撤退を開始する。各隊長は、秩序ある撤退を確保せよ」

その声に、混乱しかけていた玄龍国軍に、一筋の秩序が生まれ始めた。

最前線では、玄龍国の精鋭部隊が盾の壁を作り、後退する主力部隊を守る。

「押し返せ!」玄龍国の前衛隊長が叫ぶ。「仲間たちの撤退を守るんだ!」

その必死の抵抗に、追撃する落霞連邦軍と碧波国軍の進軍速度が鈍る。

劉星火は眉をひそめた。「奴ら、まだ戦意を失っていないようだな」

陸海龍も同意する。「あの李玄策、最後まで侮れんな」

玄龍国軍の中央部隊。李玄策は冷静に指示を出し続ける。

「第三軍団、左翼を固めよ。第五軍団、後方の安全を確保せよ」

彼の的確な指示により、玄龍国軍は混乱に陥ることなく、整然と後退していく。

落霞連邦軍の蒼天遊が、その様子を観察していた。

「見事な撤退だ...」彼は思わず呟いた。「これでは、大打撃を与えることはできんな」

碧波国の孫風雷も同意見だった。「このままでは、玄龍国軍を壊滅させることはできない」

夕暮れが近づく頃、玄龍国軍の主力は、すでに赤鳳峡から脱出していた。

李玄策は、最後尾で撤退を見守っていた。

「これで良し」彼は静かに呟いた。「我が軍の命脈は保たれた」

戦場に残された落霞連邦軍と碧波国軍。

劉星火は、去っていく玄龍国軍を見つめながら言った。

「追撃は控えよ。これ以上の損害は避けねばならん」

陸海龍も同意した。「そうだな。この程度の勝利で満足すべきだ」

こうして、赤鳳峡の戦いは終結した。 玄龍国軍は敗北を喫したものの、李玄策の冷静な指揮により、致命的な打撃を避けることに成功した。

戦いの後、三国の指導者たちは、この結果が今後の大陸情勢にどのような影響を与えるか、思いを巡らせていた。

劉星火:「勝利はしたが、玄龍国の脅威は去っていない...」

陸海龍:「均衡は崩れたが、完全には傾いていないか...」

李玄策:「敗北は喫したが、我が国の力は健在だ。次こそは...」

赤鳳峡の戦いは、一つの決着をつけたかに見えた。 しかし実際には、これが大陸の新たな争いの幕開けとなることを、誰もが予感していたのだった。








天華暦1033年、晩秋。星火城。

赤鳳峡の戦いから2年が経過し、落霞連邦は表面上、繁栄を謳歌していた。しかし、その平和な外観の下で、暗い影が忍び寄っていた。

劉星火は、議事堂の窓から街を見下ろしていた。秋の冷たい風が、彼の長い髪をなびかせる。

「蒼天遊」彼は静かに呼びかけた。

「はい、盟主」蒼天遊が近づいてきた。

「最近、玉清将軍の動きが妙だと感じないか?」

蒼天遊は一瞬躊躇したが、すぐに答えた。

「はい。彼の部隊の動きが、通常の巡察範囲を越えているという報告が...」

劉星火は深くため息をついた。

「やはりか...」

その時、突如として扉が開き、一人の伝令が駆け込んできた。

「盟主! 緊急事態です!」

劉星火と蒼天遊は驚いて振り返った。

「何事だ?」劉星火の声が鋭く響く。

「玉清将軍が...玉清将軍が反乱を起こしました!そして、玄龍国軍が国境を越えて...」

部屋の空気が一瞬で凍りついた。

劉星火の表情が一変する。

「詳細を話せ」

伝令は息を整えながら報告を続けた。

「玉清将軍の部隊が、北方の関所を開き、玄龍国軍を招き入れました。現在、敵軍が急速に南下しています」

蒼天遊が即座に問いかけた。

「我が軍の状況は?」

「混乱しています。玉清将軍の部下たちが、各地で寝返っているようです」

劉星火は拳を握りしめた。

「くっ...まさか内部からとは...」

彼は蒼天遊を見た。

「蒼天遊、即刻全軍に動員をかけよ。そして...」

「はい」

