31 救出
「げぇ! なんだお前は!」
「説明している暇はない! バトルステッキ! ふん!」
「きゃあああ! う、うちの暖炉が! あぁ……」
「奥様!」
即座に超紳士へと変身した僕はバトルステッキを召喚し暖炉のレンガに叩きつけると大きな爆発音がして大穴が開いた。破片は壊しながら回収しているから危険はないとはいえ、立派な暖炉を破壊された衝撃でこの家の奥様は気を失ってしまった。ボロボロと崩れ行くレンガの穴の奥から少年の細い脚が覗くと、僕は飛び上がって落ちてくる弟君を受け止めた。迅速かつ落ち着いて彼を床に寝かせたが意識も呼吸もないようだ。アマンダの悲鳴が上がる。
「ジョナス、しっかりして! ジョナス!」
「離れるんだアマンダ、心肺蘇生を開始する! アンサー、サポートを!」
『了解! まず気道を確保しつつ両乳首の間を手のひらの付け根で圧迫します、適切な力加減とスピードを守ってください、行きますよ! 一、二!』
「三、四、五、六!」
「あ、あんたジョナサンになにをして」
「近づくな気が散る! レイラ!」
「かしこまりました」
レイラがアマンダを拘束するが、彼女は抵抗した。だがメイドはそれを許さない。
「無駄な抵抗はやめなさい。今、アル様はあなたの弟を必死に蘇生させようとしているのですよ? あなたには他に死にかけている弟を救う方法を知っているのですか?」
「それは……」
「信じて見守りましょう」
「はい」
アマンダをレイラに託したので、後はこの子の意識を呼び戻せば万事解決だ。僕は必死に弟君へと語り掛けつづけた。
「ヘイヘイどうしたんだジョナス、起きるんだ。まだ十歳にもなってないんだろ? これから楽しいことは山ほどあるぞ。そうだ、アイスは好きか? ああ食ったことないか、でも意識を戻したら腹一杯食わせてやるぞ、すごく美味しいんだ。だから起きろ! 生き返れジョナス! 息をしろ! 息をするんだ!」
「ごはぁ! ……ごほっごほっ!」
『対象の呼吸確認! 回復体位を取らせてください!』
「了解!」
ジョナサンを横向きに寝かせて頭を持ち上げて上側の手を顎の下に入れ、足は上側を90度位に曲げて倒れないようにして安静を保った。その間に各種健康促進バッジを付けると次第に息が落ち着いて目の焦点も合ってきた。レイラにアマンダを開放するように言うと、彼女はジョナサンのもとへと駆け寄った。
「ジョナサン、私よ! お姉ちゃんよ! わかる?」
「姉ちゃん? 僕は確か煙突の中で……ここは天国なの?」
「違うわよバカね! 心配させるんだから!」
ぽたぽたと涙を流して弟を抱きしめるアマンダを見た僕はやり遂げた気持ちになってほっと息をついた。だがそこに水を差す奴が。
「おいおい貴様ぁ! 勝手なことをしやがってどうしてくれるんだ!」
「なにか問題が?」
「大ありだ! 見ろこの惨状を! 暖炉はボロボロで見る影もないじゃないか! なんだこんなことをした! 警察に突き出してやる!」
「ほう?」
僕は煙突掃除人ガムフィールドの胸倉を片手で軽々と掴んで持ち上げた。ビール腹の太った体が易々と持ち上がり、苦しそうにもがく両足が宙を蹴る。超紳士には造作もないことだ。
「いいかよく聞けこのクズが、貴様がやったことは立派な殺人未遂だ。それによく見ろ、子供達の姿を。やせっぽちでとてもまともに食事しているようには見えない。煙突掃除人の親方は見習いを養う義務があるが、明らかにそれを怠っているだろうが。警察に行く? 実に結構だ! 警察署でお前の悪行を洗いざらい暴露してやるから覚悟しろ!」
「ひっひぃぃぃぃ! 勘弁してくれ! 中で窒息してるなんて知らなかったんだ! それに見習いにろくに飯をやらないのはこの辺りじゃ当たり前だ! 太ると煙突を登れないからしょうがないんだ! お、俺は真面目に仕事をしていただけなんだ、助けてくれぇ!」
醜い命乞いだが一理はある。確かに最低な労働環境だが、今この時代のこの国ではこれが常識なのだ。僕は荒々しくガムフィールドを床に落とすと、小銭をばらまいた。
「拾えよ。そして今日からお前は煙突掃除を辞めて別の仕事をしろ、それが私がお前を見逃す条件だ。もし次この仕事をしているのを見かけたら……」
僕はバトルステッキを一振りして近くの床を粉砕し、大穴を開ける。
「お前の頭をこうしてやる。わかったな?」
「はっはい!」
「じゃあさっさと行け! 就職活動だ!」
「うわああああああ!」
僕がバトルステッキを突きつけると、ガムフィールドは弾かれたように小銭を拾って出て行った。あのおっさんはこれでよし。後は。
「ふむ、乗り掛かった舟だから最後までやっておくか」
僕は床を修復してから一旦暖炉を跡形もなく破壊し、破片を一つ残らず収納していった。その間子供達やこの家の人達は実に静かだった。まぁ二Mある紳士がステッキで暴れていたらそりゃビビるわな。
やがてあらかた整地し終えた後で変身を解き、元の少年アル君へと戻ったあたりでこの家のご婦人が目を覚ましたので挨拶する。
「ごきげんようマダム、僕はアルフォンスと言います。実は僕は何でも屋をやっておりまして、先ほど廃業した煙突掃除人に成り代わってこの度煙突掃除を始めようと思っているのですが、お宅の煙突もいかがですか?」
「いかがですかってあなた、もう跡形もないじゃない! うちの暖炉は先祖代々受け継がれてきたザマスのに!」
「ご安心あれ」
僕は暖炉のあった方へ手をかざすと、クラフト技能を使用してみるみる暖炉を修復して数秒後には元の位置に奇麗になった暖炉を再現した。それには僅かばかりの煤やタールも付いておらず、新品と見まごうばかりの出来栄えであった。
「ご覧ください、マダムの暖炉は新しく生まれ変わりましたよ。どうぞ自らの手でご確認を」
へたり込んだご婦人がメイドの手を借りて立ち上がると、ふらふらと夢遊病患者のように暖炉を確認して喝采を上げる。そこですかさずアピールをかます。
「今回は初回特別サービスで新品同様にさせていただきました、いかがですが?」
「ええ、ええ! 素晴らしいわ! 長年こびりついて落ちなかった汚れも奇麗に落ちている!」
「ご満足いただけて幸いです、これからもご用命があれば町外れに住んでいるアルフォンス向けに連絡をいただければすぐに駆けつけます、ぜひご活用ください」
「ええわかりましたわ! それであなたの会社の名前はなんと言いますの?」
「会社名? そうですね……A&Aカンパニーと申します、以後お見知りおきを。さぁみんな、僕達の会社へ帰ろう。これから君達は全員我が社の従業員だ、忙しくなるぞ!」
自由よ、汝の名の下でいかに多くの罪が犯されたことか
ロラン婦人




