35 フィオナ2
呪われている? しかし誰にだ。王位継承権も三位とはいえ廃位されたんだろ? それともケルトエルフの先祖返りの方が問題なのか?
この世界において純粋なエルフは既に存在しないと言われている。かつて世界にはケルトエルフや各種のエルフ族が存在していたが、モンスターや他種族により森を追われたり他種族と同化し特徴を失っていった。それゆえに古き良き時代の象徴ともされているらしい。
『身体に持続的な回復魔法や投薬などの治療の痕跡が認められますが、病魔の侵攻を遅らせるだけで精一杯なようです。本来はこうして座って会話しているだけでも辛いはずと思われます』
気丈だね、呪っている相手に見当はつかないの?
『現時点では不明です、ですが接触を試みたりより詳しい症状を聞くことで手がかりが得られるかも知れません』
おいおいおい待ってくれよ、なんでここに来て探偵や陰陽師の真似をせにゃならんのだ。僕は安倍晴明じゃないぞ。
「最近ブライアンが楽しそうにしているから、その訳を聞いてみましたの。そうしたら面白いことをしている子がいると聞きまして、以前からぜひ会ってみたいと」
「呪いか……でもどうやって?」
僕が思わずそう口走った瞬間、フィオナ姫の顔が硬直する。それを見てさっと顔が青くなる。ヤバいやっちまった! アンサーとのやり取りが口に出てしまった!
僕の身内ならいつものことだと流されているけど、ここは自宅じゃない!
焦りつつ言い訳しようとしたけれど、それより早く後ろに控えていた執事がどこからか細剣を取り出して僕の顔面目掛けて突き出してきた! しかしそれを光のような速さでブロックする火かき棒。レイラだ。
室内で鋭い音を立てて小さな火花を散らした後に残ったのは両者から滲み出る殺気だ。ていうか姫様の執事はまだわかるけどレイラ、お前はなんでそんなにやる気がまんまんなんだ! やめてくれ!
すわ一触即発かとも思われたが、ブライアンが慌ててとりなしてくれた。
「セバス! 剣を納めんか! レイラ嬢もそいつを下ろしてくれんかの」
「レイラ、落ち度は僕にあるよ、だからお願い」
「……アル様がそう仰るのであれば」
レイラはすっと手に持つ火かき棒をエプロンのポケットに付与された収納機能で納めると、やや不服そうにしながらも元の位置に戻った。
「フィオナ様、大変失礼いたしました。不用意な失言をお許しください」
「……本当ですか? 私は、呪われているのですか?」
「姫様! このようなどこの誰ともわからぬ輩の言い分なぞ聞くものではありません!」
「セバス、わきまえよ!」
「アル様、駆逐しますか?」
「レイラはちょっと黙ってて! ……失礼。フィオナ様。僕には鑑定のスキルがありますが、それによるとおみ足の不調はその通り呪いであることが断定されます」
「そんな、医師からは遺伝病であると」
「巧妙にそう見せかけているんですよ、姫様。患部を少し触らせてはいただけないでしょうか」
「なりません姫様! 幼子とはいえ男児に肌をさらし、あまつさえ触れさせるなど!」
「いいえ、平気です。セバス、椅子を引いて頂戴」
「しかし」
「お願いします」
「……ははっ」
ヒステリー気味に騒ぐメイド長を黙らせたフィオナ姫は移動してブランケットとスカートの裾をたくし上げた。僕はそこに跪きそっと左足首に触れた。
皮膚は青白いうろこ状にささくれ立ち、鉱物のような冷たさを感じさせた。
アンサー、なにかわかった?
『呪いの線で間違いありません。表向きでは失伝した古代の黒魔術を使用しているものと思われます。しかしながら遠隔地よりの祈祷だけでここまで悪化させるのは難しいものと思われます。なにかしらの魔術媒体が必要となるはずです。内部に協力者がいるのでしょう』
なるほど、じゃあその呪物的ななにかがこの屋敷近くにあるってことかな。
『その通りです。それを取り除けば症状は緩和します』
ちなみにこのまま放っておくとどうなる?
『遠からず魔石化して魔石そのものになります。およそ六千ポンドの価値となるでしょう。破産寸前の国庫が潤いますね』
潤いますね! じゃねーよ! レイラといいなに考えてんだ! 人の心とかないんか! ……ああスキルだったわ。頭痛え。
「それで、どうでしょうか」
「恐れながら申し上げます。私の見立てではやはり呪いによる症状と思われます。このまま放置すればいずれ魔石そのものとなりましょう」
「そんなバカな! この屋敷には聖なる結界が施されておるんじゃぞ! どうやって呪っておるんじゃ!」
「呪いの道具が周辺に隠されているはずです。まずそれを見つけねばならないでしょう」
「お前ならそれができるのか! できるのじゃな!」
もしもしアンサー?
『素材が揃えばこの場でクラフト可能です』
「……質のいい中型魔石を十個。魔鉄を三㎏、魔銀を一㎏用意していただければ、なんとか」
「セバース! 聞いたか!」
「すぐにご用意を!」
執事のおっさんがちょっぱやで部屋を出てからというもの、遠くで怒号が響いている。やばい、自分のせいとはいえ相当めんどくさいことになった。
僕は感情の読めないフィオナ様を横目に眺めながら、すっかり冷めた紅茶に口を付けた。
嘘は奴隷と君主の宗教だ 真実は自由な人間の神だ
ゴーリキー 「どん底」




