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玄龍国の変革

序章 新たな夜明け


玄龍暦15年、初夏。

長楽の宮殿は、かつてない活気に満ちていた。


楊天虎は、新たに設けられた円形議事堂の中央に立っていた。周囲には、全国各地から集められた代表者たちが座っている。李玄策は、いつものように楊天虎の右手に控えていた。


「諸君」楊天虎の声が響く。「本日、我が玄龍国にとって歴史的な日を迎えた」


代表者たちの目が、楊天虎に釘付けになる。


「これより、玄龍国初の民選議会を開会する。諸君は、民の声を代表し、この国の未来を共に築いていく」


会場から、小さな拍手が起こり始めた。


「しかし、忘れてはならない」楊天虎の声に力が込められる。「我々は、まだ多くの課題に直面している」


彼は一瞬言葉を切った。


「北方の復興はまだ道半ば。碧波国との新たな関係構築も始まったばかりだ。そして何より」


楊天虎の目が、厳しさを増す。


「我々は、真に民のための国を作り上げねばならない」


静寂が訪れる。


「諸君。共に、新たな玄龍国を築こうではないか」


大きな拍手が沸き起こった。


会議の後、楊天虎と李玄策は二人きりになった。


「李玄策」楊天虎が静かに言った。「ついに、我々の夢が形になったな」


李玄策は深々と頭を下げた。


「はい、陛下。しかし」


「しかし?」


李玄策の表情が曇る。


「新たな課題も生まれつつあります」


楊天虎は眉をひそめた。


「何があった?」


「まず、一部の旧貴族たちが、この新制度に反発しています。彼らは、自分たちの特権が奪われると」


楊天虎は深くため息をついた。


「予想はしていたが...他には?」


「碧波国です」李玄策の目が鋭く光る。「彼らは表面上協力的ですが、裏では我が国の内政に干渉しようとしている形跡があります」


「くっ...」楊天虎の拳が震える。「我々の苦心の末に作り上げたものを、簡単に壊させるわけにはいかないな」


李玄策が静かに頷く。


「はい。そして、もう一つ」


「何だ?」


「南方の海域で、未知の艦隊が目撃されたとの報告が」


楊天虎の目が見開かれた。


「未知の艦隊だと?碧波国のものではないのか?」


李玄策は首を振った。


「いいえ。碧波国とも、我々の知る他のいかなる国とも異なる旗印を掲げているそうです」


楊天虎は窓の外を見やった。

夏の陽光が、新しく建て直された街並みを照らしている。


「李玄策」


「はい」


「我々の戦いは、まだ終わっていないようだな」


李玄策は静かに答えた。


「はい、陛下。しかし、我々には新たな力があります。民の支持と、この議会という武器を」


楊天虎は微笑んだ。


「そうだな。さあ、新たな挑戦に立ち向かおう」


二人の視線が交わる。

そこには、未来への不安と、同時に強い決意が宿っていた。


玄龍国の、そして楊天虎と李玄策の新たな物語が、今まさに幕を開けようとしていた。


## 第一章 新たな均衡


玄龍暦15年、盛夏。

長楽の宮殿内、緊急会議が開かれていた。


楊天虎は、円卓を囲む重臣たちの表情を一人一人確認していく。李玄策、孫風雷、趙明月、そして新たに議会代表として加わった陳民声。全員の顔に緊張の色が浮かんでいる。


「報告せよ」楊天虎の声が低く響く。


趙明月が一歩前に出た。


「はい。碧波国が南海の貿易路に対する管理権を主張し始めました。我が国の商船に高額な通行税を課そうとしています」


楊天虎の眉間に深い皺が刻まれる。


「碧波国の狙いは?」


李玄策が静かに答えた。


「恐らく、我が国の新たな統治体制を試そうとしているのでしょう。民主的な制度が、迅速な対外政策の妨げになると踏んでいるのかもしれません」


