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5 テムス川の怪




 せっかく頑張って釣り上げたパイクだったが、さばいた結果、煮しめたドブのようなフレグランスを漂わせ始めたので、ミーナはおろかフェルからも強烈な拒絶を頂戴する結果となってしまった。フェルは歯茎を剥き出して威嚇している。そんなキレなくても。


 釣りあげた直後は好奇心からかスラムの住民達も拍手をしてくれたけど、一連の異臭騒動では皆うぇっとした顔をして、そそくさといなくなってしまった。スラムの住民は鼻の効く獣人が多いしね、仕方ないよね……


 やはりこの異臭がテムス川の魚達が好まれない理由だなと感慨に浸っていると、アンサーから嫌味を言われた。


『なにをボサッとしていらっしゃるのですか。その魚は有毒なのですよ? 早く体液を拭わないと健康が害されてしまいますが、そんなこともわからないのですか?』


「うーん僕のスキルが辛辣!」


 なんだろう、みんなもうちょっと優しくしてもらっていいですかね? ここに来てから嫌われてしかいないとかへこむんだが、それは。


 推定三十cmくらいのパイクをズタ袋に入れる振りをしてインベントリへぶち込み、ぼろきれで手を拭く。収納スキルや収納袋は中級くらいの冒険者になれば当然のように持っているものらしいけど、スラムではもちろん貴重だ。トラブルの元は少ない方がよく、用心にはこしたことがない。経験値も習得できた気がするけど、たった一匹では体力が増強された実感もないな。はぁ、早速だが諸々あって疲れてしまった。


「あ~これはもう一匹ぐらい釣れたら今日は帰った方がいいかもしらんな。準備不足もわかったし」


『特にご自分の体力のなさを自覚せずにスキルを使っては熱を出して倒れるマスターとしては、それはとても賢明な判断だと言うことができます』


「ほめてるのかけなしてるのかわからんな」


『両方でございます』


「あーそー……」


 うんざりしながら再びルアーを投げ入れてキコキコとリールを巻く。早いけど本日のラストアタックでございます。帰ったらお昼ご飯どうするかな、釣れたパイク一匹をクラフトで毒抜きしたらどんな味がするのか。一応生は怖いから焼いて食べてみるか。最後に釣れる一匹次第ではフェルやミーナと分けるとまじで残らんが仕方ない。明日という日もあるさ。


 などとのんきに考えていたら、再びいい当たりが手元に来た。それだもんだからグイっと引っ張ってみると、ヅガンと衝撃が来て糸が猛烈に引っ張られた。慌てて踏ん張って体制を整えるも、強烈に体ごともって行かれそうになる。


『いけません、手を放してください! 危険です! 尋常な大物ではありませんよ!』


「いやだってもったいないし! 竿もルアーも作るの疲れるんだぞ!」


 ラインは延ばされる一方で魚影が近づく気配はまるでない。それどころか頑丈を上げたはずの釣竿がミシミシと異音を立てている。


『このまま抵抗はできてもマスターの力では引き上げることは不可能です! 諦めましょう!』


「いやまだだ! 僕の貧乏根性をなめるなよ! うおおお!」


 気合は十分だがゾリゾリ体が川に引き寄せられて、腕がしびれてきた。残念だけど、ロッドを手放すしかないのか……


「ウォン!」


「フェル!」


 その時事態を見守ってくれていたフェルが介入して僕の持つ竿を咥えてくれた。猛烈な咬筋力でがっちりロッドをホールドすると、すごい力でこちら側へ引っ張ってくれている。これはいけるかも!


「おおありがとうフェル! そのまま頑張って引き上げよう!」


「グゥガルル!」


 あれ? なんか怒ってらっしゃる? でも今はすいません、お願いします! あなただけが頼りなんです!


 フェルは大きな白狼でしっぽまで含めると二M以上はあるだろうし、もふもふな毛皮の下にはムッキムキで筋肉質な体が隠されているスーパーレディーだ。いや歳が分からんからガールかも知れないけど、とにかくそんじょそこらのモンスターなんてのは目じゃないほどに強くて魔法も使える。レイラとこの子がいなければ僕なんてとっくに死んでいただろう。まじリスペクト。


『どうせ私には戦闘力なんてものはないですよ』


「ヘイヘイすねるなよアンサー。ってツッコんでる暇もねー! なんか来る!」


 フェルとの力比べに業を煮やした川の中のなにかが急に飛び出してきた! いや、飛び出して来たってなんだよって思うがそうとしか言いようがない!


 思わず竿を手を放してフェルと一緒に後ずさると、テムス川の悪臭を漂わせながら、それは足のように進化したヒレを器用に操って僕達の前に立ちはだかり、咆哮した。


「シャァァァァァァァァク!」


「サメだぁぁぁぁぁ!」




学ぶ者は信じなければならない。だが学んだ後では自分で判断しなくてはならない

フランシス・ベーコン

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