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7 決着




 恐れていたことが現実になってしまった。サメと戦い始めて十五分くらいだが、スラムに住んでいる幼い犬獣人の女の子が通りから飛び出して来たのだ。突然の事態に見守っている聴衆からも悲鳴が上がる。


 しかも最悪なことにサメは彼女に標的を移したらしく、魔法発動の準備態勢に入った。フェルが攻撃のカットに入ろうとしているが多分間に合わない! しかしそう考えるよりも前に僕の足は彼女に向かって走り出していた。くっそ間に合え!


「シャァァァァク!」


「きゃぁぁぁぁぁ!」


 間一髪サメと獣人ちゃんの間に割り込んだ僕は、両手を前に突き出して立ちふさがった。APはある程度操作することができて、前面に意識を向けて集中することで、簡易バリアを形成することができるのだ。この世界では気合で受けるとか言われているが、要するに他に手がない時に使用される防御法だ。


 僕の計算によれば一発は耐えられるはずなんだ。来るなら来い! ……ってなんか派手に魔力を集めてないか! ヤバい、今日一番の攻撃が来る。正直ちょっとたじろいだが、今この場を離れるわけにはいかない!


「っしゃあ来るなら来い! このサメ野郎!」


「シャァァァァァァァァク!」


 覚悟を決めて歯を食いしばると、ドゴンという重低音がしてなにかがサメの側頭部に突き刺さった。そして発動された溶解液放射攻撃は、わずかに僕の横を逸れて直線状に物体を溶かしていった。レンガをも壊すそのあまりの威力に冷や汗をかく。え、自分これを耐えようとしてたんすか?


「アル様。今朝絶対危険なことはないからと言って出て行った結果がこの様なのですか?」


「レ、レイラありがとう! でもどうして⁉」


「いざという時はそこの駄犬に遠吠えで危機を知らせろと言い含めておいた成果です。約束を守る分アル様よりも優秀ですね」


「ぐぅぅなにも言えない! でも助かった! しばらくフェルと一緒に前衛を頼む! 僕はこの子を避難させるから!」


「承知いたしました。後はお任せください」


「ガウ!」


 僕は急いで腰が抜けて座り込むワンコな女の子をおんぶして戦線を離脱すると、安全な所に移動させてから改めて戦闘を眺めた。


 レイラは最初ぶん投げた武器を拾ってサメをタコ殴りにしているし、フェルは風魔法と爪撃で攻撃しているが、まだAPは削り切れていないみたいだ。サメは再生力が強いと聞くけれど、APの再生力も早いのかもしれない。


 ちなみにレイラが使っている武器は重厚な火かき棒で、僕がクラフトしたアイテムだ。暖炉で普段使いするものよりも大振りで重く作られており、付けている付与はもちろん頑丈だ。僕は両手で持ち上げるのがやっとなんだけど、彼女はこれを片手でうまく操ることができる強者だ。本気で怒らせてはいけない。いいね?


 レイラの加入で一気に戦局がこちらに傾いたけど、まだ決め手に欠けるのは事実だ。だが僕にはとっておきの必殺技がある。


「レイラ! フェル! もうちょっと時間稼いでて!」


「それは構いませんが?」


 また余計なことをするつもりですねとチラリとこちらを見るレイラ。いやまぁその通りなんですが。


 僕はミーナに女の子をお願いして離れ、スリングショットにすぐさま石をつがえて呼吸を整える。このパチンコにも付与がしてあるけれど、内容は頑丈じゃない。魔力を溜めて強撃が放てるようになる、チャージだ。今回は限界である三段階まで粘りに粘ってパワーを溜める。


 次第にスリングショット自体が発光し始めるとパーティクルが散乱して輝きが増してくる。とっておいたなけなしの体内魔力が手に持つスリングショットに注がれていくのがわかる。感覚的に言ってこれを放てるのは一発だけなのを確信する。外すわけにはいかない。


 幸いサメからは完全に注目が外れている。これでしまいじゃー!


『スリングショット、フルチャージ完了!』


「OKアンサー! みんな離れて!」


 そう叫ぶと察しの良い一人と一匹が瞬時にその場を離れた。心臓の鼓動がやかましいが頭は非常に冷静だ。大丈夫、やれる!


「くらえ!」


 ズドンという音と共に放たれた一撃は正確に直進して化け物サメの側面に激しくぶち当たった。サメは苦悶の表情を浮かべてパキィンとガラスが割れるような音がして虹色の膜が剥がれ落ちる。APが壊れた証だ!


「シャァァァク!」


「ひぇ!」


 まだ生きとるんかい、しつこいよ! そんなところまでサメ映画しなくていいって!


 怒ったサメがドシドシ突進してくる。一度にヘイトを買ってしまった僕だが、魔力を大幅に消耗してしまって動けない。うわぁぁぁぁぁこっち来んな!


「させません」


「ガウ!」


 ちょっとビビったが、その後はレイラとフェルが割って入ってくれて、最後はレイラが火かき棒でしこたまに頭を叩きつけて終了となった。アンサーからも死亡確定のお墨付きが得られた。


 ふぅビビらせやがって、出て来る作品を考えろってんだまったく。B級ホラーじゃないんだぞ。あぁくたびれた。


 げんなりしながらその場に崩れ落ちたかったけれど、周囲の目があるのでなんとか踏みとどまって。見栄を張った。


「やあ紳士淑女のみなさん、どうもお騒がわせしました。しかしながら近年テムス川で原因不明の失踪が相次いでおりましたが、その元凶を倒すことができました。これからも微力ながらこの地域のために貢献してまいりたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。私のことは気楽にアルとお呼びください。またお目にかかるのを楽しみにしております。では失礼」


 爽やかなスマイルで挨拶をした僕は、フェルの背中に四つん這いに据え付けられてその場を後にした。情けないが足腰立たないからしょうがない。あ、レイラはそのバカサメ引っ張って来てね、なにかに使えると思うから。


 かくしてテムス川の騒動は決着したのだった。




名前:重厚な火かき棒*

効果:頑丈  

価値: ☆☆

クラフトスキルにより作成された火かき棒。レイラが使用するように大型化して重量が増しており、強力な鈍器として十分に機能する。


名前:チャージスリングショット*

効果:チャージ  

価値: ☆☆☆

クラフトスキルにより作成されたスリングショット。小石などをつがえて放つと、予想外に強力な一撃を放つ。三段階に溜めて攻撃することができ、最大溜め攻撃で頑丈な鎧をも貫通する威力を叩き出す。

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