楊天虎は深くため息をついた。


「なるほど。他には?」


孫風雷が報告を続けた。


「南方の諸島で、碧波国の軍事演習が頻繁に行われています。明らかに我が国を牽制する動きです」


楊天虎は李玄策を見た。


「李玄策、お前の見立ては?」


「碧波国は、蒼狼軍撃退後の力の空白を埋めようとしています。我々は慎重に、しかし毅然とした態度で対応せねばなりません」


「具体的には?」


「まず、外交ルートを通じて強く抗議すべきです。同時に、南海での我が国の存在感を示すため、哨戒を強化する必要があります」


この時、陳民声が口を開いた。


「しかし、そのための軍事費の増額は難しいのではないでしょうか。現在、議会では北方復興のための予算案を審議中で...」


楊天虎は陳民声をじっと見つめた。


「陳卿。国防は全てに優先する。民の生活を守るためにも、我々は...」


李玄策が静かに割って入った。


「陛下、陳卿。ここは妥協点を見出せるのではないでしょうか。例えば、南海の警備強化と北方復興を同時に進める総合的な安全保障政策を」


楊天虎と陳民声は顔を見合わせ、僅かに頷いた。


その時、一人の伝令が慌ただしく入ってきた。


「陛下!緊急報告です!」


「何事だ?」


「碧波国の艦隊が、我が国の領海に接近しているとの報告が!」


部屋の空気が凍りつく。


楊天虎は即座に立ち上がった。


「全軍に警戒態勢を敷け。孫風雷、南海艦隊の指揮を執れ」


「御意!」


楊天虎は李玄策を見た。


「李玄策、碧波国との緊急交渉の準備を」


「承知いたしました」


楊天虎は再び全員を見渡した。


「諸卿、我々は重大な岐路に立っている。しかし、恐れてはならない。玄龍国の力と理念を、世界に示す時が来たのだ」


重臣たちが深々と頭を下げる中、楊天虎は窓の外を見やった。

夏の陽光が、今や不穏な予感を孕んで見える。


その時、李玄策が楊天虎に近づいた。


「陛下、一つ提案があります」


「何だ?」


「私自ら碧波国に赴き、直接交渉を行ってはいかがでしょうか。彼らの真意を探り、同時に我が国の決意を示すことができます」


楊天虎は深く考え込んだ。


「危険な賭けだな。だが...」


彼は李玄策をじっと見つめた。


「よかろう。だが、くれぐれも慎重に」


李玄策は深々と頭を下げた。


「御意に従います。必ずや、良い報告を持ち帰ります」


楊天虎は李玄策の肩に手を置いた。


「行ってこい。玄龍国の、いや、この大陸の平和がお前にかかっているぞ」


李玄策が部屋を出て行く姿を、楊天虎は複雑な表情で見送った。


玄龍国は今、新たな国際秩序の構築に向けて大きな一歩を踏み出そうとしていた。

そして、その結果が国の、そして大陸全体の未来を決めることになるのだ。



## 第二章 外交の舞台


玄龍暦15年、晩夏。

碧波国の首都・碧海城。


李玄策は、碧波国の宮殿に足を踏み入れた。青と白を基調とした建築様式は、玄龍国のそれとは対照的だ。


「玄龍国の使者、李玄策様」


碧波国の宰相・周海棠が、にこやかに出迎える。


「よくぞおいでくださいました」


李玄策は丁重に礼をする。


「周宰相、お会いできて光栄です」


両者は会議室へと向かう。


「さて」周海棠が口を開く。「我が国の提案についてのご意見を伺えればと」


李玄策は落ち着いた様子で答える。


「南海の貿易路に対する管理権の主張は、国際法上認められません。また、軍事演習の頻発は、地域の安定を脅かす行為です」


周海棠の笑みが僅かに曇る。


「しかし、我が国にも海洋権益を守る権利があるはずです」


「もちろんです。ですが、それは対話を通じて...」


交渉は、一進一退を繰り返す。


その頃、長楽では。


楊天虎は、議会での激しい議論に直面していた。


