49 ダンジョン金貨と埋葬
明くる朝、みんなで朝食を食べている時に昨日手に入れたドラゴンの金貨を調べてみた。アンサー曰くこれは普通の金貨とは違って魔力を帯びている分貴重らしい。おんなじ柄ばっかりの模造品のくせに価値が高いとはこれいかに。
『マスター、クラフトできる品目が増えました、ご確認ください』
アンサーに促されてクラフトできる種類を確認してみると確かに作れる物が増えていた。理由は例の金貨だ。
「ダンジョン金貨素材を用いた通常クラフトのバージョンアップが可能です、ねぇ。ということは、あれかい? スリングショットも強化できるってことかい?」
『その通りですがそれだけではありません、スリングショット弾の項目を検索してください』
「なになに……これは!」
言われて確認してみるとスリングショット専用弾の製作が可能になっていて、火属性や雷属性、毒属性などの各種属性弾に加えてAPに絶大なダメージを与える障壁破砕弾の作成が可能になっていた。これには紳士も思わず立ち上がる。
「うおおおおお! マジか! これで勝てるぞ!」
僕が狂喜しているとロージーとナイジェルがおびえたような目で見ていた。対してレイラやオリバー達はまたかといった感じで自分の装備を点検している。
「アル様の頭には忌まわしい思念体が生息しているので、お互いに会話しているとああなるのです
。気にしないようにしてください」
「あ、あははは……努力します」
「なるほど」
「身も蓋もなーい! まぁそれはそれとしてだ、みんなにも説明すると昨日手に入れたファフニールが大事にしている金貨だけど、どうやらこれを集めると今ある装備を強化できるみたいなんだ。これで勝機が見えて来た!」
クラフトの強化について説明するとロージーはまじめにメモを取ってアマンダは真剣に聞いていた。今後の予定としてはファフニールの目を盗みつつ金貨を回収して装備を充実させていくことになる。オリバーが質問する。
「回収の目安はあるのか?」
「僕のディファレンスドライブも強化できるようなんだが、そこが一応の目安だね。とにかく安全第一で距離を取りながら一方が牽制しつつもう一方が回収かな。やっぱりブレスが危険だからそれだけは絶対避けて行こう。それでナイジェルに相談があるんだけど」
「なんだ?」
「僕のパワーアップに君の家の家宝である宝石が必要みたいなんだ。攻略の暁には必ず保証をするから見つかったら譲ってくれないだろうか」
「……そうか、わかった。よくわからんがあれがあることで竜に勝てるんなら好きに使ってくれ、だが俺からも条件がある」
「なんだい?」
「街の外に散らばっている死骸を弔うのを手伝ってくれないか? 領主の息子としてそのままにしておくのは忍びないんだ。頼む」
ナイジェルは僕の目を見て胸に手を当てた。僕は思わず顔を手で覆った、勝つことに必死で周りが見えてなかったみたいだ。
「……もちろんさナイジェル。敵は移動できないから時間には余裕がある、今日はみんなで手分けして犠牲者を埋葬しよう」
僕の提案に他の皆も賛成してくれて、街外の一角に臨時墓地を掘ってから手分けして手持ちの収納バックなどに遺体を収納していった。
地球でのイギリスではその昔は火葬禁止令が出ていたことから墓地での土葬が主流だったそうだが、近年は火葬禁止令が撤廃されて費用の問題などから八割くらいが火葬を選択するそうだ。このブリスデンでは死者の遺体をそのままにしておくとゾンビやスケルトンなどのモンスターに変異してしまう可能性があるため、基本的には聖職者の立ち合いの元に火葬されている。この場に教会関係者はいないが、やらないよりはずっといいはずだ。
ファフニールによる占領から二か月が過ぎて逃げ切れなかった遺体は荒野で朽ち果て、白骨化が進んでいる。今時分は日中に日が差すこともあるが、朝晩はよく冷える。街を焼け出されて行き場なく逃げ惑い亡くなるのはさぞ無念だっただろう。
僕は遺体を見つける度に十字を切って収納し、日没までフェルにまたがったりししながらあちこちを回って遺体を収納し続けた。正直気が滅入る作業だったが、時間にも限りがあるし、手早く済ませていく。やがて一通り回収し終えると、夕日に照らされながら集合墓地の底に丁寧に遺体を重ねていった。聖油をクラフトする。これは遺体を清めながらモンスター化を防いで骨になるまで燃やしてくれる宗教的アイテムだ。
沈み行く夕日に背を向けて聖油を遺体の上に降り注ぎ火種を放つと、美しい炎が立ち上った。本来ならば代表してナイジェルがお別れの挨拶を言うべきなのだろうが、彼は遺体の中に親しかった者達の姿を見つけてしまい、泣き崩れてそれどころではなかった。代わりに僕が式を進行している。
よく考えるとこの世界の葬式に参列したことないなと思いながらも、アンサーに相談したり地球の知識を参照しつつ口上を述べる。
「……ドラゴンが街を襲った日、それまで希望に満ちていた皆の日常は崩れ去り、街は荒れ果てて無人となり、領主館は暴君が如き竜が居座る魔境となった。今ここに眠る者達や命を失った全ての住人達の魂に誓おう。私ことアルフォンス・アーサーは必ずや邪竜を討ち果たし、あなた方の無念に報いると。だから安心して欲しい。神と子と聖霊の御名において黄泉への旅路が祝福に満ちたものであらんことを。イェヒー・オール」
「「イェヒー・オール」」
皆で十字を切って炎を眺める。パチパチと遺体が燃えるのを眺めていると、ナイジェルをロージーとアマンダが慰めてくれているのが見て取れた。遺体の中には僕達よりも若い乳幼児のものもあり、一番心に来たのは母に抱きかかえられながら死んだ赤ん坊の遺体だった。
空を見上げると満天の星が輝いて見えた。これだけ明るかったら天国へも迷わず行けるだろう。うん、そうならいいな。
その時街の中心から大きな声が響き渡った。ファフニールが失った金貨を惜しんで未だに嘆き怒っているんだ。あんなにでかい体してるのになんてみみっちい奴なんだ。待ってろよファフニール、必ず僕がお前を終わらせてやる。
拳を握りながら街の方を見ているとオリバー達が近づいてきた。彼らの顔にも決意のようなものが感じられた。
「やってやろうぜアル、あいつを野放しにはしちゃおけねぇ」
「あぁもちろんだ、明日から作戦決行だ。討伐までハードな状況になるが気を緩めずに行こう、みんなもよろしく頼むよ」
夜が近づいてロージーは貴重なフィルムで写真を一枚撮った。炎は僕達の覚悟を現すかのように清く高く燃え盛っていた。
イェヒー・オールはヘブライ語で 光(祝福)あれ という意味です。今作ではアーメンの代わりに使ってます。因みにアーメンは その通り まことに という意味だそうです。




