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ヒモスキルで異世界無双 ~男も可愛げがあればだいたい生きていける~  作者: 谷地雪@第三回ひなた短編文学賞【大賞】受賞
二章

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19/33

勇者パーティーの魔術師(1)

 ×××



「…………」

「…………」


 心底軽蔑したような目のリリスを前に、明楽は文字通り頭を抱えていた。

 その明楽の腕には、マリーがひっついている。


「……貴殿もただの男だったか」

「まーって、ほんっと待って! その誤解だけは勘弁して!」

「別に私に言い訳をする必要はない」

「いや本当に! そりゃ俺は誠実な人間じゃないけど、それなりに倫理と規律(ルール)に則って生きてるから! ペド扱いはマジで心に来るからやめて!!」


 心の底から懇願する明楽に、マリーは無邪気に口を挟む。


「ペドってなに?」

「ちょっと黙っててくれる!?」


 マリーが加わると余計なことを言いかねない。昨夜の行いが褒められたものではない自覚はあるので、リリスの前で下手に口を開いてほしくない。

 ましてやここは訓練場へ向かう途中の廊下。往来である。通りすがりの兵が、ちらちらと明楽に視線を送っている。本当に勘弁してほしい。


「あー……っと、とにかく、コイツとは何もなくて。ちょっと説教しといたから、少しはおとなしくなると思う」

「そうなのか?」


 ちらりと、リリスがマリーに視線を向ける。


「そうでーす。一途な愛に目覚めたので、もう子どもっぽいことはやめました」

「よく言う……」

「これからは素敵な大人のレディになるためにがんばります!」

「ならまず俺の腕を放すところから始めようか」


 げんなりした明楽とマリーを見比べて、リリスが小さく息を吐く。


「事が収まったのなら、それで構わない。軍の規定に恋愛に関するものはないが、職務を疎かにするなよ」

「はーい」


 それだけ言うと、リリスはきびきびと訓練場の方へ歩いていった。

 明楽はその背中を、もの言いたげに見つめていた。




「お届けものでっす!」

「アキラ」


 魔術師団の訓練場につくと、明楽はマリーを引っぺがし、ずいとメイアの前に押し出した。


「どういう状況?」

「慣れないことして好感度調整ミスった」

「……よくわからないけど、お疲れ様。あとは引き受けるわ」

「頼んだ」


 マリーをメイアに押し付けて、やっと身軽になった明楽は早足でその場を離れた。

 いや、離れようとした。


「あれ、行っちゃうんですか?」

「ミルカ」


 訓練場の端にいたのはミルカだった。


「メイアに用事?」

「はい。もう済んだんですけど、ちょうどアキラさんが見えたので」


 ミルカの発言に、明楽は目を瞬かせた。


「俺に用事?」

「用というほどではないんですけど。せっかく訓練場に顔を出したんですから、少し見ていきませんか?」

「えー……。俺が見てるとメイアがやりにくくない?」

「そんなことないですよ」

「まぁ、ミルカがそう言うなら、ちょっと見てこうかな」


 メイアの魔術は何度か目にしたことがあるが、訓練の様子というのは多少興味もある。

 明楽はミルカと並んで、魔術師団の訓練を見学していくことにした。


 訓練場の地面に、いくつかの的が立てられている。

 その的から距離を取った場所に、魔術師達が列になって並んでいる。


「今日はコントロールを重点的にやりましょう。威力は気にしなくていいから、的の中心に正確に当てることを意識して、基礎魔術のファイアを三連射。では一列目から。準備はいい?」


 一列目の魔術師たちが杖を構える。


「撃て!」


 メイアが振り下ろした手に合わせて、杖から炎の玉が発射される。一回、二回、三回。

 素早く三連射を行える者もいれば、間があいてしまう者もいる。

 的に当たるかはまちまち。大半が一発目は的のどこかに当たっているが、二発目以降の照準がずれがちだった。

 意外と難しいもんなんだな、と思いながら明楽はそれを眺めていた。


「二列目、構え!」


 列が入れ替わり、二列目の魔術師たちが杖を構える。


「撃て!」


 発射される熱弾。結果は一列目とほとんど変わらない。また列を入れ替え、それが数回繰り返される。


「魔術師団っていうから、プロの集まりなのかと思ってたけど。実力はばらばらなんだな」

「それはそうですよ。アキラさんはメイアの魔術しか見たことがないから、余計にそう思うんじゃないですか?」


 たしかに、と思いながら、訓練風景を眺める。

 誰もが完璧に的に当てられるなら、そもそも訓練は必要ないだろう。

 日本の警察だって、入ったからって誰もが射撃が得意なわけじゃない。

 一発目を大外れしている者がいないだけ、もしかしたら優秀な部類なのかもしれない。


「やめ!」


 全ての列が一度撃ち終わって、メイアが的の前に進み出る。


「悪くないわ。でも、連射になると、威力に押されてぶれてしまう人が多いわね。体幹が弱いんじゃないかしら。基礎訓練は怠っていないわよね?」


 何名かが心当たりがありそうな顔で目を逸らす。

 魔術師だからといって、肉体訓練が無用なわけではないらしい。たしかに、メイアは体も鍛えられている。ひとりで狩りをしていたのだから、体力がないはずもない。

 バランスの取れたいい体をしているものな、と明楽はメイアの裸体を思い出していた。


「それと、弾が大きい人は魔力が絞れていないわ。大きければ強いというものではないわよ。見てて」

 

 メイアが杖を構えると、ぼうと炎の玉が浮かび上がる。サッカーボールくらいの大きさだった。


「大きさがこれでも、密度がスカスカじゃ意味ないわ。だったら大きさよりも、ぐっと絞って」


 外側から圧がかけられたように、炎の玉がぐぐっと縮んでいき、ゴルフボールくらいの大きさになる。


「これをまっすぐ、集中を切らさずに……放つ!」


 どっと勢いよく炎が射出される。弾丸のような速度で真っ直ぐに飛び、そのまま的の中心を撃ち抜いた。


「さらに体幹をぶらさず、同じだけの集中力で」


 二発、三発。間髪入れずに打ち出された炎の玉は、一発目と全く同じ場所を貫通した。

 ちなみにメイアの体は全くぶれていない。


「こんな感じかしら」


 メイアの手本に、見ていた魔術師たちが感心したように溜息を漏らす。

 そんな中、明楽は呑気に拍手をした。


「おー」


 響いた間抜けな音に、さすがに無視はできなかったのだろう。

 メイアはやや赤い顔で、きっと明楽を睨みつけた。

 それに気づいて、明楽がへらっと笑って手を振るが、メイアはつんと顔を背けた。

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