51 父上
「げぇぇぇなんだこのアンデットどもは!」
『マスター落ち着いてください! これはあの男の闇魔法によるものです』
「だろうけどさぁ! なんなのあいつ!」
「ふん、呼ばれてもないパーティーに来たことがお気に召さないかね? だが小僧、貴様のせいで魔人薬の研究が邪魔されたのは心外でね、新聞を見てもよもやドラゴンと戦おうとは思わなかったが、万が一のことを考えて来てみればこのありさまだ、やはり用心にこしたことはなかったな」
「お前は誰だ! なにを企んでいる!」
「ふっ、私のことはビーストマスターとでも呼んでもらおうか。これでも出自は貴族でね、問われて応えないのも無粋ゆえ教えてやろう。我が秘密結社黄金の黄昏は人類の革新と支配からの開放を求めて世界規模で作戦を実行中なのだよ、このバースでのスタンビートもその一環で今そのドラゴンを倒されては計画が狂ってしまうのだ。大人しく我らが軍門に下るというならば命は助けてやるが、どうだ?」
「ふざけるな! 大勢の人の命を犠牲にしておいてなにが人類の革新だ! ビル・サイクスは魔人となった後、灰になって消えたんだぞ! お前達のしていることは間違っている!」
「確かに今の段階では安定した魔人化の成功例は稀だが偉大なる成功に失敗はつきものだ、やがて全人類が魔人となればこの世に蔓延るモンスターも恐れるに足りぬ、力こそが全てというならそれを上回れば良いだけのことだ」
「その計画が成功するまでにどれだけの人が犠牲になると思ってるんだ!」
「中世では医学の進歩のために罪人を生きたまま解剖したではないか、その甲斐があって医術は進歩した、最も教会の奴らに邪魔されて認められるのには時間がかかったがな、それと同じことだ。これは人類史に必要な痛みなのだ」
「黙れ! 本当に必要なのは正しい方法で人々を導くことだ! 断じて邪法をもって肉体改造することではない!」
「……ふん、やはり話してもわからんか、これだから田舎者は救えんのだ。いいだろう、ご希望とあらばこのバースの地で果てるがいい。行け!」
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛……」
突如現れたバースを地獄に至らしめた黒幕たるビーストマスターとやらによって召喚されたアンデット達が僕らに襲い掛かって来た、レイラが近くに来て僕に確認する。
「アル様、ここは一旦撤退すべきかと」
『無理ですマスター、ビーストマスターはこのバース市街全体に結界魔法を使用しました、ファフニールを倒すまではここを離れられません!』
「だぁぁぁぁぁ! みんな回避優先で立ち回ってくれ! 時間をくれれば僕がなんとかする!」
「なんとかってどうするんだアル!」
「なんとかはなんとかだ! 今は生き残ることを考えろオリバー!」
ドラゴンの動きを気にしていると、思わぬところでアンデットによって文字通り足を救われる。当然ファフニールはアンデット連中のことなんか仲間とも思ってないし、平気で広範囲ブレスをぶっ放してくる。そして倒しても倒してもスケルトンやゾンビは湧いて出て来る。これも恐らくはビーストマスターの魔法だが、メタ的思考からすると奴を倒さないと無限湧きするものと思われる。だがどっから出て来るんだこのアンデット達は! 僕がそう内心毒ずいていると、ナイジェルが呆然と立ち尽くしているのが見えた。
「どうしたナイジェル! 動かないと的になるぞ!」
「……父上だ」
「なに?」
「あそこにいるのは父上だ、それに父上だけじゃない! 屋敷のみんなや警備隊のみんなもいる! 父上! 私です! ナイジェルです!」
「うおちょっと待て! 突っ込むんじゃない!」
ナイジェルがダッシュして父親に近づくが、前当主は息子がわからないのか長剣を振るって攻撃してきた、それを彼はシールドスキルで真正面から受け止める。
「父上! 私はあなたの息子です! ナイジェルです! わからないのですか⁉」
「うぅ……ナイ、ジェル?」
「そうです! ナイジェルです! 帰って来たのです! そうだ父上、家宝の宝石のありかをご存じありませんか? それがあれば友人があのドラゴンを倒せるかもしれません!」
「……ろせ」
「はい? 今なんとおっしゃいましたか?」
「私を、こ、ろせ。今、この身は、モンスターとなっており、ドロップアイテムが家宝のルビーとなっている。あれを手に入れるには、私を、殺すしかない」
「そんな……父上」
躊躇しているナイジェルに向かって父は再び強烈な斬撃を加えると、理性を振り絞って諭した。
「聞け、ナイジェル、この意識を保てるのももう時間がない、私を倒し、お前が新たにこのバースの領主となるのだ、お前が……みなの無念を晴らすのだ」
「……父上」
悪いと思ったがアンサーの解析によってナイジェル親子の詳細なやりとりを聞いていると、、ものすごいシリアスな展開になっている。本音を言えばナイジェル家の家宝のルビーは喉から手が出るほど欲しい。それがあればこのピンチをなんとかできると思うからだ。だからと言って今すぐお前の父を殺せとも言えない。そもそも僕を逃がして命を落とした亡きお父様のことを考えると自分からは言い出せなかった。
しばらく成り行きを見守っていたが、覚悟を決めたナイジェルはポーチから愛剣を取り出して構えた。僕はその姿に強く胸を打たれた。
「……お命頂戴いたします。はっ!」
「ぐふっ!」
あやまたずナイジェルの剣が父の胸元中心へと吸い込まれて心臓を貫き通す。ゾンビを物理で倒すには二通りあるという、頭を潰すか心臓を貫くかだ。ナイジェルは見事に父の希望に沿ったのだ。初めて見た時は膝を抱えて震えながら自暴自棄になっている大男だったが今僕はその認識を改めよう、尊敬すべき男だ。彼もまた偉大なる紳士だ。
ナイジェルは笑顔を浮かべて消え去った父の跡に残されたルビーを固く握りしめると、ものすごいスピードでそれを投げてよこした。
「アルフォンス! 頼む! この悲劇を終わらせてくれ!」
ぐしゃぐしゃになった泣き顔で叫ぶナイジェル。僕は応える。
「オフコース、さぁ始めよう。紳士の期待に応えるのもまた、紳士なのだから」
全てのことは願うことから始まる
マルティン・ルター




