48 パース開放作戦
まずはいつもの頼れる面子でひょいひょいと荒れ野を進んでパースの街へと突入する。街の外では住民が屍となった姿が散見されたが、街の中では見当たらない。これはダンジョン化が進んでいるからだろう。
門なんてもんはすでにあってなきが如しで、所々現存する外壁などがサバイバルゲームのように姿を隠すにはもってこいだ。しかし周り一面残骸なので、足音を隠すには不向きすぎる。しかし心配には及ばない、さっきから足音立てて歩いているけどグースカグースカと竜の寝息が聞こえてくるからだ。なんなら僕らの足音よりも奴のいびきの方がでかい。
中に侵入してからも他モンスターの姿はない。これはやはり自分一人がいればそれでいいという考えの現れだろう。自分が負けることなんて想定もしてないんだろうな、大した自信だ。
瓦礫の中をしばらく進むと、ようやくその大きな姿を拝むことができた。
ナイジェルが言ったように深紅の鱗に身を包んだ立派なドラゴンだ。大きさは前世のビルで例えると寝てるだけで三階建て位の高さだ。寝顔が凶悪で可愛げがない。寝息が炎を含んでいるせいか周囲が暑くて汗が出てくる。
肌で感じる内蔵魔力の高さと潜在APの強さ。こりゃあ一筋縄ではいかなそうだ。
変身してロッドで攻撃するか? いや連撃で天然バリアと言われるAPを壊してみても、その奥には頑丈な鱗が待っている。あれを剥がしてダメージを与えるのは至難の技だよな。仮にできたとしても変身の時間が過ぎそう。
ここに来るまでにドラゴンそのものをギルドで調べてみたが、鉄壁の防御力の他に再生能力が他のモンスターより群を抜いているそうだ。そんなもんどうすりゃいいんだ無敵かよ。まぁだから昔からドラゴン倒すと英雄視されるんだが。
過去のドラゴンスレイヤーの文献からヒントが得られるかとも思って調査したけれど、そのほどんどが半ば伝説化、戯曲化されていて参考にならなかったんだよな。生まれもった怪力で鱗を叩き割ってとか、神に授かった剣でとか再現できないっつーの! はぁ。
「アル様、これ以上近づくのは危険です」
「いや、大丈夫なんじゃないかな。多分攻撃しなければ気が付かないと思う。もうちょっと行ってみよう」
「ガウ」
フェルも耳や鼻をピクピクさせて周囲を警戒してくれているが、今は特に危機を訴えてはいないな。より近づいて鑑定する。
『ファフニール 元はダンジョン最下層フロアのボスとして君臨していたが、誕生したダンジョンのコアを奪取して住処を飛び出し、パースの街を恐怖に陥れると一夜にして滅ぼした貪欲なる竜。領主館の宝物庫を塒にして宝石や貴金属に強い執着を持っており、現在のパースの街をダンジョン化している原因である。まともに討伐するには一国の軍隊が動かねばならないだろう』
なるほどね。弱点とかはないのかな? アンサー。
『強いて言えば氷属性の攻撃ですが、厚いAPと鱗に阻まれれば効果がないでしょう』
みんなでバシバシ石投げりゃあなんとかならんかね。
『相手が石像ならそれも良いでしょうが、生きたドラゴンですよ? 小回りは利かないでしょうが足踏みだけでも相当な脅威になるでしょう』
「あ~一撃もらっただけでダメなやつね。了解。じゃあまあとりあえずやってみますか、みんな危なくなったら街の外まで退避で。いいね?」
こくりと頷くレイラとフェルを見て僕はスリングショットを取り出してチャージショットをかましてみた。バァン! とでかい音がしてドラゴンの鼻先に投石が当たったが、果たして目に見えないAPのバリアが攻撃を阻んで体表にすら届くことなく石はバラバラになった。しかし竜は相変わらずグースか寝ている。思わずレイラと顔を見合わせる。
「まるで起きる気配がありませんね」
「攻撃が効いてる様子もないね、AP剥がすまで何発いるのか考えると頭が痛いな」
「ガウワウ」
その後も数回攻撃してみるが、まるで効果がなさそうだ。アンサーに聞いてみても攻撃した後でファフニール自身の膨大な魔力でApバリアが補修され、まるで意味がない。
「ん~困ったな、まるでとっかかりがない。とりま変身してこずいてみっかなー」
「そうですね」
「しっかしこの大量にある金貨なんかはダンジョン化能力で複製してるんでしょ? よくできてるよなー全部同じ柄だけどさ」
僕は足元に湯水の如く溢れている金貨の山から一握り掴んでまじまじと見た。すると空気が揺らいで寝息が止まった。
「ん、なんだ?」
「ガルルルルル!」
「グオオオオオオオオオ!」
ゆっくりとファフニールが叫びながら覚醒してそのバカでかい図体を持ち上げると、忌々しそうに僕を睨んだ。
「散々攻撃されてもなお寝てたのになんで起きたんだ?」
チャリチャリと模造金貨を投げてお手玉してると、竜の視線がそこに注がれているのがわかる。ははーんなるほど。僕はピーンと親指で金貨を弾き上げて竜の気を引いた隙にごそっと収納スキルで金貨の山をぶんどった。激怒した奴の口内に魔力が集中していく。これは多分あれだろう、ドラゴンと言えばってやつだ。
「ブレスが来るぞ! みんな逃げろー!」
「グラァァァァァァァ!」
閃光が走って爆音と共に灼熱の炎がこちら目掛けて迫りくる。一足先に逃げる体制を整えていた僕達にとっては直撃することはないが、APのバリアを通しても感じる熱気に追われてちょっと焦った。
「あっち! あっち! レイラとフェルは大丈夫?」
「問題ありません」
「バウ!」
ドラゴンから遠ざかって振り返ると、街の中央でこちらを睨んで激怒しているファフニールがいた。その足元には熱線でドロドロに溶けた金貨が広がっており、沈みゆく夕日と相まってさながら火山のようだった。奴はダンジョン化の影響からかその場から動けないようで、悔しそうに吠えまくっている。
「ねぇアンサー、あれってなに言ってるのかわかる?」
『はいマスター、主に金貨を盗んだことへの怒りと、自分で溶かした金貨への憤りですね』
「ぶぁはははは! バカじゃねーの! お前が街のみんなを苦しめた罰だ! ザマーミロ! ばーかばーか!」
「グアアアアアアアアアア!」
街の外まで逃げ去った僕達に向かってひたすら怒り続けたファフニールは、その日夜遅くまで叫び続けていた。残って拠点築いていたナイジェルやオリバー、ロージー達は青い顔をしていたが、僕は胸がすっとして爽やかな気持ちで夕食を食べ、やがて満点の星空を眺めながらしっかりと眠りについた。