「陛下」陳民声が声を上げる。「碧波国との緊張が高まる中、軍事費の増額は避けられません。しかし、それでは北方復興の予算が...」


別の議員が反論する。


「国防なくして復興はありえん!」


楊天虎は深くため息をつく。


「諸君」彼は静かに、しかし力強く語り始める。「我々は、国防と民生の両立を図らねばならない。それこそが、真の国力というものだ」


議場が静まり返る。


「具体的な案を提示せよ」


楊天虎の言葉に、議員たちは慌ただしく書類をめくり始めた。


三日後、碧海城。


李玄策と周海棠は、最後の会談に臨んでいた。


「これが我が国の最終案です」李玄策が文書を差し出す。


周海棠はじっくりと目を通す。


「南海の共同管理か...興味深い提案です」


李玄策が続ける。


「両国の繁栄のためには、協力が不可欠です。この案は、双方の利益を...」


その時、一人の伝令が駆け込んでくる。


「周宰相!緊急報告です!」


「何事だ?」


「南方の無人島で、大規模な金鉱が発見されました!」


部屋の空気が一変する。


李玄策と周海棠は、互いをじっと見つめあう。


新たな利権をめぐり、両国の駆け引きは新たな段階に入ろうとしていた。


長楽。


楊天虎は、李玄策からの緊急報告を読んでいた。


「金鉱か...」


彼は窓の外を見やる。秋の気配が漂い始めていた。


「李玄策」楊天虎は呟いた。「お前の真価が問われる時が来たようだな」


楊天虎は、再び報告書に目を落とす。

そこには、予期せぬ展開に対する李玄策の冷静な分析と、今後の戦略が記されていた。


玄龍国と碧波国の関係は、新たな局面を迎えようとしていた。

そして、その行方が大陸全体の未来を左右することになるのだ。


## 第三章 内なる亀裂


玄龍暦15年、初秋。

長楽の宮殿、楊天虎の執務室。


李玄策が碧波国から戻り、楊天虎に詳細な報告をしていた。


「陛下」李玄策の声に疲れが滲む。「金鉱発見後、碧波国の態度が一変しました。南海の共同管理案を撤回し、無人島の単独領有権を主張し始めています」


楊天虎は眉をひそめた。


「予想通りだな。他国の反応は?」


「西方の落霞国が、仲裁を申し出ています。しかし」


李玄策は一瞬言葉を切った。


「彼らにも別の思惑があるようです」


楊天虎は深くため息をついた。


「外交は、まさに蜘蛛の巣を踏むようなものだな」


その時、扉が開き、陳民声が慌ただしく入ってきた。


「陛下、大変です!」


「何事だ?」


「議会で、金鉱開発権を巡る激しい議論が...一部の議員が、碧波国との武力衝突も辞さないと」


楊天虎の表情が厳しくなる。


「李玄策、どう思う?」


李玄策は冷静に答えた。


「武力衝突は避けるべきです。しかし、毅然とした態度も必要です。私見ではありますが...」


彼は慎重に言葉を選ぶ。


「無人島の共同開発を提案してはどうでしょうか。利益を公平に分配し、同時に国際監視下に置く。これなら、他国の支持も得られるはずです」


楊天虎は深く考え込んだ。


「なるほど。だが、議会を説得できるか」


「それは陛下の...」


その時、再び扉が開いた。


「陛下!」孫風雷が駆け込んでくる。「南海で、我が国の哨戒艦と碧波国の艦船が衝突しそうになりました!」


部屋の空気が凍りつく。


楊天虎は即座に立ち上がった。


「全艦隊に、不要な衝突を避けるよう厳命せよ。そして」


彼は李玄策を見た。


「李玄策、碧波国との緊急会談の準備を」


「御意」


楊天虎は陳民声に向き直った。


「陳卿、議会を招集せよ。我が国の方針を説明する」


「はい」


重臣たちが退室した後、楊天虎は窓辺に立った。

外では、秋風が宮殿の庭を揺らしている。


しばらくして、李玄策が静かに近づいてきた。


「陛下、一つ懸念があります」


「何だ?」