「碧波国に緊急支援を要請せよ。この危機を乗り越えるには、彼らの力が必要だ」

蒼天遊は深々と頭を下げた。

「承知いたしました」

劉星火は再び窓の外を見やった。遠くの地平線に、不吉な暗雲が立ち込めているように見えた。

「まさか、玉清が...」彼は苦々しく呟いた。

一方、玄龍国軍の先鋒部隊。

李玄策は、大きな作戦地図を前に立っていた。彼の周りには、玄龍国の将軍たちが緊張した面持ちで集まっている。

「諸君」李玄策の声が低く響いた。「我らの時が来た」

彼は地図上の一点を指さした。

「玉清将軍の協力により、落霞連邦の防衛線は崩壊した。我々はこの勢いに乗じ、一気に中枢部まで進軍する」

将軍たちの目が輝いた。

「さすがは李軍師!」

李玄策は満足げに頷いた。

「行くぞ、諸君。玄龍国の栄光のために」

「おおっ!」将軍たちの雄叫びが、本陣に響き渡った。

星火城の作戦室。

劉星火は、緊急召集された五凰将軍たちと向き合っていた。

「諸君」彼の声は重く、しかし決意に満ちていた。「我らは、今最大の危機に直面している」

高義将軍が拳を握りしめた。

「くっ...玉清め、裏切りおって」

楊豪将軍が叫んだ。

「俺様に任せてくれ! 必ずや敵を撃退してみせる!」

李静将軍が冷静に言った。

「待って。敵は内部にもいる。まず、残存する忠誠部隊を確認しなければ」

風雷将軍が頷いた。

「そうだな。ゲリラ戦で時間を稼ぐのが得策かもしれない」

玉龍将軍は静かに目を閉じたまま言った。

「内なる敵を断ち、外なる敵を防ぐ。我らの真価が問われる時が来たのだ」

劉星火は深く頷いた。

「そうだな。では...」

彼は新たな作戦を指示し始めた。

落霞連邦は、今まさに存亡の危機に瀕していた。

外敵に強かった彼らも、内部からの裏切りには脆かった。

しかし、劉星火と残された忠誠部隊たちは、まだ諦めてはいなかった。

彼らの反撃が、今まさに始まろうとしていた。


天華暦1033年、初冬。落霞連邦の中心部。


玄龍国軍の侵攻により、落霛連邦は風前の灯火となっていた。しかし、五凰将軍たちの奮闘が、最後の希望の光となっていた。


高義将軍、東の防線にて。


高義は、巨大な青龍刀を携え、単身で玄龍国軍の大隊と対峙していた。


「我が名は高義」彼の声が、戦場に響き渡る。「落霻連邦の守護者なり。汝ら、これより先へは一歩たりとも進ませぬ」


玄龍国軍の将軍が嘲笑った。


「ほう、一人で我が大軍を止めるつもりか?」


高義は静かに目を閉じ、深く息を吐いた。

そして、目を開くと同時に、青龍刀を構えた。


「来い」


玄龍国軍が一斉に襲いかかる。

しかし、高義の刀さばきは神速だった。


「青龍旋風斬!」


彼の叫びと共に、巨大な竜巻が敵陣を薙ぎ払う。


「な...何だこれは!」玄龍国軍の将兵たちが驚愕の声を上げる。


戦いは一日中続いた。

日が沈む頃、高義の周りには無数の敵兵の姿があった。しかし、彼はまだ立っていた。


「見たか」高義は、血まみれの顔で微笑んだ。「これぞ、落霻の魂...」


そう言って、彼はゆっくりと倒れた。


その勇姿は、後の世に「一人長城」の逸話として語り継がれることとなる。


楊豪将軍、西の峡谷にて。


楊豪は、大斧を担ぎ、部下たちと共に玄龍国軍の進軍を食い止めていた。


「おらあ!」彼の雄叫びが、峡谷に響き渡る。「かかってこい、玄龍の小僧どもめ!」


玄龍国軍の将軍が叫んだ。


「無謀な!我が精鋭部隊を止められると思うか!」


楊豪は哄笑した。


「へっ、上等じゃねえか。俺様が相手になってやるぜ!」


彼は大斧を振り回し、まるで暴れ牛のように敵陣に突っ込んでいく。


「豪腕百裂斬!」


