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6 ノブレス・オブリージュ




 鳴き声からしてサメだ! 自らがサメだと主張している! いやそもそも鳴き声ってなんだよ! サメって鳴くのか? でも自分でシャーク言うとるがな! なんだこれ!


『落ちついてくださいマスター。サメのポテンシャルは計り知れません。竜巻に乗って襲ってきたり頭が五つあったりするぐらいですから』


「いやそれ、地球のB級映画の話じゃねーかいい加減にしろ!」


『しかし現に目の前には直立歩行するサメがいます!』


「あーもー! とりあえず鑑定!」


『了解』


『名前:テムス川の主   性別:?

種族:モンスターポイズンシャーク   特技:水・毒魔法 地上歩行      脅威度:☆☆☆

テムス川をなわばりにする魚類の王。生存競争の激しい海を避けて遡上するうちにロンネルまで辿り着いた。最近スラムの住民がいなくなる事件が相次いでいるが、その原因の一端はこのモンスターにある。薄い魔力が体表を覆っており、これが頑丈さを上げている。並みの攻撃ではダメージを与えられないだろう。水中はもちろん陸上でも活動可能で、魔法の素養もあるエリアボス相当の強敵である』


 アンサーが教えてくれた情報によると認めがたいことにやっぱりコイツはサメであり、しかもボスキャラらしい。確かになんかそんな迫力はあるが、なんでこんな化け物が近所の川に住んでるんだよ! スラムの住民を襲ってたってそれ、リアル都市伝説じゃねーか、やめてくれ!


「アオオオオオン!」


「うおー退避だ退避! みんな逃げろー!」


「きゃー!」


「げぇぇなんだあれ!」


「ばっ、ばけもんだぁぁぁぁ!」


 いつの間にか腐った川で釣りをする頭の弱い子を微笑ましく見る会が結成されて遠巻きにこちらを見ていたスラムの人達であったが、奴が現れてからは蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。だがそれで正解だ。僕は驚いてこっちを見ているミーナに声をかけた。


「ミーナ! 危ないから一人で家に帰るんだ! いいね!」


「でもアルはどうしゅるの!」


「僕かい? 僕は……こいつと戦う!」


『マスター、無謀です! 一刻も早く彼女と避難をしましょう!』


「気持ちはわかるよアンサー、それが正解だ。でもこいつをこのままにしておけば必ず町に被害が出る。それだけは避けなきゃいけない」


『なぜですか! 付近の住民は避難しましたし、建っている建築物もあばら家同然で価値がありません!』


「それでもだよ。こいつを釣り上げたのは僕だし、その責任から逃れるようなことはしたくない。高貴な者はすべからく義務を果たすべし。ノブレス・オブリージュ。それこそがジェントルマンの選択だ!」


 僕は啖呵を切ってインベントリからいざという時のためにクラフトしておいたスリングショットを取り出すと、いい感じの小石をつがえて構えた。


 僕がクラフトしたこのスリングショットはいわゆるパチンコで、その辺で拾ってあった小石を放つと空き缶くらいは簡単にへこませることが可能だ。もちろんこれだけであいつを倒すのは難しいだろうが、僕には心強い相棒がいる。ちらっと横を見ると仕方ないなぁといった感じでフェルがうなった。


「いくよフェル! 足で翻弄するんだ!」


「ガウガウ!」


 それくらいわかっとるわと言わんばかりに突進したフェルは手始めに丸っこいサメの胴体に体当たりしたが、無残にも弾かれてしまう。こいつ魚類のくせに良い体幹してんじゃねーか。それにダメージを食らったそぶりも無いから、やはりAPがかなり分厚くて厄介だと感じる。


 APはアーマーポイントの略で、この世界の生き物には大抵備わっている機能だ。衝撃を完全には相殺してくれないが、APがあると体表を覆ってる薄い魔力の膜が攻撃を相殺してくれて肌が傷つくのを防いでくれる。要するに魔力のバリア層だ。


 自分からみるとありがたく、敵に回すとめんどくさい能力で、この纏っているAPを崩さないと相手にまともなダメージが入らないわけで、APを削っても時間が経つとまた復活したりするし、骨が折れる。恐らくコイツとの戦いは持久戦になるだろう。


「とは言っても長引けばそれだけ被害が大きくなるし、早めに決着つけたいーーなっ!」


 石をつがえ、よっぴいてひょうと放つと、化け物サメの横っ面にヒットして奴は微動だにせずこちらを睨んだ。やっぱ効いてねー!


 ゴブリンくらいなら今ので戦闘不能に近い成果が出るんだけど、ほぼ効果ないみたいだ。フェルもまずはAPブレイクからとわかっているので、最初から全力は出していないようだ。ただ注意が僕に行かないように要所要所で風魔法を使ってカミソリのような風の刃をぶつけてけん制してくれている。ほんとありがとうございます。


 順調にAPを削れているが、敵は焦ったのか魔法を使ってきた。


「シャァァァク! シャァァァァァク!」


 水魔法の激しい水流が放たれるのはまだいいけど、毒を吐き出す攻撃はまずい。周囲の環境が更に汚染されてしまっているし、毒というより溶解液っぽくて地面が溶けている。アホみたいな鳴き声のわりに凶悪な攻撃だ。


 攻撃を避けると街並みが段々壊れていくし、気ばかりが焦ってしまうが、しようがない。千里の道も一歩から。コツコツダメージソースを稼いでAPを剥がないと……


 僕がそんな風に安全マージンを取って立ち回っていると、それをぶち壊す事態に直面した。


「わ、わわっ!」


 スラム住民の子供がバトルフィールドへ飛び出してきたからだ。



ノブレス・オブリージュ

ノブレス・オブリージュ(noblesse oblige)は、19世紀にフランスで生まれた言葉で、「noblesse(貴族)」と「obliger(義務を負わせる)」を合成した言葉で”高貴たるものの義務”を意味します。

聖書の「すべて多く与えられた者は、多く求められ、多く任された者は、さらに多く要求される」(『ルカによる福音書』12章48節)に由来するとも言われており、古代ローマでは裕福な貴族は社会資本としての役割も担っており公共事業は貴族のボランティアでおこなわれることが多く、 その人件費も当然裕福な貴族が個人的に負担していました。

それらの精神は時を超えて今なお各国の上流階級に受け継がれており、欧米でボランティアが盛んな理由の一つであると考えられています。



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