「旧貴族たちの動きです。彼らは、この機に乗じて影響力を取り戻そうとしているようです」


楊天虎の表情が曇る。


「くっ...内憂外患とはこのことか」


李玄策は慎重に続けた。


「彼らの中には、碧波国と通じている者もいるかもしれません」


楊天虎は李玄策をじっと見つめた。


「証拠はあるのか?」


「まだです。しかし、調査を進めています」


楊天虎は深く息を吐いた。


「わかった。だが、慎重に行動せよ。無実の者を罪に陥れるようなことがあってはならん」


「御意に従います」


二人は、再び窓の外を見やった。

秋の陽光が、不穏な影を落としているようにも見える。


楊天虎が静かに呟いた。


「李玄策、我々は正しいことをしているのだろうか」


李玄策は真剣な表情で答えた。


「陛下、正義の道は往々にして険しいものです。しかし、民のためを思えば、我々は進み続けねばなりません」


楊天虎は僅かに頷いた。


「そうだな。さあ、行こう。我々には、やるべきことがある」


二人は、重い足取りで執務室を後にした。


玄龍国は今、建国以来最大の危機に直面していた。

そして、その危機は外敵からだけでなく、内部からも迫っていたのだ。


## 第四章 嵐の前の静けさ


玄龍暦15年、晩秋。

長楽の円形議事堂。


楊天虎は、満員の議場を前に立っていた。議員たちの目には、不安と期待が入り混じっている。


「諸君」楊天虎の声が響く。「我が国は今、重大な岐路に立っている」


静寂が訪れる。


「碧波国との緊張、金鉱の発見、そして国内の不安定さ。これらすべてが、我々の真価を問うているのだ」


彼は一瞬言葉を切った。


「しかし、恐れることはない。我々には、民の力がある」


楊天虎は、ゆっくりと議場を見渡した。


「私は、無人島の共同開発を碧波国に提案する。利益は公平に分配し、国際監視下に置く。これにより、不要な衝突を避け、同時に我が国の権益も守る」


議場がざわめき始める。


「そして、国内においては」


楊天虎の声に力が込められる。


「いかなる内部の脅威も、断固として排除する」


その言葉に、一部の議員が身を縮める。


「だが、それは決して専制ではない。我々は、法と理に基づいて行動する。それこそが、玄龍国の理念だ」


大きな拍手が沸き起こった。


会議の後、楊天虎は李玄策と共に執務室に戻った。


「見事でした、陛下」李玄策が静かに言った。


楊天虎は深くため息をついた。


「いや、これで終わりではない。むしろ、これからが本当の戦いだ」


彼は李玄策をじっと見つめた。


「調査の進展は?」


李玄策の表情が引き締まる。


「はい。旧貴族の一部が、確かに碧波国と通じていたことが判明しました」


「証拠は?」


「彼らの間で交わされた密書を入手しました。そこには、碧波国との取引の詳細が」


楊天虎の拳が震える。


「くっ...裏切り者どもめ」


李玄策が慎重に続けた。


「しかし、陛下。彼らの中には、まだ迷いがある者もいます。すべてを一網打尽にするのではなく、分断を図るのも一案かと」


楊天虎は深く考え込んだ。


「なるほど。内部から崩していくわけか」


その時、扉が開き、孫風雷が入ってきた。


「陛下、碧波国からの使者が到着しました」


楊天虎と李玄策は顔を見合わせた。


「よし、会おう」


碧波国の使者・陸遠が、深々と頭を下げた。


「玄龍皇帝陛下。我が国王からの親書をお持ちしました」


楊天虎は静かに巻物を受け取り、目を通した。

その表情が、徐々に厳しくなっていく。


「ほう...我が国の提案を一蹴し、無人島の単独領有権を主張するか」


陸遠は答えない。


楊天虎は巻物を閉じ、陸遠をじっと見つめた。


「陸遠卿。貴国は、本当に戦争も辞さないおつもりか」


陸遠の表情が強張る。