彼の一撃一撃が、岩をも砕くほどの威力を持っていた。


玄龍国軍は、その猛攻に押され気味だった。


「くっ...こんな豪傑がいるとは」敵将が歯ぎしりする。


戦いは三日三晩続いた。

楊豪は、疲労も見せず戦い続けた。


最後に、彼は敵陣の真ん中で大斧を振り上げた。


「さあて、最後の一撃だ。覚悟しやがれ!」


巨大な斧が大地を裂き、峡谷そのものが崩れ始めた。


「ば、馬鹿な...」敵将が絶句する。


峡谷は崩壊し、楊豪と敵軍もろとも飲み込まれていった。


この「峡谷崩し」の逸話は、後世まで語り継がれることとなる。


李静将軍、南の平原にて。


李静は、精巧な機械仕掛けの弓を手に、玄龍国軍の大軍を相手に孤軍奮闘していた。


「諸君」彼女の冷静な声が響く。「我が矢は、必ず敵将の首級を討つ」


玄龍国軍の将軍が嘲笑した。


「ほう、女一人で何ができる?」


李静は無表情のまま、弓を構えた。


「見せてあげましょう」


彼女の放つ矢は、まるで意思を持っているかのように飛んでいく。


「千里必殺の矢」


矢は、敵陣の奥深くまで飛んでいき、敵将の首を討ち取った。


「ば、馬鹿な...」敵軍が混乱に陥る。


李静は、冷静に次々と矢を放っていく。

その精度は、まさに神業だった。


戦いは一週間続いた。

李静の矢は尽きることなく、敵将を次々と討ち取っていく。


最後に、彼女は最後の一矢を放った。


「これが、落霻の意志...」


矢は、敵軍の大将の首を討ち取ると同時に、李静自身の心臓も貫いた。


この「自殺の一矢」の逸話は、後に歌物語として語り継がれることとなる。


風雷将軍、中央の丘陵地帯にて。


風雷は、稲妻の形をした双剣を手に、ゲリラ戦を展開していた。


「さあて、お遊びの時間だ」彼の軽快な声が響く。


玄龍国軍の将軍が怒鳴った。


「出てこい、卑怯者め!」


風雷は、木々の間から姿を現した。


「やぁ、お呼びかい?」


彼の動きは風のように素早く、雷のように鋭かった。


「風雷神速剣!」


双剣が閃くたびに、敵兵が倒れていく。


玄龍国軍は、その奇襲に翻弄されていた。


「くっ...どこにいる!」敵将が周囲を見回す。


戦いは十日間続いた。

風雷は、昼夜を問わず奇襲を仕掛け続けた。


最後に、彼は敵陣の真ん中に現れた。


「さて、最後のショーの始まりだ」


彼の双剣が天を指し、巨大な稲妻が落ちてきた。


「ま、まさか...」敵将が絶句する。


稲妻は、風雷もろとも敵陣を焼き尽くした。


この「雷神の舞」の逸話は、後に歌舞伎の題材として語り継がれることとなる。


玉龍将軍、北の山岳地帯にて。


玉龍は、杖を突きながら、玄龍国軍の大軍を相手に静かに立っていた。

「若者たちよ」彼の老いた声が響く。「老夫に付き合ってくれるか」

玄龍国軍の若い将軍が嘲笑した。

「何を言う、この老いぼれ」

玉龍は静かに目を閉じた。

「では、老骨に鞭打って一芸を披露しよう」

彼の周りに、不思議な霧が立ち込め始めた。

「白龍玄気功」

霧の中から、巨大な龍の姿が現れる。

「な、何だこれは!」敵軍が混乱に陥る。

玉龍は、静かに杖を突きながら歩き始めた。

その一歩一歩が、大地を揺るがしていく。

戦いは二週間続いた。

玉龍は、ただ歩き続けるだけだったが、その度に敵軍は混乱していった。

「若者たちよ、これが老いの知恵じゃ」とうそぶいたという。そう言って、彼は姿を消した。

敵軍に被害はほとんど出ていなかったこともあり、玉龍はどのような幻術を使ったのかと今でも学者同志で揉めている。

この「山神の帰還」の逸話は、後に神話として語り継がれることとなる。

