36 名探偵? アルフォンス
「用意ができました!」
早えぇなおい、まだ三十分しか経ってないぞ。でも正直助かる。だってこの場にいるのいたたまれないもん。最初は笑顔も見えたフィオナ様だけど、今は沈鬱な表情で黙ったままだもん。なんて声掛けたらいいかわかんないし、胃が痛いもん。
「アル様、とっとと終わらせてこんなしけた屋敷からはおさらばしましょう」
「レイラ、君は無敵か」
僕は志を持ってこの異世界に来たんだけれど、さすがにこんな事態は想定外なんだよな。レイラの面皮の厚さがうらやましい。
愚痴っててもしょうがないので、さっそく材料を集めてクラフトする。と言っても手をかざして念じるだけだけど。
しばらくそうしていると素材が一つに集まって玉となり、ぐにゃぐにゃした後にそれらしいデバイスができあがった。題して。
『魔術具探す君です!』
「できました、魔術具探す君……です」
パラパラッパッパーという人を馬鹿にしたようなファンファーレが僕の脳内にだけ木霊すが、周囲の空気は猜疑心で凍てついている。僕はひきつる頬をこらえながら魔術具探す君を携えて歩き出す。
アンサー曰く呪いの術具は負のエネルギーを出しているはずだから、わかりやすいはずだとのこと。早速機械のスイッチをオンにすると、あろうことか前世のサービスエリアで焙煎コーヒーを作ってくれる自動販売機と同じ軽快なメロディが突然流れ始めた。
「なんじゃこの音楽は! ふざけておるのか!」
「お、お静かに。探知中です」
ちょっとアンサー! どうなってんだよこれ!
『場が和むかと思いまして』
和むわけねぇぇぇぇぇぇぇ!
僕とアンサーの事情をこの場で説明したところで更に混乱するだけなので、ここは素知らぬ顔で押し通す。だがマジで意味不明だ。
一応機械としてはちゃんと作動しており、怪しい方角へ向けると光が徐々に強く点滅して教えてくれる。出来立てコーヒー作りまっせという軽快なリズムに乗せて僕達はぞろぞろと無言で移動した。発狂しそう。
やがてある部屋の前まで来ると反応が強くなったので入ろうとすると、メイドさんに止められた。どうやらフィオナ様の寝室であるようだ。
「構いません、入りましょう」
気丈にも姫様がそう言われたので、意を決して僕達は居室の中へ入った。内装はシンプルながら天蓋付きのベッドはさすがお姫様だなと思わせてくれた。だがどうやら反応はそのベッドの下にあるようだった。
「どうやらこの下になにかあるようですね」
「わかりました、直ちに動かしましょう」
「ああ僕がやります」
そう言ってベッドに触れると一瞬にして収納してしまう。そして床に敷かれていた絨毯も収納する。
「あ、あなたはいくつスキルをお持ちなの?」
「ご想像にお任せいたします。レイラ、この辺りだからやっちゃって」
「かしこまりました」
レイラがやおら重厚な火かき棒を取り出すと、ためらいなく床材目掛けて激しい一撃を加えて叩き割った。悲鳴に似た短い声が上がったが、これはしょうがない。
「床は僕のスキルで元通りにできるのでご心配なく。それよりもこれなんですが」
僕は割れた板の間から頭蓋骨を取り出した。鑑定すると魔法を使うモンスターの代表格であるリッチのものらしい。その一部は先ほどの衝撃で破損しており、呪術的効果が切れている。
僕が掴んで一同の前に見せると、みなはぎょっとして、若いメイドさんは今度こそ悲鳴を上げた。
「これはリッチの頭蓋骨です、こいつを媒体にして遠隔地より継続して呪ってきたのでしょう。すでに無力化してますので実害はありませんが、問題は誰がこれをここに置いたかです。ブライアン様、今この屋敷にいる者を全て集めてください」
「心得た! セバス!言われたとおりにするのじゃ!」
「はっ!」
途端に騒がしくなった室内でメイド長が姫様に近づこうとしたのでレイラに止めさせた。
「な、なにをするのです!」
「犯人がはっきりするまでは全員が容疑者です、接触は控えていただきたい」
「ふざけたことを! 私はこのお屋敷の! ひっ!」
ノータイムで火かき棒を出してメイド長に突きつけると、さすがに彼女は黙って後ずさった。無言でレイラはフィオナ様の車椅子を押して僕の側で待機する。実に有能だ。喧嘩っぱやいのが玉に傷だけど。
フィオナ様は先ほどから額に手を当てて俯いている。無理もない、ベッドの下に呪術具があることからどう考えても身内の犯行だ。術具を壊したことで徐々に様態は回復していくだろうが、精神的ダメージは計り知れないだろう。そんな中僕にできることと言えば犯人を見つけることだけだ。
しかし推理物の名探偵のノリで全員集めんかい! とのたまったものの、これからどうすればいいかは考えてないんだよな。セオリーだとこの部屋に入れる人間を洗い出したりするんだろうけどさ。アンサー、なにか案がある?
『そんな面倒なことをしなくとも、すぐ判明する方法がありますよ』
えぇ本当に?
よく種を蒔く者はよく刈り取る
聖書
人は自分の蒔いたものを、後に刈り取ることになる