「そのような...」


「帰るがいい。我が国の回答は、改めて伝える」


陸遠が退出した後、楊天虎は窓の外を見やった。

木々の葉が、赤く色づき始めている。


「李玄策」


「はい」


「最後の外交交渉の準備をせよ。そして」


楊天虎の目に、強い決意の色が宿る。


「内部の裏切り者の処分も、同時に進める」


李玄策は深々と頭を下げた。


「御意に従います」


二人の視線が交わる。

そこには、未来への不安と、同時に強い決意が宿っていた。


玄龍国の、そして大陸全体の運命を左右する重大な局面が、今まさに始まろうとしていた。


## 第五章 民の声


玄龍暦10年、晩夏。

珠江の町は、蒸し暑さと緊張感に包まれていた。


楊天虎と李玄策は、変装して町の中を歩いていた。二人の周りには、十数名の精鋭部隊が、商人や旅人を装って散らばっている。


「どうだ、李玄策。民の様子は」楊天虎が小声で尋ねた。


李玄策は慎重に周囲を見回しながら答えた。


「思った以上に複雑です。碧波国の占領に不満を持つ者も多いですが、現状維持を望む声もあります」


楊天虎は眉をひそめた。


「現状維持だと?なぜだ」


「商人たちの中には、碧波国の広大な交易網を利用したい者もいるようです。また、急激な変化を恐れる声もあります」


二人は市場に足を踏み入れた。そこでは、様々な商品が取引され、活気に満ちていた。


突如、一人の老人が楊天虎に近づいてきた。


「お客さん、上等な茶葉はいかがですか?」


楊天虎は微笑んで答えた。


「ありがとう。ところで、最近の町の様子はどうかね」


老人は周囲を見回してから、小声で答えた。


「碧波の連中は、表面上は穏やかですがね。裏では、あらゆるものに税金をかけようとしている。このままじゃ、我々の生活が...」


その時、一人の碧波国の兵士が近づいてきた。老人は慌てて立ち去った。


楊天虎と李玄策は、さらに町を歩き回った。彼らは漁師、職人、学者など、様々な階層の人々と接触し、その声を聞いた。


日が暮れる頃、二人は町はずれの隠れ家に戻った。


「どうだ、李玄策。民の声をどう読む」


李玄策は深く考え込んだ表情で答えた。


「陛下、民の心は揺れています。碧波国の支配に不満を持つ者は確かに多い。しかし、玄龍国を全面的に支持しているわけでもありません」


楊天虎は頷いた。


「つまり、我々はまだ民の心を完全には掴めていないということか」


「はい。しかし」


李玄策の目が鋭く光った。


「これは、むしろチャンスかもしれません」


「どういうことだ?」


「民が玄龍国と碧波国の間で揺れているからこそ、我々の真の姿を示す機会があるのです」


楊天虎は深く考え込んだ。


「なるほど。では、どのような行動を取るべきだと」


その時、突如として扉が開き、一人の伝令が飛び込んできた。


「陛下!大変です!」


楊天虎と李玄策は驚いて振り返った。


「何事だ?」


「碧波国が、珠江の民に対して新たな税制を布告しました。これにより、多くの商人や職人が破産の危機に...」


楊天虎の表情が一変した。


「李玄策!」


「はい」


「これは我々のチャンスだ。すぐに行動を起こそう」


李玄策は深々と頭を下げた。


「御意。では、こういたしましょう」


彼は楊天虎に近づき、耳打ちした。楊天虎の目が輝きを増していく。


「素晴らしい。すぐに実行に移せ」


その夜、珠江の町に、一枚の布告が貼り出された。


「玄龍国は、碧波国の不当な課税に抗議し、珠江の民のために立ち上がることをここに宣言する」


布告の内容は、瞬く間に町中に広まった。


翌朝、珠江の広場には、大勢の民衆が集まっていた。


そこに、一人の男が現れた。変装を解いた楊天虎だ。


「諸君」


彼の声が、広場に響き渡る。


