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46 パース開放準備




 あれから僕はナイジェルに事細かにドラゴンの話を聞いた。彼は僕がドラゴンを倒すと言うととても信じられない様子だったが、辛かった記憶を思い出して必要な情報を教えてくれた。


そいつは二か月前、町外れのダンジョンの中から突然現れると、一夜にして周囲を火の海に変えた。逃げ遅れた者達はそのまま姿形も残さず消し炭になり、たった一匹のモンスターにパースの町は壊滅した。


 ナイジェルの父と兄は奇跡的に生き残ったが、逃げた先でも資産が必要だし、なにより先祖代々伝わっている家宝をそのままにはしておけないということで、領主の館の宝物庫に大切に保管しているそれを取りに行ったそうだが、これが良くなかったらしい。


 そのモンスターは体が赤く火を吐く巨大なレッドドラゴンだそうだが、目ざとく町の中で一番高価な物がありそうな領主館を見つけると、まずナイジェルの兄をブレスで焼き、家宝を持ったままの父はそのまま頭から噛みつかれてしまったらしい。


 ちなみにその家宝と言うのはかつてのブリスデン王より下賜されたアンティークジュエリーだそうで、幸運と繁栄のスキル効果があるそうだ。いや幸運ってあんた持ち主食われて死んでますやんと、一瞬思ったが言わない。それがマナーだ。


 家臣団もあの騒ぎで散り散りに逃げて行ったので、今はどこでどうしているかわからないそうだ。仮に見つかったとしても、もう俸給を支払うことができないので雇用できない。自分は貴族としては終わってしまったんだ、と言う悲惨な話だった。


 ナイジェルが助かった理由だが、ナイジェルの天職がタフな重戦士と言うのが大きいだろう。天職とは魔法やスキルと並ぶこの世界の謎要素で、自然発生的に身に備わることもあれば、教会などで寄進することでオベリスクを介してある程度望む職業に就くことができる。


 このオベリスクによる転職は教会による独占事業で、回復魔法と共に詳しいことは秘匿され、腐敗の温床となっている。現段階で我が社と教会の間にいさかいはないが、相手の出方にっては今後対立するかもしれないな。


 スラム出身の獣人連中は腕の良い冒険者にでも成り上がれないと、まず協会での転職はできない。足元を見られるからだ。その点領地を持つ貴族は、その敷地内に教会があるので付き合いは深く、一族の者は何かしらの天職を授かることができる。


 ナイジェルは十五歳とは思えないほどがっしりしているしまさに重戦士にぴったりだと思うが、本人は騎士や剣士が良かったそうだ。でも天職のお蔭で燃え盛る炎に追われてもこうして命を繋いでいるのだから、そう嫌がられたものでもないと思う。


 ちなみに僕の天職は超紳士だ。それって職業なんかと思わなくもないが、天職は適応の範囲が広くて曖昧で、ガスコインなんかは飲んだくれの元海兵だ。他にも称号なんていうのもあり、ゲームのように獲得すると所定の能力が向上する。


 これらは獲得することもできるが、さぼっていると失うこともあるのが知られている。なので常に努力しなければいけないのだ。まぁモンスターのいる世界で神様からの贈り物を粗末にするなってことだな。


 話がそれたが明くる日の朝、僕がパース開放に向けて少しずつ準備を進めていると、突然メモ帳を持った女性が写真家を連れて我が社に現れた。彼女はロージーと名乗り、以前煙突清掃事業の際に広告を出したタブロイド紙の新聞記者だった。


 この辺に住んでいる獣人の割に小ぎれいにしている割には、似合わない薄ら笑いを浮かべて調子の良い塩梅でご機嫌を伺って来る。


「いやぁどうも社長! 小耳に挟んだんですけど、なにか面白いことを始めるそうですね! なんでもワイバーンを討伐に行くとか! 困りますねぇそんな面白い話があるなら我が社にも教えてもらわないと!」


「ロージーさんだっけ。またどこから湧いて来たんだよ君は、しかも間違えてるよ」


「じゃあどこになにを討伐に行くんですか?」


「パースまでレッドドラゴン討伐に、だよ」


「ええー! そうなんですか! すごいじゃないですか取材させてください!」


 興奮する新聞記者に詰め寄られて迷惑そうに顔をしかめていると、アマンダが割り込んできた。


「ちょっと待ちな、あんたの新聞社はうちの社長を悪く書いてたよな? 変な挿絵付きで確か没落貴族の紳士気取りだとかなんとかさ」


 それを聞いてそれまで興味がなさそうだった周囲が一気に殺気立つ。オリバー達三人組はもちろん、ミーナ達年少組やハンナさんまでもが手にフライパンを持ってやって来た。代表してオリバーが口を開く。