五凰将軍たちの壮絶な最期は、落霻連邦の民に大きな勇気を与えた。

彼らの犠牲は、決して無駄ではなかったのだ。

しかし、戦況は依然として厳しかった。

そして、さらなる悲劇が待ち受けていた。

蒼天遊の最期。

蒼天遊は、星火城の最後の防衛線で陣を構えていた。

彼の周りには、忠誠を誓う兵士たちがいた。

「諸君」蒼天遊の声が響く。「我らが最後の戦いの時が来た」

兵士たちが答える。

「はっ!」

その時、玄龍国軍の大軍が姿を現した。

その先頭には、李玄策の姿があった。

「蒼天遊」李玄策の声が響く。「降伏せよ。そうすれば命だけは助けてやる」

蒼天遊は静かに首を振った。

「李玄策よ、我が命など取るに足らぬ。だが、この国の魂は...決して汝には渡さぬ」

李玄策の目が鋭く光る。

「ならば、滅びるがいい」

戦いが始まった。

蒼天遊は、持てる力のすべてを振り絞って戦った。

彼の戦略は、玄龍国軍を翻弄し続けた。

しかし、圧倒的な兵力差は如何ともし難かった。

戦いが佳境に入ったとき、蒼天遊は最後の策を実行に移した。


「諸君、申し訳ない」彼は部下たちに言った。「だが、これが我らにできる最後のことだ」

彼は、星火城の中枢部に仕掛けられた爆薬に火を点けた。

「李玄策よ」蒼天遊の声が響く。「この命、国と共に散らせてもらう」

大爆発が起こり、星火城の中枢部は崩壊した。

蒼天遊の最期を目の当たりにした李玄策は、激しい動揺を隠せなかった。

「蒼天遊...」彼の声が震える。「なぜ、ここまで...」

李玄策の心に、初めて迷いが生じた。

蒼天遊の死は、李玄策に大きな影響を与えた。

彼は、自らの行動の意味を問い直し始めたのだ。

一方、劉星火の身に何が起こったのか、誰も知らなかった。

戦いが終わった後、星火城の廃墟を捜索していた兵士が、一枚の手紙を見つけた。

それは、劉星火からの最後のメッセージだった。

「我が同胞たちへ

この手紙を読んでいる諸君、どうか希望を捨てないでほしい。

国は滅びても、我らの魂は滅びぬ。

私は旅に出る。

北方の地に赴き、そこで新たな力を蓄える。

いつの日か、必ずや諸君の元へ戻ってくる。

その日まで、諸君、生き抜いてほしい。

劉星火」

この手紙は、密かに民衆の間で広まっていった。

そして、北方の辺境の地では、劉星火に似た風貌の商人が、静かに旅立っていったという。

落霻連邦は滅びた。

しかし、その魂は生き続けていた。


天華暦1034年、初夏。碧波国の首都・碧海城。


陸海龍は、宮殿の高台から荒れ狂う海を見つめていた。遠くには、玄龍国の軍船が数え切れないほど浮かんでいる。


「ついに、この時が来たか...」彼の声は、波音にかき消されそうだった。


孫風雷が駆け寄ってきた。


「陛下!」彼の声は切迫していた。「玄龍国軍が上陸を開始しました。我々はもう...」


陸海龍は静かに頷いた。


「わかっている」彼は深く息を吐いた。「我が国の運命は尽きたようだ」


「しかし、陛下」孫風雷は必死に言った。「まだ希望があります。我が海軍は健在です。南方の島国に...」


陸海龍の目が輝いた。


「そうか...」彼はゆっくりと孫風雷を見つめた。「風雷よ、お前に最後の命令を下す」


「はっ!」


「我が国の魂を守れ。海軍と共に南へ向かい、新たな碧波国の礎を築くのだ」


孫風雷は深々と頭を下げた。


「御意。必ずや、碧波国の名を永遠に...」


陸海龍は微笑んだ。


「行け。我は此処に留まり、最後の抵抗をする」


孫風雷は涙を堪えながら立ち上がった。


「陛下...」


「さらばだ、風雷。新たな碧波国の繁栄を」


孫風雷は最後に深々と一礼し、急いで立ち去った。


