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ヒモスキルで異世界無双 ~男も可愛げがあればだいたい生きていける~  作者: 谷地雪@第三回ひなた短編文学賞【大賞】受賞
二章

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13/33

休息(1)

 途中で会ったメイドに道を聞いて、食堂に顔を出す。もう朝食の時間は過ぎてしまっているので、残っているのは食堂で働く人間くらいで、テーブルを片付けたり、食器を洗ったりしている。

 これから少し休んだらまた昼食の準備だろうに、終わり際に心苦しいが、メイアに何か持って行ってやらなくては。

 申し訳なさそうな顔をしながら調理場に顔を覗かせて、明楽は近くに居た若い女に声をかけた。


「ちょっとごめんね」

「ひゃいっ!?」


 驚いたように振り返った女は、ふんわりとした雰囲気で、垂れ目に太い眉をしていた。調理場で揃いの服なのだろう、白を基調とした質素な服にエプロンをつけている。


「驚かせてごめん。もう時間過ぎちゃったと思うんだけど、良かったら軽く食べられるものを二人分貰えないかな? 残ってなければ果物とかでもいいんだけど」

「えと……ふたり分、ですか?」

「そう。ひとりちょっと具合が悪くて、部屋に持って行ってやりたいんだ」

「えっ大変。持っていけるように包みますね。ちょっと待っててください」


 そう言うと、彼女は手際よくふたり分の簡単な食事を包んでくれた。

 優しそうな子で良かった、と明楽はほっとして、笑顔で礼を告げる。


「助かったよ、ありがとう」

「いえ……。あの、見かけない方ですけど、新しく入った方ですか?」

「そう。挨拶が遅れてごめんね、俺はアキラ。君は?」

「わたしはナターシャです。この食堂で調理師をしています」

「そっか。これからお世話になると思うから、よろしくね」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 ふわっと微笑んだ彼女に、明楽も同じように返す。癒し系女子と見た。

 ナターシャに手を振って、明楽は早足でメイアの部屋へと戻った。




「ただいまー」

「おかえり……」


 メイアはまだベッドに転がっていた。さすがに服は着たようだ。

 サイドテーブルに、ナターシャから貰った軽食を乗せる。


「食堂でお茶とサンドイッチ貰ってきた。食べられそう?」

「たべる……」


 のそっとメイアが身を起こすが、なんとなくぼんやりしている。


「危なっかしいな……」


 明楽はベッドの上でメイアを後ろから抱きかかえるようにした。その状態で、水筒に入れて貰ったお茶をカップに移す。


「ほら」

「ん……」


 カップをメイアの口元に持っていき、ゆっくりとお茶を飲ませる。

 くったりと体を預けるメイアは、明楽に全幅の信頼を寄せているように見えた。


「サンドイッチは? 自分で食べる?」

「もうこうなったら全部やってもらうわ」

「はいよ」


 同じ要領で、サンドイッチを食べさせていく。雛のエサやりみたいでちょっと楽しい、と思いながら、明楽は食事をメイアの口に運んだ。




 一日中メイアの部屋でだらだらと過ごして。翌日は、ミルカに城内を案内してもらうことになった。

 メイアは城内のほとんどを把握してはいるが、最後に過ごしたのは三年前らしい。一部場所が変わった施設もあるからと、ミルカが案内役を買って出てくれた。

 

「それでは、ご案内しますねっ!」

「はーい」


 張り切って引率をするミルカに、明楽はノリよく返事をした。

 ミルカの声は弾んでおり、どことなく嬉しそうだ。やはりメイアが城に来たことは、ミルカにとっても嬉しいことなのだろう。


 まずは生活に必要な場所からと、トイレや水場、浴室など。

 それから、既に利用してはいるが、食堂にも案内された。


「城内で働く人たちは、基本的に無料で利用できます。上級士官用の食堂は別にあるので、メイアはそっちを使うこともできるんだけど」


 ちらりとミルカが視線をやると、メイアは溜息を吐いた。


「そんな堅苦しい場所は嫌よ。あたしもこっちを使うわ」

「そうだよね。アキラさんと一緒に食べたいよね」

「そうは言ってないでしょ!」

「なんだ、違うの?」

 

 口を挟んだ明楽に、メイアはぐっと詰まった。

 照れ隠しなのはわかっているので、明楽はにこにこと笑顔を崩さない。


「あら、アキラさん?」


 少し離れた場所から声をかけられて、明楽が視線をやる。


「ナターシャ」


 そこには、昨日世話になったナターシャがいた。


「こんにちは。昨日はお連れ様、大丈夫でしたか?」

「うん、おかげさまで、この通り」


 明楽がメイアを示すと、ナターシャは驚いたように目を丸くした。


「メイア様……。戻ってらしたんですか?」

「ええ。アレイスター様の後任を務めることになったの」

「まあ、アレイスター様の……。それは心強いです」


 微笑んだナターシャは、心底メイアを信頼しているようだった。

 やはりというかなんというか、メイアは有名人のようだ。案内中、ちらちら感じた視線も、気のせいではなかったのだろう。


「そうだ、アキラはここから遠い国の出身なの」

「そうなのですか?」

「だから、是非料理のレシピなんかを聞いてみるといいわ。変わったものが食べられるかも」

「まあ! それは是非!」

(げっ……)