「へぇいい度胸だな姉ちゃん、ここにいるのは大体がアルがいなけりゃ命がなかったようなもんがほとんどだ。俺らがろくに文字を読めねぇからって舐めた記事書きやがって、覚悟はできてんだろうな、あぁん?」


 オリバーはまだ少年なのに、さすがというか脅しが堂に入っている。これにすっかり彼女は参ってしまった。


「ひぃぃぃ! ごめんなさいごめんなさい! あれ書いたのは私じゃないんです! 許してくださいなんでもしますから!」


「ん? 今なんでもするって……」


「あっ! いや、その、それは言葉の綾でして、なんでもはできません! 奴隷に売り飛ばさないでくださいぃぃぃ!」


「しないよそんなこと、みんなもちょっと落ち着いて。確かに広告出してもらってる企業の悪口書くなんてまともな新聞社のやることじゃないけど、彼女は勇気を出してここまで話を聞きに来たんだからその根性は認めてあげるべきだよ。それに酷いことして追い返したら余計世間に反社会的な組織だと思われるだろうしさ、だからここはあえて丁寧におもてなししようじゃないか。じゃあ狭い所だけど僕の家へどうぞ。みんなも気にしないで自分の仕事に戻ってね」


「アルがそう言うならまぁいいけどよ」


「仕事するかー」


 従業員達が持ち場に戻ってからようやく安心したのか、ロージー女史は安堵の表情を見せ、ようやく取材の運びとなった。


 僕は誠実に知ってることを話してから数日後、彼女の書いた記事はちゃんと朝刊に載っていた。


 ジョナスが買ってきた新聞を、朝礼が終わってからレイラが代表して読んでくれた。


「稀代の少年起業家、パースの開放に意欲。城塞都市パースが陥落してから三か月になろうとしている。ブリスデンの首都ロンネルから五日ほどの距離にありながらも、中で居座っているドラゴンは外に興味を示さないことから、討伐は見送られて久しい。領主の一族はほぼ死に絶えて、次男のナイジェル氏(十五歳)のみが命からがら逃げ伸びたということだ。その彼を保護したのが誰あろう、今ロンネルで飛ぶ鳥落とす勢いの起業家であるアルフォンス氏である。同氏もスコッツランドを追われた経験があり、ナイジェル氏に協力するのはやぶさかではないと言う。だが失地を回復すると言えども相手はあのドラゴンだ。吐き出す炎は一夜にして住人達を焼き滅ぼし、パースの街を己のみの住処にした強者だ。これにどう対処するのか。大胆不敵にも氏は語る。相手はもちろん強敵だけれど、無敵の生物などありえない。どこかに必ず突破口があるはず。それを慌てず騒がず見つけ出すことができたら、勝利は必ず我らのものだと笑う。小紙はパースに現れたレッドドラゴンを欲深い王が竜に変化した故事から取ってファフニールと名付けた。パース開放の暁には当記者を温泉に招待してくれるそうなので、吉方を待ちたい。今この時代にドラゴンスレイヤーが現れるのかどうか、小紙は引き続き同氏に密着して成り行きを見届けるつもりである」


「……なるほど、主に事実のみを書いているしいいんじゃない? ナス湖のナッシーをぶち当てて怪物同士で戦わせるとか書いてなくて良かったよ」


「おい見ろよ! あの時集合写真を撮ったのが載ってるぞ! アルの後ろに俺達も写ってる!」


「マジかよ本当だ! 俺も新聞買ってこなきゃ!」


「あら、私もいるわね。記念に買って来ようかしら」


「君ら内容には興味ないんかーい。しかしファフニールねぇ、なかなかお洒落な名前付けるじゃん。ねぇナイジェル氏」


「ああ……だが大丈夫なのか? こんな大事になって」


「ん? あぁ平気平気、どうせみんなタブロイド紙に書かれたことなんて本気にしてないって。はっはっは」


 この時僕はのんきにそんなことを言っていたけれど、わりとすぐ後で後悔するはめになるのだった。

 



人々は永遠に生きられるかのように生きている

セネカ


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