29 スラムの支配者
目が覚めるとあれから十年後の未来だった。なんてことはなくちゃんと次の日だったので安心した。でも体が全身筋肉痛のバキバキでちょっと動くだけでも大変だ。原因は心当たりしかない訳だが、あの変身がこんなに大変だなんて思ってもいなかった。
しかし体内魔力は満タンだしLVも八に上がり、モチベーションもやるべきことも爆増な訳なので、粛々と計画を立てる。
レイラの修理を終えた後はまずは住居の拡充だ。オリバー兄妹は一緒にしといて、マイケルとブランドもしばらくは同居でいいだろう。整地含めてクラフトでできるので、この際付近の空き家を取り壊してガンガン二階建てアパートを作ることにする。LVは一上がるだけでも相当変化が激しくて、こんなことも簡単にできるようになった。しかもまだ余力があり熱も出てない。筋肉痛が痛いから距離は移動できないけどね、仕方ないから今日は家の周りでできることをしよう。
僕の収納と紐付いたトイレも作った。これはいわゆる仮設トイレのような構造なのだが、底の方に仕掛けがあってレバーハンドルをひねれば汚物をそのまま収納し分解して分類、バイオ燃料や肥料として再利用できるようになるというものだ。これで糞尿の処理は完璧で匂いも出ない。
飲み水は僕の家の前に給水所を作った。これも僕のインベントリに直結していて水を供給しているが、この機械は雨水や汚水を即座に処理してきれいな水にすることができるので、当面水不足の心配はなさそうだ。
これらは厳密には魔道具であり、漂う魔素を蓄積して使用することもでき、どうしても足りなければ魔石や僅かな使用者の体内魔力でも動くので、僕がいなくても十分機能する。
ここにきて一気にクラフトが進んでいるのはある称号を手に入れたからで、その名もスラムの支配者だ。実際現時点でスラムを支配しているかと言われたら微妙なところだが、アンサーの視点ではそうなんだろうなと思っている。
称号を獲得するとクラフトアイテムや特典がアンロックされるようで、これが凄まじい効果を発揮する。今まで持っている称号は魂の旅人で、これを保有しているからクラフトなんかを使えているらしい。
新たに生えたスラムの支配者の効果は、スラム地域に限って精製されるクラフトに補正がかかるもので、要するに作る魔力や材料のコストを低く抑えることができるようになったのだ! それによってアパート丸々一棟建築という離れ業も可能になった。まだ平屋しか建てられないけど現在では十分だ。
そしてなにより大きいのは作業台と共有チェストの設置だ! これの偉大なところは僕じゃなくても魔力と材料を使用して簡単なクラフトを実行可能な点だ。作れる物こそ最初は布や木の板、糸、ボタン、釣竿など簡単な物ばかりだけど、僕のLVが上がったり住民が増えるなどのクエスト達成条件で作れる物も増えるようだ。共有チェストは今のところ入れる専用だが、そのうち使用者を限って出し入れ自由にしてみたい。働けない子供達もせっせと素材を集めてくれるのでここでは貴重な人材だ。
なんだか段々ストラテジーゲームのようになってきて非常に楽しい。あと最重要問題に衛生があるが、これを改善するアイテムも開発した。その名も魔法の衛生マット。そのままだ。
これはこの上に乗って使用者の魔力を僅かに消費することで、肌や着ている衣服に付着する有害な成分やノミやシラミなんかも抹殺し、消毒消臭清潔にしてくれる今後の生活において超重要なアイテムだ。
ぶっちゃけスラム街そのものが臭いのはもちろんだが、住民達もみな臭いのだ。みんな臭いもんだから多分気にしていないんだろうが、僕にとっては耐えられない。テムス川がまともな川なら水浴びもできるんだろうが、やべー魚が襲ってくるような汚染川だから無理だ。自然と雨で体を洗うぐらいしかできなくなっていたので、みんな頭皮や髪がギトギトなのが普通だった。
だがこれからは違うぜ! うちに来る全ての人間はこれを使用しなければならないこことする! ダンテの地獄門にはこの門をくぐる者は一切の希望を捨てよと書かれているらしいが、我が家の門をくぐる者は一切の汚れを落とせと言いたい。
上に乗れば五秒ほどで全身目立った汚れを落としてくれるので、これを健康で文化的な生活の一歩として定着させたい。
早速二つ作って設置してみたが、予想どうり大好評だった。特に女性にだ。熱狂というか発狂をもって迎えられてしまった。
「きゃああああすごいわこれ! 髪がサラサラよ!」
「肌もピカピカになるわ! 私じゃないみたい!」
変わった姿を見たいとのことなので急遽姿見も作って置いておいたが、えらい騒ぎだ。魔力使うって言ってんのにより奇麗になりたいからってクリーンを繰り返す夜職のお姉様がふらふらになっていたので、注意書きの看板も立てた。読めない者もいるが、ないよりはマシだろう。
ご飯食べる前に奇麗にしてねって話なんだが、それどころじゃ収まらんようだ。朝飯を貰いに来た爺さんと話をしようにもお姉さま方に囲まれてしまったので今日も遠慮してもらった。
朝の炊き出しラッシュと衛生マット騒動も終わり、さて今日はなにするかなと思っていると、ふらりと真っ黒な子供が現れて突然倒れ込んだ。急いで駆け寄ると、水が欲しいというので、アル君の美味しい水を少しずつ飲ませてやると徐々に意識がはっきりしてきた。
よく見るとこの子の全身を煤が覆っており、僕の服も汚れてしまった。まぁそれ自体はいいんだが、これはまた見過ごせないね。紳士としてはさ。
名前:作業台*
効果:クラフト制作
価値:?
アルのクラフト制作を他人が魔力と材料を消費して使用できるようにしたもの。最初の内は簡易な物しか作れない
名前:共有チェスト*
効果:物品の収納、取り出し
価値:?
生き物以外の大多数の物を収納できる。取り出せるのは限られた者だけ
名前:魔法の衛生マット*
効果:清潔、衛生、有害物質除去
価値:☆☆☆☆
マットの上に乗って魔力を流すだけで、殺虫から消毒消臭まで様々な衛生効果が得られる。こびりついた汚れを落とすには相応の魔力が必要
どんな専制政治であっても個性が存在するかぎり、最悪の事態をもたらすことはない。逆に個性を押しつぶす政治があるとすれば、どんな名前で呼ばれていようと、それこそが専制政治である
ジョン・スチュアート・ミル