陸海龍は再び海を見つめた。

玄龍国の軍船が、どんどん近づいてくる。


「来い」彼は静かに呟いた。「我が最後の舞台を飾ってくれるか」


碧海城の港。


孫風雷は、残された海軍の将兵たちを前に立っていた。


「諸君」彼の声が響く。「我らの祖国は滅びようとしている。だが、我らの魂は永遠だ」


将兵たちの目に、決意の色が宿る。


「南へ向かう。そこで、新たな碧波国を築くのだ」


「おおっ!」将兵たちの雄叫びが、港に響き渡った。


碧波国の艦隊は、静かに港を出ていった。

後ろには、炎に包まれる碧海城の姿があった。


陸海龍の最期は、誰も目撃していない。

しかし、玄龍国軍が碧海城に到達したとき、そこにはすでに陸海龍の姿はなかった。


ある兵士が、こう証言している。


「碧海城の最上階で、一人の男が海に向かって立っていた。そして、城が崩れ落ちる瞬間、その男は海に向かって跳んでいった。まるで、海神に迎えられるかのように...」


碧波国の艦隊は、南へと進路を取った。


航海は困難を極めた。

嵐、食糧不足、そして追っ手の玄龍国軍。


しかし、孫風雷の指揮のもと、艦隊は着実に南下を続けた。


「風雷殿」ある将校が尋ねた。「我々はどこへ向かうのですか」


孫風雷は遠くを見つめながら答えた。


「南海の楽園、碧南諸島だ」


碧南諸島は、かつて碧波国と親交のあった島国だった。

豊かな自然と、優れた港を持つ島々。


艦隊が碧南諸島に到着したのは、出港から一ヶ月後のことだった。


碧南諸島の首長、青波は、碧波国の艦隊を温かく迎えた。


「よくぞ来てくれた、風雷殿」青波は孫風雷を抱擁した。「碧波国の悲報は聞いていた。だが、お前たちが生きていてくれて...」


孫風雷は深々と頭を下げた。


「青波殿、我らを受け入れてくださり、感謝します」


青波は微笑んだ。


「遠慮することはない。我らは昔から海の同胞。共に、新たな国を築こうではないか」


こうして、碧波国の生存者たちは、碧南諸島に新たな拠点を構えることとなった。


彼らは、その卓越した航海技術と貿易のノウハウを活かし、碧南諸島を中心とした新たな海運国家の礎を築き始めた。


天華暦1035年、初夏。碧南諸島の中心地、新碧海。


孫風雷は、新たに建設された港を見下ろしていた。

そこには、碧波国の旗印を掲げた商船が、次々と入港している。


「風雷殿」青波が近づいてきた。「見事だ。わずか一年で、ここまで発展するとは」


孫風雷は静かに頷いた。


「はい。これも、皆の努力の賜物です」


青波は海を指さした。


「見ろ。あれが我らの未来だ」


遠くには、無数の島々が点在している。

そして、その海域を自由に行き来する船団。


「ああ」孫風雷の目に、決意の色が宿る。「我ら海の民の新たな物語が、ここから始まるのだ」


碧波国は滅んだ。

しかし、その魂は海を越え、新たな形で蘇ろうとしていた。


玄龍国の支配が大陸を覆う中、海の彼方では、新たな力が静かに芽生え始めていたのだ。



天華暦1040年、晩秋。玄龍国の首都・長楽。


玉清将軍は、宮殿の高台から街を見下ろしていた。彼の傍らには、本家の当主である玉青山が立っていた。


「叔父上」玉清が静かに言った。「ついに、この時が来ましたね」


玉青山は頷いた。


「そうだな。我が玉氏一族の栄光の時だ」


二人の目には、野心の炎が燃えていた。


玄龍国の指導者たちは、年々老い衰えていった。

かつての英雄だった楊天虎は、今や病床に伏せっていた。

李玄策も、その鋭さを失いつつあった。


玉清は、軍を掌握し、玉青山は朝廷内で着々と勢力を拡大していた。