「我は玄龍皇帝・楊天虎である。諸君の苦しみを、この目で見、この耳で聞いた」


民衆からどよめきが起こる。


「我々は、諸君の自由と繁栄のために戦う。碧波国の圧政から、諸君を解放する。だが」


楊天虎は一瞬言葉を切った。


「それには、諸君の協力が必要だ。共に、新たな珠江を作り上げようではないか」


広場に、静寂が訪れた。


そして、一人、また一人と、民衆から拍手が起こり始めた。


やがて、その拍手は大きなうねりとなり、珠江の町全体を包み込んだ。


楊天虎は、李玄策を見つめた。李玄策の目には、勝利の光が宿っていた。


しかし、二人は知っていた。これはまだ始まりに過ぎないことを。

真の戦いは、これからなのだ。


## 第六章 新たな秩序の幕開け


玄龍暦16年、早春。

無人島(現・友好島)にて。


楊天虎と碧波国王・陸海龍が、新たに建設された平和記念館の前に立っていた。両国の要人たち、そして各国の使節が見守る中、二人は静かに握手を交わした。


「陸海龍陛下」楊天虎が口を開く。「本日、我々は新たな時代の幕を開けました」


陸海龍は微笑んで答えた。


「そうですね、楊天虎陛下。この島が、我々の友好の象徴となることを」


拍手が沸き起こる中、李玄策は少し離れた場所から、この光景を見つめていた。


式典の後、楊天虎は李玄策を呼び寄せた。


「李玄策、よくやってくれた」


李玄策は深々と頭を下げる。


「いえ、これもすべて陛下の...」


楊天虎は首を振った。


「いや、これはお前の功績だ。だが」


彼の表情が引き締まる。


「我々の戦いは、まだ終わっていない」


李玄策は静かに頷いた。


「はい。国内にはまだ多くの課題が」


楊天虎は遠くを見つめた。


「そうだ。そして、この新たな秩序を維持していくのも、容易なことではあるまい」


二人は、静かに友好島を後にした。


数日後、長楽の宮殿。


楊天虎は、新たに設置された国家改革委員会の会議を主宰していた。


「諸君」楊天虎の声が響く。「我々は今、大きな転換点に立っている」


委員たちが身を乗り出す。


「碧波国との関係改善により、我々は軍事費を削減し、その分を民生に回すことができる。だが、それは同時に新たな課題をも生み出す」


李玄策が続けた。


「はい。まず、軍の再編が必要です。そして、新たな産業の育成も急務です」


陳民声が発言する。


「しかし、旧来の勢力からの反発も予想されます。特に、軍部の一部からは不満の声が」


楊天虎は深く頷いた。


「そうだ。だからこそ、我々はより一層の改革を進めねばならない」


彼は一人一人の顔を見つめた。


「科挙制度の拡充、地方自治の強化、そして教育の普及。これらを通じて、真の意味での民主国家を築き上げるのだ」


会議は深夜まで続いた。


その頃、碧波国では。


陸海龍は、側近たちと密談を行っていた。


「玄龍国との協調路線は、当面維持する」彼は静かに言った。「だが、油断してはならん。彼らの動向を常に注視せよ」


側近の一人が尋ねた。


「陛下、玄龍国が民主化を進めれば、我が国にも影響が」


陸海龍は微笑んだ。


「それこそが、我々の次なる戦いの舞台となるのだ」


玄龍暦16年、晩春。

長楽の街は、かつてない活気に満ちていた。


楊天虎は、李玄策と共に城壁の上から街を見下ろしていた。


「見るがいい、李玄策」楊天虎が言った。「民が、生き生きとしている」


李玄策は静かに頷いた。


「はい。平和がもたらした恵みです」


楊天虎は遠くを見つめた。


「だが、我々の責務は重い。この平和を守り、さらなる発展を」


その時、一人の伝令が駆け寄ってきた。


「陛下!西方の落霞国で、大規模な民主化運動が勃発したとの報が!」


楊天虎と李玄策は顔を見合わせた。


「やはり来たか」楊天虎が呟く。


李玄策の目が鋭く光る。


