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44 シュタイン伯爵




「じゃあ、これで冒険者としての登録は完了だな。やれやれ」


「ありがとうございます、ギルマスター」


 冒険者ギルドの受付でひともんちゃくあり、長身でムキムキのおっさん……もとい、ギルドマスターのマグナスが僕に冒険者プレートを手渡してくれた。これで晴れて冒険者として活動できる。やったぜ。


「それにしても大丈夫なのか? 子供ばかりの会社でダンジョンアタックなんてよ。中ではなにかあっても助けなんかこねぇぞ?」


 ギルマスターの目は僕の背後に控える従業員たちに向けられていた。確かに差別されている獣人の子供達ばかり集めてダンジョン攻略だなんて不審がられてもおかしくない。


「ははは、勝算は十分ありますので心配には及びません。僕は授業員を家族だと思っていますので、使いつぶすようなことはしませんよ」


「本当だろうな? ま、ウィリアムからもよろしくと言われてるから詳しいことは聞かねえよ、ただ、気を付けろよ、敵はダンジョンの中だけとは限らねぇぞ」


「ご忠告どうも。ああそれとギルマスター、一つ相談があるんですが」


「なんだ?」


「魔石の買取なんですが、僕達がモンスターから得た魔石をA&Aカンパニーで買い取ることは可能でしょうか?」


 ギルマスターは眉をひそめた。


「悪いがそれは無理だな、魔石の買取は国の管轄下にある。勝手に内々に取引するわけにはいかねえ。もしバレれば牢屋行きだ」


「やはりそうですか……」


「どうしても必要なのか?」


「ええ、新しい事業のために大量の魔石が必要なんです」


「そうか。だったら、担当の貴族に直接交渉するしかないな。魔石買取許可を出せるのは、シュタイン伯爵だろうな」


「シュタイン伯爵……ですか」


 ギルマスターから教えてもらった住所をメモしながら、僕は少し考え込んだ。確か、あまり評判の良くない貴族だったような。


「だが気をつけろよ。あいつは欲深くて厄介な野郎だ」


「わかりました。ありがとうございます」


 内装を修理してからギルドを出て、オリバー達を先に帰して僕とレイラはシュタイン伯爵邸へと向かった。


 無駄に豪奢な邸宅の前に辿り着くと、僕は深呼吸をした。なんとなく嫌な予感がする。でも、ここで引き下がるわけにはいかない。


「失礼します」


 執事に案内され応接室に通された僕は、シュタイン伯爵と対面した。太った中年の男性で、小さな目がぎろりとこちらを見た。


「ほう、貴公がアルフォンスか。噂には聞いているぞ? なんでも汚い獣人のガキどもを使って事業をしているとか、領地を失った没落貴族のくせにうまくやっているらしいな」


「僕の従業員はみなすばらしい働きをしてくれていますよ。閣下、本日は魔石の買取許可について、お願いがございまして」


 嫌味を軽くいなして僕が事情を説明すると、シュタイン伯爵はにやりと笑った。


「なるほど。確かに、貴公の言うとおりだ。魔石の買取許可があれば、その浄水器やらも貴公の事業もうまくいくだろうな」


「はい。これはこの国の乳幼児の生存率を上げるためにも必要な活動なのです。本来ならば政府が主導してロンネルの衛生問題に取り組むべきですが、お偉方には理解が薄いようで、対応を待ってはいられません。今日こうしている間にも汚染された水やミルクで命を落としている子供達が大勢います。僕はそれを救いたいのです。ですので、ぜひとも便宜を図っていただきたいのです」


「なるほど? 実に結構。ノブレスオブリージュ、高貴なる者の果たす義務をその年で理解しているのは見事と言えよう。ただしだ」


 シュタイン伯爵の目が細くなる。嫌な感じだ。


「どんな高尚な理由があれど、要はそなた一人を特別扱いしろと言うわけだろ? 議会の承認もなしに。ならばそう簡単に許可は出せんよ、ただし、条件を飲むなら考えてやらんこともない」


「……条件、ですか?」


「ああ。まず、私掘許可料として1000ポンド。それと……」


 シュタイン伯爵の目が、僕の後ろに控えているレイラに向けられた。


「その美しいメイドを頂こうか」


「……は?」


 一瞬、僕は自分の耳を疑った。


「どうした? その程度の対価も払えんのか? 口では偉そうに言っておるが、とんだ見掛け倒しだな」


 あざ笑うシュタイン伯爵の言葉に、僕はブチ切れた。


「……ふざけるな」


「なにぃ?」


「ふざけるなって言ってんだよ!」


 僕は立ち上がり、テーブルを叩いた。


「レイラは物じゃない、人間だ! そんな取引なんて絶対に認められないね!」


「こ、この無礼者め!」


 シュタイン伯爵が顔を真っ赤にして怒鳴る。でも、もう僕は止まらない。


「1000ポンドの賄賂だけならまだしも、苦楽を共にした僕の秘書をなんだと思ってるんだ! こんな理不尽な要求は絶対に許されない! 魔石の買取については別の方法を考えます、では失礼!」


 僕は踵を返すと、レイラの手を取って部屋を出た。


「アル様」


 レイラが心配そうに僕を見る。


「大丈夫だよレイラ、あんな奴の言うことなんか聞く必要ないさ。もう帰ろう、みんなが待ってる」


「かしこまりました」


 レイラが恭しくお辞儀をしてくれて一緒に邸宅を出ようとした時、門前の衛兵達に前を阻まれた。


「かかかかっ馬鹿め! 素直に要求を聞いておればよいものを調子に乗りよって! もう逃げられんぞ! お前達! そ奴らを拘束しろ!」


「「はっ!」」


 鎧を着こんだ私兵達が一斉にこちらへ殺到する。僕はため息をついて右手を前に突き出し、呟いた。


「収納」


 するとあっという間に衛兵たちの付けていた、鎧が、盾が、槍が、服などその全てが消え去って、全員すっぽんぽんになってしまった。そこに様子を伺っていた屋敷のメイド達や往来にいた貴婦人らの絶叫する声がこだまする。いつの時代のどこの世界でも大通りに面したところで裸になるのは犯罪に等しい行為に違いない。


「キャー誰か来て! 変態よ!」


「なんだあれは! シュタイン伯爵邸でなにをしているんだ?」


 この混乱に乗じて僕は鉄製の門扉もまるっと全部収納して、うそぶいた。


「おやおや門が開いているようだ。ではこれで帰らせていただきますよ。またお会いしたいとも思いませんが、みなさんせいぜいお元気で。ではごきげんよう」


 シュタイン伯爵が後ろでなにか怒っているようだったが、知ったこっちゃない。僕とどこか機嫌が良い様子のレイラは並んでさっさと帰宅した。



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