そして、ついにその時が訪れた。


天華暦1041年、初春。玄龍国宮殿の大広間。


玉清と玉青山は、老いた楊天虎と李玄策を前に立っていた。


「楊天虎よ」玉清の声が冷たく響く。「お前の時代は終わった」


楊天虎は、かすれた声で答えた。


「玉清...お前、何を...」


玉青山が続けた。


「我らが新たな時代を築く。民の力を取り戻すのだ」


李玄策が立ち上がろうとしたが、すぐに兵士たちに取り押さえられた。


「愚か者め」李玄策が吐き捨てるように言った。「お前たちに何ができる」


玉清は冷笑した。


「見ていろ。我らが作る新しい国を」


その日、宮殿で何が起こったのか、詳細は誰も知らない。

しかし、翌日には玉清が新たな指導者として君臨していた。


天華暦1041年、初夏。長楽の大広場。


玉清は、民衆を前に演説を行っていた。


「諸君」彼の声が響き渡る。「今日、我らは新たな時代の幕開けを迎える」


民衆からどよめきが起こる。


「玄龍国の名を捨て、我らは再び天華の名を取り戻す」


歓声が上がった。


「そして」玉清は続けた。「権力を民に戻す。我らは、民主の国家となるのだ」


人々は熱狂した。


玉青山は、その様子を見ながら静かに微笑んだ。


「さて、歴史の書き換えだ」


彼は、新たに任命された史官たちを集めていた。


「楊天虎と李玄策の事跡を書き直せ」玉青山が命じた。「彼らは、民を苦しめた大逆賊として記録せよ」


史官たちは、おずおずと尋ねた。


「しかし、彼らの功績は...」


玉青山の目が鋭く光った。


「功績?何の功績だ。民を苦しめ、権力を私物化した輩だ」


史官たちは、震える手で筆を取り始めた。


天華暦1045年、新しい天華の歴史書が完成した。


その中で、楊天虎と李玄策は、こう記されていた。


「楊天虎、字を天虎。姦臣にして逆賊なり。民を欺き、権力を奪い取る。その罪、万死に値す」


「李玄策、字を玄策。奸智に長け、民を惑わす。楊天虎の片腕となり、国を乱す。その罪、赦すべからず」


この歴史書は、新しい天華の全土に配布された。

人々は、この新しい「真実」を学び、信じ始めた。


かつての英雄たちの名は、徐々に汚され、忘れ去られていった。


天華暦1050年、晩秋。長楽の街角。


老人が、若者たちに昔話をしていた。


「昔々、楊天虎と李玄策という悪い奴らがいてな」


若者たちは、目を輝かせて聞いている。


「でも、我らが玉清様と玉青山様が、民のために立ち上がってくださったんじゃ」


「へえ、玉清様たちは本当に凄いんですね」


老人は頷いた。


「そうじゃ。我らの英雄じゃ」


しかし、その老人の目の奥底に、かすかな疑問の色が宿っていた。

本当に、あの時代はそんなに悪かったのだろうか...


だが、その疑問は、すぐに消え去った。


新しい天華は、平和で繁栄していた。

民主的な制度のもと、人々は自由を謳歌していた。


玉清と玉青山の子孫たちは、英雄の末裔として敬われ続けた。


そして、楊天虎と李玄策の名は、悪役として語り継がれていった。


歴史は、勝者によって書き換えられる。

その真実は、時の流れの中に埋もれていくのだった。


しかし、どこかで、ある老人が静かにつぶやいていた。


「楊天虎様、李玄策様...本当にありがとうございました」


その言葉は、誰にも聞かれることなく、風に消えていった。


(完)





いろいろ書いているのですが、まったく感想が付きません。。。面白くないということでしょうか???


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