「陛下、我々の改革の波が、既に大陸全体に」


楊天虎は深く息を吐いた。


「李玄策、我々は再び、歴史の大きなうねりの中にいるのだな」


二人の視線が交わる。

そこには、未来への不安と期待が入り混じっていた。


玄龍国は今、新たな挑戦に向けて歩み出そうとしていた。

そして、その歩みが大陸全体の運命を左右することになるのだ。


## 第七章 理想と現実の狭間で


玄龍暦16年、初夏。

長楽の宮殿、緊急会議室。


楊天虎は、李玄策をはじめとする重臣たちと向き合っていた。室内には緊張が漂っている。


「報告せよ」楊天虎の声が低く響く。


趙明月が一歩前に出た。


「はい。西方の落霞国での民主化運動は、さらに拡大しています。そして、その影響は南方の翠浪国にも波及し始めました」


楊天虎の眉間に深い皺が刻まれる。


「碧波国の反応は?」


李玄策が答えた。


「表面上は静観の構えですが、内部では混乱が広がっているようです。陸海龍国王は、民主化要求を抑え込もうと必死のようです」


楊天虎は深くため息をついた。


「我が国としては、どう対応すべきか」


李玄策が慎重に言葉を選んだ。


「陛下、この民主化の波は、我が国の理念と合致するものです。支持を表明すべきかと」


しかし、孫風雷が反論した。


「いや、それは危険です。他国の内政に干渉すれば、これまで築いてきた信頼関係が」


議論が白熱する中、楊天虎は静かに立ち上がった。


「諸卿、わかった。だが、我々には別の問題もある」


全員の視線が楊天虎に集まる。


「国内での改革にも課題が山積みだ。科挙制度の拡充は順調だが、地方自治の強化には旧勢力からの抵抗が」


陳民声が口を開いた。


「はい。特に北方では、旧来の豪族たちが強い影響力を」


楊天虎は李玄策を見つめた。


「李玄策、お前の考えは?」


李玄策は静かに答えた。


「陛下、内政と外交は表裏一体です。我が国の改革を成功させることが、結果として大陸全体の民主化を後押しすることになるでしょう」


楊天虎は深く考え込んだ。


「なるほど。では」


その時、突如として扉が開き、一人の伝令が駆け込んできた。


「陛下!大変です!」


「何事だ?」


「碧波国で、クーデターが勃発しました!陸海龍国王が軟禁され、軍部が実権を掌握したとの報が!」


部屋の空気が凍りつく。


楊天虎は即座に立ち上がった。


「詳細は?」


李玄策が素早く答えた。


「おそらく、民主化要求に対する強硬派の反発でしょう。このままでは、大陸全体が混乱に」


楊天虎の表情が厳しくなる。


「李玄策、碧波国との連絡を。孫風雷、南海艦隊に警戒態勢を」


「御意!」


重臣たちが退室する中、楊天虎は窓の外を見やった。

夏の陽光が、今や不穏な影を落としているようにも見える。


李玄策が静かに近づいてきた。


「陛下、一つ提案があります」


「何だ?」


「我が国が仲介役となり、碧波国の各勢力を交渉のテーブルにつかせてはどうでしょうか」


楊天虎は李玄策をじっと見つめた。


「危険な賭けだな。だが...」


彼は深く息を吐いた。


「よかろう。だが、お前が直接行け。碧波国を、そして大陸を救えるのは、お前しかいない」


李玄策は深々と頭を下げた。


「御意に従います。必ずや、良い報告を持ち帰ります」


李玄策が部屋を出ていく姿を、楊天虎は複雑な表情で見送った。


玄龍国は今、建国以来最大の外交的危機に直面していた。

そして、その対応が国の、そして大陸全体の未来を決めることになるのだ。


楊天虎の胸に、不安と決意が交錯した。


## 第八章 嵐の中の舵取り


玄龍暦16年、盛夏。

碧波国の首都・碧海城。


李玄策は、緊張した面持ちで碧波国の軍部指導者たちと向き合っていた。周囲には重武装した兵士たちが控えている。


