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34 フィオナ




 それならば話せる場所へ行こうということで、僕は一張羅を着てレイラを連れて爺さんの家にお呼ばれしに出かけた。


 爺さんの後についてロンネルの外壁を抜け市街地を抜け貴族街に入ると、一軒の豪邸へと辿り着いた。爺さんの顔を見た門番がしずしずと門を開けてくれたので、促されて中を進んでいく。


 ウィリアム様の家も大きいけれど、この家も負けず劣らず大きい。ただ違和感というか、妙にピリついた緊迫した雰囲気を感じるが、これはなんなのか。


 ここで待っててくれと通された部屋で、僕は座りながらクラフトリストを見て暇をつぶしていた。


「アル様、ここは不愉快な所ですね」


「物騒なことを言うなよ、どこで誰が聞いてるかわからないんだぞ」


「問題ありません。障害は排除するのみです」


「他所のお家で暴れんなし」


 しれっと問題発言するレイラを横目に連れてきたのは間違いだったかと若干後悔していると、重々しい扉が開いてちょっとおめかしした爺さんが現れた。ってあんたかい。


「着替える必要あったんか」


「はっはっは、まぁしがらみでな。座ってくれ」


 謎の時間を待たされたが、ようやく話ができるようになった。最初は当たり障りのない話から始まって、僕はこれからどうしていきたいのかを話したが、どうにもなにか試されている気がするが顔見知りと腹の探り合いをするのはもうめんどくさいな。


「爺さん、もう知らない仲じゃないんだし、聞きたいことがあるなら聞きなよ」


「ふむ、それでは聞くが、まずわしの身の上を見抜いたのはお前のスキルか?」


「そうだよ。僕には鑑定スキルがあるけれど、まだそれほど情報を読める訳じゃない」


「クラフトスキルの他に鑑定もあるのか、他にもできることがあるのか?」


「主なものはその二つだけど、まぁね。僕のスキルの最大の強みは拡張性と発展性だ、これからに期待してよ」


「……末恐ろしい子供じゃな、果てはこの国の王にでもなるつもりか?」


「まさか、僕は紳士ではあっても没落貴族だし、民間でしかできない事業や救済法があるんだ。王権の簒奪などしなくても国家に貢献することはできるさ。でもね」


「なんじゃ」


「この国を世界一幸せな国にはしようと思ってるよ、とりあえずね」


「なんだと? モンスターに追われ、残された利権を身内で奪い合い、骨肉の争いをしているこの国を、世界で一番幸福な国にするじゃと? お前にはそれが可能だと言うのか! ……ふふふふ、ふあーっはっはっは!」


 気がふれた方に顔を紅潮させて笑い出す老人を僕は静かに見据えていたが、隣で立っているレイラの機嫌がみるみる悪くなってきた。


「アル様、アル様の夢を侮辱する輩を私は許せません。今ここでぶちのめす許可をくださいませ」


『いいでしょう、やりなさい』


「だめだっつーの」


 おいアンサー、僕の脳内だけとはいえ勝手に許可すんな! 思わずそう口に出しそうになったじゃねーか!


『普段タダ飯食らっておきながら恩人の崇高なる志を笑うなどという恥知らずは、切って捨てても構いません。御恩と奉公をわきまえさせねばなりません』


 やかましいわ! 鎌倉武士か!


 僕が脳内でアンサーと口論していると、ギイと重々しい音を立てて大きな扉が開き、さっきまで笑っていた爺さんが真顔で立ち上がった。なんだろうと思ったけど僕もそれに従って立ち上がる。


 やがて通路の奥から車椅子に座った少女が執事に介助されて静かに室内へと入って来た。プラチナブロンドの髪と気品ある面立ちは、直ちに貴人であると察するに十分だった。


「ごきげんよう、本日は当家へようこそいらっしゃいました。私はフィオナと申します、お座りになって一緒にお茶を楽しみましょう」


「これは……お招きいただきありがとうございますフィオナ様。私はアルフォンスと申しましてスラムの外れに居を構え、事業をしております。こちらは秘書兼護衛のレイラです」


「ブライアンからも噂は聞いています、少しお話を聞きたいのですけれど、この後のご予定はよろしくて?」


「はい、空いておりますので差し障りございません」


「結構、では共にアフターヌーンティーを楽しみましょう。ブライアン、あなたもね」


「は、はい姫様」


 ここにきてクレクレ爺さんことブライアンが戸惑いを見せたことから、この茶会が本来予定されたものではないことを察知した。この少女は何者なのか。


 美しい金髪に透けるような白い肌は気品を感じさせ、幼い中にも強い意志を秘めている美貌はカリスマ性を感じさせずにはいられない。まだ少女であるとはいえ、彼女が権力を握ればアイドル的人気を博すだろう。ていうか尖った耳が見るからにあれなんだが、そこんとこどうなのアンサー。


『はいマスター、彼女はお察しの通り廃位されたとはいえブリスデン王室の元王位継承権三位であるプリンセスであり、古のケルトエルフ、つまりアルビオンの血統を現代に蘇らせた体現者でもあります。そしてマスター、膝から下の違和感に気が付きましたか?』


 膝下? ブランケットに隠れてよく見えなかったけれど。


『半魔石化しています。つまり彼女、プリンセスフィオナは呪われています』


 アンサーの答えを聞いた瞬間、頭の中であの音が聞こえた。


『クエスト 呪われし姫君が発生しました』




二ーバーの祈り

神よ、変えることのできないものを静穏に受け入れる力を与えてください。

変えるべきものを変える勇気を、

そして、変えられないものと変えるべきものを区別する賢さを与えてください。


ラインホルド・ニーバー 神学者

※(神によって植えられた場所で咲きなさい と同作者)

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