 自分に振られて、明楽は一瞬怯んだものの、きらきらとしたナターシャの瞳を見て、諦めたように肩を落とした。

 別に料理のレシピを教えるくらいなら、大した手間でもないし、いいだろう。むしろ、ナターシャとお喋りしているだけで仕事扱いしてくれるなら、願ったり叶ったりかもしれない。食堂で働けと言われたら断固拒否するが。

 とりあえず、食を司る人間とは良好な関係を築いておくべきだ。内心を隠して、明楽は愛想よく微笑みかけた。

 

「俺でわかるようなものなら、是非。俺もナターシャが作った故郷の料理、食べてみたいしね」

「ありがとうございます。是非、よろしくお願いしますね」


 その後は図書室や娯楽室など、明楽も利用できる共用スペースや、逆に立ち入り禁止の場所などを案内された。

 最後は、軍関連の場所。


「それって俺入っていいの?」

「メイアの連れなので、スパイの可能性は低いだろうと。あまり重要な場所には立ち入れませんが、訓練所や兵舎などは問題ないですよ」


 つまりメイアに会いに行くのに、あまり制限はかからないと。

 おそらくミルカから、メイアが王都へ戻る条件として、明楽が付いてくることが伝えられていたのだろう。話が通っていなければ、そもそも女王に謁見できなかったはずだ。

 好意的に見れば、メイアが信頼している人間だからと、好待遇を受けられている。穿って見るならば。


(メイアを動かすための大事な駒ってワケね)


 ――気に食わない。

 けれど、それで助けられているのも事実だ。感情は置いておこう。明楽もメイアを利用している。他人の行いをどうこう言える立場じゃない。


「ここが魔術師団の訓練所です」


 だだっぴろい場所では、ローブを纏った者たちが、魔術の訓練をしていた。

 こういった光景を見ると、一層ファンタジーっぽい。

 興味津々で見ていた明楽の視線を感じたのか、メイアの姿に気づいたのか、魔術師たちがざわついた。

 それを受けて、一度溜息を吐いた後、メイアが一歩進み出る。


「訓練の邪魔をしてごめんなさい。一言だけ、挨拶をいいかしら」

「はい、もちろんです!」


 年若い魔術師が興奮したように答える。

 メイアは落ち着いた様子で、魔術師たちを見渡した。


「知っている人もいると思うけど、あたしはメイア。アレイスター様の後任を務めることになったわ。指導は慣れない面も多いけど、精一杯頑張るつもり。これからよろしくね」

「よ、よろしくお願いします!」


 ばらばらと、挨拶の声が返る。

 見た目は年若いメイアが指導を務めると言っても、反発している様子はない。勇者パーティーのメンバーはよほど知名度があるのだろう、と明楽は感心した。


「あの……そちらの方は?」


 若い女の魔術師が、遠慮がちに声をかける。

 はたから見たら自分が異質な自覚はあるので、明楽は意識的に無害を装った笑顔を見せた。

 それに、女の魔術師たちがさわさわと色めき立つ。


「彼はアキラ。あたしの連れよ。ちょっと常識がないところがあるから、失礼なことをされたら遠慮なく叩いてちょうだい」

「ちょっと、そんな紹介の仕方ある?」


 たしかにこちらの常識に疎いことは事実だが。

 こほん、とひとつ咳ばらいをして、明楽からも挨拶をする。


「ご紹介にあずかりました、アキラです。見ての通り無害なので、気にしないでください」


 にこっと手を振った明楽に、若い女の魔術師が、そわそわと話しかける。


「あの、アキラさんは、メイア様とはどんなご関係なんですか?」

「ん? どうかなあ」


 言いながら、メイアに視線をやる。別に元居候だと言ってもいいが、メイアとしては、男と暮らしていたことを大勢に明かしたくはないかもしれない。答えをメイアに委ねると。


「……親しい友人よ」

「へー」

「なによ」

「別に?」


 恋人関係ではない、とわかった女の魔術師たちが、またきゃいきゃいと騒ぎ出す。

 若い女はどこへ行っても恋愛話が好きなものらしい。


(親しい友人、ね)


 ランクとしては悪くない。体の関係を持ったからといって、恋人ヅラされるよりよっぽどいい。とはいえ、今の主人はメイアだ。恋人と紹介されたらされたで、そう振る舞うつもりでもあったが。セフレ扱いで自由にさせてくれるなら、明楽にとってはむしろ都合がいい。

 なら何が不満なのか。

 なんとなくモヤついたものを感じる自分に、明楽は首をひねった。

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