33 進捗
あれから数日経ち、僕達に敵対する大きな組織を壊滅させたのでしばらくは安全だろう、ということでこの機に従業員全員の住居と制服を支給した。
アマンダ達には清掃部を新設し、新型掃除機マルチクリーナーを渡して引き続き煙突掃除をしてもらうことになった。幸い弟のジョナスもトラウマにならずに掃除の仕事に意欲的なのでそのまま従事してもらうことにする。
マルチクリーナーや制服装備の使い方一式をみんなに教えたら営業開始だ。初回キャンペーンで相場の半額で煙突掃除しますと新聞で広告を打ったら、スラム出身の事業主ということもあってうさんくさがられたが、ちょこちょこ仕事の依頼が入るようになってきた。
当然相場と同じかそれより安く請け負っているため同業者から恨みを買っているが、煙突掃除人見習いは希望すれば全員従業員に加えるつもりなので問題ない。困るのはこれまで安月給と劣悪な環境でこき使ってきた親方連中ばかりだからだ。
そんな奴らでも交渉してくれれば見習いの労働待遇改善を条件にレンタルリースでクリーナーを貸し出すことにした。これで業界が少しずつでも変わっていってくれればと思う。
そして同時にアヘンに関する薬害問題改善を保守系の新聞に寄稿した。内容はアヘン使うと疲れが取れるようだが誤魔化しているだけでとれていない、きちんとした休息が必要であり、雇用主と国には労働者に健康で文化的な生活を与える義務があると書いた。割と反響があったので今後もコラムで続けていく予定だ。
僕には過ぎた力があるが、一方的に相手を叩くのは良くないと思っている。どんな悪人にもそれなりの言い分があり、家族がいるのだから。そして社会的にまだ問題視されていない課題などは人々の支持を得るのに時間がかかる。
焦って暴力に訴えればそれこそビルのやり方となにも変わらなくなってしまう。遅くとも確実に正攻法で真正面から誠実で堅実な勝利を勝ち取るべきだ。それが本当の繁栄への道だ。
この世界と僕がいた元の世界は似ているようで違っている。もしかしたら僕がこの世界で活動することがなにかしらの形のバタフライエフェクトとなって、元の世界に影響を与えてしまうかもしれない。考えすぎかもしれないが、現代社会から転生してきた者としても紳士としても後の世に悪い影響を与えるのはできるだけ避けたいものだ。
さて事業の話をしよう。
今A&ACが手掛けているのは主に清掃とリサイクルだ。準備が整ったことでテムス川でのデンジャーな釣りも行っているが、あれは清掃の一貫と言っていいだろう。
テムス川の主を釣ったから後は大きくてもボス級のモンスターはいないと思うけれど、もし危ない目にあったら即時撤退と報告を申し伝えてある。意外にも飲んだくれのガスコインがテムス川の釣り部門責任者になってくれたので、任せてある。元軍人なのでいざとなったらうまく対処してくれるはずだ。その、酔っぱらってなかったらだけど。ガスコインはなぜか釣りスキルを持っているので適任だと言える。
これによりガスコインや経験者がモンスター魚を釣り上げてそれを倒し、みんなで最低限のレベリングをするというローテーションが確立した。ビルをぶっ飛ばした僕にはもう微々たる経験値しか入らないが、スラムに暮らす子供達にとってはそうではない。比較的安全に基礎体力や魔力が上がることから、体感による経験値の減衰が起きるまで全ての従業員にまずこの釣ってからボコす、通称釣りボッコをさせることにした。
他にも新しい試みとして釣竿には竿先アタッチメントとしてゴミを吸着する魔力式マグネットを装着できるようにした。これによってテムス川の湖底にある様々な木材や金属、腐敗の原因物質を回収、除去できるはずだ。
議会や冒険者ギルドの動きを待っていてもいつになるかわからない。ならば自分達で積極的に動こうという方針だ。
まだ事業というほど成熟してはないが、農業も始めてみた。クラフトされた農薬を散布するだけで驚くほど早く農産物が生産できている。
植物の育成に窒素が必要なのはこちらでもそうなのだが、空気中の窒素を取り込む作物としてマメ科の植物がある。
マメ科植物は土壌微生物の根粒菌と共生し、根に根粒を形成する。根粒菌は根粒の中で空気中の窒素をアンモニアに変換する窒素固定を行い、固定した窒素をマメ科植物に供給することで、マメ科植物を大きく成長させるのだ。
畑には大豆を中心として他にもジャガイモやサツマイモ、オートミールのもとになるオーツ麦なども試験的に作っているが、割と順調だ。近いうちに従業員全員で枝豆ビールでパーティーしたいもんだ。まあ今の僕は飲めないけれど。
十分な栄養と休息があれば、アヘンなんて必要ない。少なくとも従業員、特に子供達には使わせないのが我が社のルールだが、徐々にこれをロンネル、ひいてはブリスデン中の常識にしたいと思っている。
アヘンの蔓延にしてもそれで生計を立てている人がいるし、過酷な労働やダンジョンアタックには必要不可欠だと思われているのでいかんともしがたい。前の世界の活動家のように派手な抗議をすれば下手すれば仲間の命にも関わるだろう。僕は最高権力者としても安易な手をとる訳にはいかないんだ。新聞や社会貢献などで徐々に理解してもらうしかない。
つらつら考えて過ごしいていると、ふと見知った顔と目が合った。あの爺さんだ。
「やっほー、元気してた?」
「そりゃこっちの台詞じゃ、お前さん体はもういいのか?」
「最近は無理してないから大丈夫、こっちの体制も整ってきたしそろそろそちらのお話を聞かせてもらおうかな」
バタフライ・エフェクト
バタフライ・エフェクト(バタフライ効果)とはカオス理論における概念で、非常に小さな初期条件の変化が、時間が経つにつれて大きな結果をもたらす現象を指します。
この概念は、気象学者エドワード・ローレンツが提唱しました。彼は1972年に「ブラジルの蝶の羽ばたきがテキサスで竜巻を引き起こすか」という講演を行い、この理論を広めました。バタフライ・エフェクトは、些細な出来事が複雑な因果関係を通じて、予想外の大きな影響を及ぼす可能性があることを示しています。
例えば、一匹の蝶が羽ばたくことによって生じる微細な空気の動きが、遠く離れた場所で大きな気象変動を引き起こす可能性があるという比喩的な表現がされています。この理論は、物事を観察する際の視点や、小さな変化の重要性についての理解を深めるためにも役立ちます。