「諸君」李玄策の声が静かに響く。「我々は今、大陸の歴史を左右する重大な岐路に立っている」


軍部の首領・鄭鉄山が冷ややかな目で李玄策を見つめた。


「玄龍国の使者よ。我々の内政に干渉する権利など、貴国にはない」


李玄策は動じることなく続けた。


「干渉ではありません。大陸の平和と安定のために、対話の場を設けることを提案しているのです」


一方、長楽では。


楊天虎は、国内の改革推進に奔走していた。


「陛下」陳民声が報告する。「北方での自治権拡大に対し、旧豪族たちの反発が強まっています」


楊天虎は眉をひそめた。


「具体的にはどのような?」


「税制改革への抵抗、そして地方議会の設立に対する妨害工作です」


楊天虎は深くため息をついた。


「なんとしても説得せねばならん。我々の改革の成否が、李玄策の交渉にも影響を与えるのだ」


碧海城。

李玄策の粘り強い交渉が続く。


「鄭将軍」李玄策が静かに語りかける。「民主化の要求を力で抑え込むことはできません。それは、碧波国の国際的孤立を招くだけです」


鄭鉄山の表情が揺らぐ。


「では、どうすれば」


「段階的な改革です。まずは、陸海龍国王を解放し、暫定政府を樹立する。そして、各勢力の代表による円卓会議を」


その時、一人の伝令が駆け込んでくる。


「報告です!南方の翠浪国で大規模な暴動が発生。碧波国への波及が懸念されます」


場内が騒然となる。


李玄策は一瞬の機会を逃さなかった。


「諸君、このような事態だからこそ、我々は冷静に対話せねばなりません」


鄭鉄山は深く考え込んだ。


長楽。


楊天虎は、北方の旧豪族たちとの直接対話に臨んでいた。


「諸君」楊天虎が語りかける。「改革は、決して諸君の権益を奪うものではない。むしろ、新たな繁栄の機会をもたらすのだ」


豪族たちの表情が微妙に変化する。


「具体的には?」


楊天虎の目が輝いた。


「例えば、地方の特色を活かした産業振興策。中央と地方が協力して」


その時、趙明月が慌ただしく入ってきた。


「陛下、李玄策からの急報です」


楊天虎は素早く書簡に目を通した。

その表情が、徐々に明るくなっていく。


「やったな、李玄策」


碧海城。


李玄策と鄭鉄山、そして解放された陸海龍国王が、三者会談に臨んでいた。


「これより」李玄策が静かに宣言する。「碧波国の新たな未来に向けた対話を始めます」


陸海龍が李玄策に向かって小声で言った。


「李玄策殿。玄龍国の仲介に感謝する。しかし」


彼は一瞬言葉を切った。


「貴国には、何の見返りもないのではないか?」


李玄策は微笑んだ。


「陛下。我々の見返りは、大陸の平和と安定です。それこそが、玄龍国の目指す道なのです」


玄龍暦16年、晩夏。

長楽の宮殿。


楊天虎は、帰還した李玄策と向き合っていた。


「よくやってくれた、李玄策」


李玄策は深々と頭を下げた。


「いえ、これもすべて陛下の」


楊天虎は首を振った。


「いや、これはお前の功績だ。そして」


彼は窓の外を見やった。

夏の陽光が、輝かしい未来を予感させるかのように降り注いでいる。


「我々の戦いは、まだ始まったばかりだ」


李玄策は静かに頷いた。


「はい。大陸全体の安定と繁栄のために」


楊天虎は李玄策をじっと見つめた。


「李玄策。我々の理想と、現実の狭間で苦しむことも多いだろう。だが」


彼は力強く言った。


「共に、この大陸の未来を築いていこう」


二人の視線が交わる。

そこには、未来への不安と希望、そして固い決意が宿っていた。


玄龍国の、そして大陸全体の新たな物語が、今まさに幕を開けようとしていた。


(第三部 終)



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